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星語り その3

やがて、
星の命は残り少なく、光も弱くなっていった。

それでもまだ、人には見つけてもらえず、

彼には名前がなかった。

神様は結果を与えない。

試練を与える。


腕を犠牲にしなければ、光り続けることはできない。
それでもやるか?

はい。


このままではダメだ。今度は目を犠牲にしなければならない。
それでもやるか?


はい。


今度は耳だ。二度と音を聞くことはできなくなる。それでもやるか?


はい。


名もなき星の命は風前の灯でした。


それでも、彼は名前を得るために光り続けることを
やめませんでした・・・


できる限りのことをしました。
ここまできて、ここでやめたら、
僕は何のためにここまでやってきたのか。
もうテトラの元へ帰れるだけの、
命の時間さえ残っちゃいないんだ。

友達の一人もいない、誰にもこの苦しさは理解できない・・・
この宇宙に一人ぼっちなんだと感じ・・・負けそうになりました。

そんな時は、全てを忘れ、ただ目の前に集中する。
そのことだけを考えるよになりました。

それでも、時折、
昔のことを思い出します。

テトラと一緒にいた頃、今の僕にとっては幼い、覚束無い記憶。

今思えば馬鹿だったのかもしれないな。テトラ・・・
君の忠告を聞いていれば、
今頃平和に暮らせていたのかもしれないな。


いや・・・・無理だ。

無力さと、無意味さに押しつぶされそうだ。

神様・・・神様・・・・
なぜ僕は生まれてきたのでしょうか?

この世界はもういい

だから・・・神様・・・・
せめて、最後に夢を見せてくれよ・・・

名前なんてなくても、僕は僕なんだから!

その刹那・・・・

星は足を滑らせました。

地球の重力の線を超えてしまったのです。

いつか、優しい星が教えてくれた忠告を忘れてしまったのです。
「しまった!」


声を出すより早く、落ちていきます。
グングンとそのスピードは早まっていきます。

どこまでもどこまでも、重力の底へと落ちていきました。


青い血を宿した星。数多の命が蠢く場所。


空気の摩擦で、体はどこまでも熱くなっていきました。


それが、星の意識と命の鎖を断ち切ろうとします。


そうか、

ここに生きる人たちも
僕と同じような不自由を抱えてんだな。
重力の井戸の底で。

ふと神様の顔が浮かびました。

彼の頭の中の神様は笑っていました。

いつか、この星を馬鹿にした奴らと同じ、
憐れみを称えた不快な笑顔でした。
少なくとも星にはそう感じました。
プツンと何かが切れる音がしました・・・
その瞬間、星は理性を失いました。
うおおおおおおおお!!


それは魂の叫びでした。世界への、神様への、
何より自分への怒りでした。
やり場のない感情が、叫びが、大きな光となって、
空を引き裂いていきました。

その光は流れ星となり、たくさんの人がそれを見上げました。


ついに、星の存在は人に知られることになりました。


しかし、すぐにその流れ星は消え、
しばらく時間が経っても、
その星に名前がつくことはありませんでした。

その代わり、その流れ星以降、
誰に教わったわけでもなく、人は流れ星を見ると、
祈りを捧げるようになったのです。

まるで、あの星に祈りを捧げるように。



エニヲ

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