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オオカミ少年の真実 その2

「おい!ヤックル!」

背中で声がした。嫌な声だった。
振り返ると、アイツらがいた。

ここは村から少し離れた丘の上、僕は一人になりたい時、
いつもここにきていた。

「何か用?」僕はうざったそうに、
(というか本当にうざったいんだけど・・・)言った。


「ここはオオカミが出るから来ちゃいけないんだぞ。」
アイツらのリーダーが言った。アイツら・・・名前は覚えていない。

僕は都合の悪いことは忘れるようにしている。
『アイツら』は僕にとっては関わり合いたくない存在だった。

アイツらは常に僕をいびらせようとしてくる。

「いつも、誰かを悪者にして、優越感に浸ってるんだ。
肝の小さいやつらさ。だから、仕方ない。
こちらが大人になってやらないと・・・」

まぁ、これははミカが言ってたんだけどね。

君はミカを知らない?やれやれ、僕の親友さ。

そばにいてほしい時にそばにいてくれる。
いつも客観的な言い方をするから、
冷たいやつって思われがちだけど、
心の底では熱いものを持って、いつも味方でいてくれる。

そういう『良いヤツ』なんだ。

アイツらだけじゃなく、村の人からいつも、
仲間はずれにされている僕の心の拠り所さ。

でも、ミカは人見知りだから、
誰かがいるときは大抵姿を隠してるんだ。
だからこの時も、僕は一人で立ち向かわなくちゃいけなかった。

いや、戦うなら、一人でも戦う勇気を持たなくちゃな。
これは、僕の人生なんだから。人をあてにするな。
まずは自分の足で立つんだ。
全てはそこからだ。

だけど、この時のアイツらは、やり過ぎた。
言い合いの末、取っ組み合いの喧嘩になりそうになった時、
アイツらは僕のことを崖下へ突き落としたのだ。

「くそっ!」

落下した僕は、アイツらを追いかけて
仕返しをしてやろうと思った。
でも、出来なかった。
転げ落ちる時に全身を打っていた。
激痛で歩くこともままならなかった。


後でわかった話だけど、右脚の骨と肋骨が折れていた。
それでも、お医者さんは、
「命があっただけでもありがたいと思え」と、言っていた。

くそっ!誰も僕のことなんか大切に扱っちゃくれない。
でも、それでいいさ。

いずれ、僕はこの村を出ていくのだから。
両親のいない独り者なら、この村にとどまる理由はない。

都で商売でも始めるさ。
頭を下げるなら、この村の薬を売ってやっても良い。
アイツらをこき使ってやる。

そんなことを考えると、少し心が落ち着いた気がした。
未来に希望が持てる気がした。

そう、『ノーチラスの約束』もあるしな。

ちょっと話がそれちゃったけど、
その崖から突き落とされた時、
その時だ、傷痍軍人のナドレに出会ったのは。
怪我を負った僕を家まで運び、介抱してくれた。


都からこの村までは険しい山を二つ越えなければならない、
慣れてる村の若者でも大変な道のりだ。
その上、村の周りにはオオカミたちも出る。
基本的には夜行性の彼らだが、ここ数年、
旱魃(かんばつ)が続いて、作物が育たなくなっている。

そのせいか、小さな動物も減り、
最近ではオオカミたちは村のかなり近くまで
やってくるようになった。

以前は、安全な山道があったのに、
今はそこもオオカミが出るようになってしまった。

それでも、村を覆う『神の葉』がある限り、この村は安全だ。
誰もがそう思っていた。

もちろん、この僕もね。


その3へ続く


エニヲ


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