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【オリジナル】君の話  その1

僕は高校デビューに失敗した。

いや、目立ちたいとか、人気者になりたいとか、
リア充になりたいとかではなかった。

ただ単に、普通の高校生活を送りたかっただけ。

4月の後半に差し掛かった今。
僕は友達はおろか、学校で言葉を発することすらないのだ。

こんなはずじゃなかった。
そう思って僕はこの状況を打破するために勇気を振り絞りある行動に出た。

彼女はついにやってこなかった、、、

確かに下駄箱に入れたはずだった。

同じクラスの馬場さんの下駄箱に。

人生初のラブレターを。

ん、ラブレターじゃないか。

ただ、「放課後、裏門の桜の下で待ってます。」
と書いただけだ。

確かにラブレターではない。

しかし、その放課後の裏門の桜の下に
彼女がやってこないと言うことは、、

これは、フラれたってことなんだろうか、、、

結果を
焦りすぎたと言うことなのだろうか、、、
ああー、あれか?

名前書き忘れたのか?

ちなみに馬場さんを好きな理由はシンプルに、
『顔がカワイイ』だ。それ以外ない。
というか、僕は話したことすらない。

いや、まだ大丈夫。
チャンスはあるはずだ。

と自分を励ましてみるも、
出てくるのは、ため息ひとつ。

僕は、入学から
二週間、事故で入院していた。

そのお陰で、、
高校デビューに見事に失敗した。

僕が学校に通い始める頃には、
入学式はもちろん終わり、クラス内にはグループが出来上がっていた、

もちろん、孤立を気にして話しかけてくれたクラスメイトもいたけど、
元々、コミュ障の僕はうまく言葉を返すことができず、
引きつった笑顔を返しただけだった。

あとは君の想像通りさ。

だって、クラスメイトの下駄箱に、
「友達になってください」と手紙を入れるのは気持ち悪いだろう?

あぁ、また学校に行くのが億劫になってきた。

現に今だって、正門の方から帰るのが何となく嫌だから、
こうやって人通りのない裏門の方から帰るわけだし。

裏門の横には遅咲きの大きな桜がポツンと立っていた。
正門の方にある桜はもう散ってしまったが、
こちらの桜は八分咲きと言ったところだった。
先生の話によると、この古木はもう寿命らしく、
近々、伐採されるということだった。

ただ、まるで誰にも見向きもされないその老桜は、
自分と似ているような、妙な親近感を沸かせた。

きっと今まで数えきれないくらいの人々を見守ってきたことだろう。
それも、もう今年で終わりなんだと思うと、何とも言えない気持ちになった。

急に風が強く吹き、
夕陽に照らされたオレンジ色の
桜の花びらが舞った。

「あのー、、」

背後からの声に、
僕はドキッとした。

まさか、馬場さんが、、、

「、、、?」

振り返ると見知らぬ女子が立っていた。

いや、知っている。

クラスメイトだ。
青みがかった黒髪は肩までの長さのミディアムショート
身長は150センチちょっと、痩せ型の
いかにも平均的な女子高生って感じだ。

クラスの中では案の定、目立たない存在だった。

彼女はぶっきらぼうに
「桜、撮りたいんですけど?」といい、
おもむろにスマホを取り出し、
訝しがるようにこちらに視線を向ける。

「あ、、、あー、ごめんごめん。」

そそくさと、僕が桜の側から退散すると、

そのクラスメイトはスマホで写真を撮り出した。

「ここの桜だけ遅咲きなんだよね。正門の方の桜は
もう全部散っちゃったし。」

あぁ、確かに先生が言ってたな。

「こんなところで、一人ぼっちなんて、、」
彼女は振り返り
「まるで、君みたいだね。」

なんだそれ。
急にグイグイ来るなよ‼︎
クラスメイトとはいえ、
ほぼ初対面の人間に。

「私の名前、覚えてる?」

えー、、、と

昔からクラスメイトの名前を覚えるのが苦手だった。
沈黙イコールわかりません。
の回答になってしまう、、、
そんな思いを巡らせながら、、
桜を見て、ピンと来た。

「確か、、、サクラって、名前じゃなかったっけ?」

彼女は少し驚いた表情を見せて、
「正解‼︎」
と笑顔で答えた。

苗字は覚えてないけど、、、

ともあれ、助かった。

「ちなみに、サクラさんの方は、、
その、、僕の名前知ってます?」

「なんで敬語?ウケる‼︎」
彼女は急に腹を抱えて笑い出す。
「サクラでいいよ。」
そりゃ、高校に入って初の女子とのツーショット。
緊張しないわけがない、、
「いきなり下の名前で呼ぶなんて馴れ馴れしいな。」
うっ、確かにそうかも、ミスったかな。
「ってか、あれでしょ。わたしの苗字、覚えてないんでしょ?」
「それで、話題を逸そうとして、逆に名前を聞いてきたわけだ。」

「クラスじゃ、影が薄いからなぁ、
チヒロくんは。喋ってるところ見たことないし、、、」

「知ってんじゃん。名前。」

「宜しくね。」
夕日の逆光をものともしない、
素敵な笑顔だった。

思い出したようにサクラが言った、
「そういえば、チヒロくんはこんなところで何をしてたの?」

「え、、、あー、、、いや、、、
裏門の方が、家に近いからさ。こっちから帰ってんだよね。」

まさか、馬場さんを呼び出し、シカトされたとは言えないよな。
苦し紛れの返答に、サクラは訝しがりながら、
「ふーん、そっか。」
「まぁ、そういうことにしておこう。」
なんだその、さも『私には全てお見通しよ』って言い方は。

「もう桜の写真も撮ったし、じゃぁ、わたしは帰るから。」
「お、おう。」
そんなやりとりで、その日僕らは別れた。

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