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「動物福祉のために発音を教えています」ロンドン在住Yukiさんが社会貢献活動に熱心な理由

オンライン英語発音講師のYukiさんは、日本、香港、ニューヨークの3拠点で二人の子どもを育て、現在はご主人と2匹の愛犬とロンドンで暮らしている。驚くのは、講師になった理由が動物福祉普及のためだと言うこと。
今回、Yukiさんが英語を勉強するようになった経緯、そして動物福祉活動への想いを伺った。

英語を学び始めた動機は、世界の困っている人々のために働きたいと思ったから

「17歳の時、40年以上前になりますが初めてタイへ行く機会がありました。その時の光景にショックを受け、困っている東南アジアの人々のために働きたいと思いました。そのためには英語が必要だと思いました。

タイの様子は今みなさんが想像するようなものではありませんでした。路上でものを売る子どもたち、水頭症の赤ちゃんを路上に置いてお金をもらうお母さん。日本しか知らなかった私はその光景にとてもショックを受けました

ーー10代でその経験は衝撃が大きかったでしょうね。英語を使ってどんなことをしたいと思ったのでしょうか?

「この出来事がきっかけで、国連や青年海外協力隊に入り、貧しく困っている世界の人たちを救いたい、そのために英語を学びたいと思うようになりました」

ーー実際に英語を専攻する大学に進学されたんですよね。当時受けられた大学での教育は、今でもとても役立っていると聞きました。

「そうですね。大学は語学教育で有名な大学だったのですが、英詩、シェークスピア、バイブルスタディ、英語学、英語史、英米文学等、卒業してアメリカのどの社会に出たときにも恥ずかしくないだけの知識と教養は教えていただきました。私が得意だったのは、音声学(BritishPR)と言語学でした。これらの知識は夫のお付き合いの場で本当に助けになりました」

なんて狭い世界で生きてきたのだろう」

ーー大学卒業後には交換留学を斡旋する会社に勤めたと聞きました。そこではどんな仕事を経験されたのでしょうか?

「私は高校生の交換留学を担当していたのですが、小さな会社だったので通訳・翻訳からなんでもさせてもらいました。

高校生の交換留学は世界各国から集まった生徒が互いに文化交流をし、異文化理解を主たる目的としています。与えられた1年を自分だけでなく、相手先のファミリーや高校に適応し、いかに文化の貢献できるかを学びます。

毎年、交換留学生の高校生たちと一緒にアメリカのオリエンテーションに参加しました。オリエンテーションの運営は、アメリカ人や世界各国から集まるスタッフたちと共に行います。その体験を通して私自身英語力が大きく伸びましたし、ほかに多くのことを学びました。『なんて狭い世界で生きてきたのだろう』と空が広がる想いでした。振り返ってみても、私の人生を変える大事な経験になったと思います

障がい者やお年寄りなど弱者に優しいアメリカ社会

その後、結婚をし、ご主人の仕事の都合で本社のあるニューヨークに渡ることになったYukiさん。それ以前にもご主人がアメリカ人のため何度もアメリカには滞在した経験はあったものの、短期滞在と住むのでは見えるものが違ったという。アメリカでは幾度となく人間の暖かさに触れる経験をし、その経験が社会貢献活動を始めるきっかけになったと話す。

ーーどのようなことがあったのでしょうか?

「アメリカでは台風が来るとよく停電になります。停電すると何日も続くことが多く、通っていたスポーツクラブは自宅でシャワーが使えない人にシャワールームを開放して、無料でシャワーとタオルを貸し出しました。会員はいつもよりシャワーは待つことになるし、使えるタオルの枚数も減ってしまう。それでも誰も文句を言いませんでした。

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▲ニューヨーク郊外コネチカットグリニッチの写真。マンハッタンから車で40分の距離ながら、自然が多く残されている。木をトリミングすることを好まないので、台風が来ると木が倒れ、停電になることも珍しくないのだとか。

道端で困っている人を見かけたら自然と手を貸す、そんなことは日常茶飯事なんですよ。

根っこにはキリスト教の相互扶助の精神から来ているのかもしれません。困っている人を助けることに躊躇がない。ただし、自分が助けられる余裕がある時はやる、そうでない時はやらないとさっぱりしているんです。見返りを求めないアメリカの助け合いの文化が私は好きですね。私もたくさんの人に助けられてきました。その経験から、私も世界の色々な人に出来る限りよくしようと、心からそう思うようになりました

ーーアメリカでは社会貢献活動に熱心な人が多いと聞きました。

「印象的だったのは、ある老年のご婦人に出会ったこと。彼女は自己資金を使いご自身でアフリカへ行き、学校を建てる活動をしていました。私も東南アジアの人々を助けたくて英語を学び始めたこと、今でもそのような活動をしたいと思っていると話すと、彼女にこう言われました。

For now, stay focused on the task at hand. But one day, the right opportunity will come at the right time.
(今は現在しなくてはいけないことにフォーカスしなさい、自分が願っていればそのときは訪れるでしょう)

当時、子どもがまだ小さかったので、まずは自分の子どもをきちんときちんと育てることだと思いました」

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▲Yukiさんの愛犬たち。東京から自然豊かなロンドンへ引っ越してから、犬たちはいきいきとしているそう。

「動物福祉のため、世界の問題に目を向けてくれる人を一人でも増やすために英語を教えています」

Yukiさんは外国で暮らした期間を経て、世界で起きた出来事が驚くほど日本人に正確に伝わっていないということに気がついた。日本のことなのに都合の悪いことは報道しない、上からの圧力に屈する日本の報道のあり方に疑問を感じたという。

「特に動物福祉における一般人の意識の欠如、企業のあり方に心を痛めました。そして動物福祉をはじめ、報道されない日本の問題、そして世界の問題に目を向ける日本人を一人でも増やしたいという想いから、英語発音講師を始めることにしました」

動物福祉のため、世界の問題に目を向けてくれる人を一人でも増やし
virtuouss circle(好循環)を作りたくて、英語を教えています

Yukiさんは初対面の生徒には必ずそう話してから授業を開始する。

アニマルウェルフェア(動物福祉)が進まない日本

日本へ帰国後、動物福祉が進まない現状を目の当たりにし、驚きショックを受けたという。

ーー帰国後、Yukiさんの目から日本の動物たちの置かれている状況はどのように映ったのでしょうか?

「街中で大々的に宣伝される毛皮フェア、ペットショップ、渡米前にはなんとも思わなかった景色が急におかしなものに見えました。

みんな話をすると『私は毛皮は持っていない』というんですね。でも、手袋の縁についている毛皮、髪の毛に髪飾りに使っている毛皮、すべて生きている動物から剥がして作った毛皮です。また、外国には内容表示義務がありますが日本にはありません。犬猫の毛皮は安く手に入るので日本では頻繁に使われています。

せめて自分が口に入れるものについてはきちんと調べて購入したいと、食材に拘っていると謳う食材宅配業者に問い合わせました。すると、「抗生物質を飲ませてませんので(人間には)安全なお肉ですよ!」という返事。家畜動物がストレスのない環境にいるかを知りたかったのに、なんど聞いても人間にとってどうかという視点での返答しか得られずショックでした」

ーーYukiさんと知り合うまで、私はほとんど動物福祉に関する知識はありませんでした。知識を持つ前と後、見える景色が変わることは私も実感しています。

「嘆いてばかりではいられないと動物福祉団体から動物福祉(ペット産業、毛皮産業、動物実験、家畜、環境保護)に関するチラシを送ってもらい、それを使って動物福祉を広める活動を始めました。

犬の散歩の際には必ずチラシを持参して、犬に声をかけてくれた人には、にこやかに動物福祉の話をしつつチラシを渡すようにしました」

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▲ロンドンには野生のインコが生息しているという。動物と植物に優しい社会だ。

ーー動物福祉について深く知るきっかけは何だったのでしょうか?

「子どもたちがアメリカの学校でアニマルウェルフェア(動物福祉)を学んできたことがきっかけでした」

アニマルウェルフェア(Animal Welfare)とは、感受性を持つ生き物としての家畜に心を寄り添わせ、誕生から死を迎えるまでの間、ストレスをできる限り少なく、行動要求が満たされた、健康的な生活ができる飼育方法をめざす畜産のあり方。
アニマルウェルフェア畜産協会のHPより抜粋)

ーー子どもたちが学校で動物福祉について学ぶのですね。

「欧米では動物福祉の知識は常識だとされるくらい浸透してるんです。なので学校教育でも学びます。EUでは化粧品・日常品の動物実験は禁止されてますし、家畜動物がストレスなく暮らせる飼育環境を整えることを法律で定めています。アメリカの多くの州でも同様に動物福祉に配慮された法整備が進んでいます」

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▲Yukiさんの暮らすロンドンにある、アメリカ系スーパーの写真。動物福祉の観点からどのように育てられたのか表示されている。

ーー動物福祉に特に関心を寄せる理由は何でしょうか?

「アメリカの多くの州ではペットショップで動物を売っていません。他の多くの国もそうだと思います。NYの約90%が保護犬だと聞きます。保護した愛犬たちと暮らすうちに、動物福祉に対する気持ちが大きくなっていくのを感じました。

人間の慰めのために調教という名の下に見せ物にされている動物達も痛み、悲しみ、恐怖を感じます。今から60年前まで黒人が人間以下の扱いをされてきました。ドイツではユダヤ人は家畜以下だと言われました。野生の動物が野生の動物を捕獲するのは分かります。でも、生き物と生き物の間では命の尊厳が存在しなくてはいけないと思っています。これからの世の中は同じ生き物としての倫理を問われるようになっていくでしょう」

収入のほとんどを動物福祉団体へ寄付

オンラインの英語発音講師を始めて一年半、その確かな技術と生徒ひとりひとりと真摯に向き合う人柄から、たちまち予約の取れない人気講師となった。

ーーオンラインの英語発音講師として仕事を始めたのは、ロンドンに移ってからですか?

「そうですね。これまで日本やアメリカで日本人の生徒たちに英語を教えてきたこともあり、知人にオンラインの英語の講師をやってみないかと誘われました。日本の生徒に教えれば、動物福祉を日本にも広められると言われ、それならばと始めることにしました」

ーーYukiさんはたびたび生徒たちに動物福祉に関する情報を発信してくれますよね。英語の記事であることも多く、情報を知れることに加え、英語の勉強にもなります。

「初めて来る生徒さんには、『私が英語を教える目的は動物福祉と世界の問題に目を向ける人を一人でも増やすためです』と必ず説明しています。それを理解し同意した方だけにレッスンを受けてもらっています。ですから動物福祉に関する情報を送って読んでもらった時はフィードバックをしてもらっています。

生徒さんがどんどん増えて、動物福祉に関する情報を聞いてもらえる機会も増えていきました。その時にアメリカで出会った老年のご婦人の言葉が浮かび、ああこれが私のright timeだったんだって気がつきました

▲Yukiさんが生徒たちに送った記事。サーカスで利用される動物たちは、虐待に近い訓練や自由のない生活を強いられていると書かれている。アニマルライツセンターのHPによると、世界56カ国でサーカスでの動物利用を禁止する中、日本ではまだ禁止されていない。
▲Yukiさんは動物福祉の観点から、サーカスだけでなく狭い檻に動物を閉じ込める動物園、水族館も反対だと話す。これは理想的な動物園の一例として、Yukiさんが生徒たちに紹介したイギリスの動物園。ロンドン郊外に位置し、広大な敷地で動物たちを野生い近い環境で飼育している。

ーー授業料はそのほとんどを動物福祉団体へ寄付されていると聞きました。

「本当のところ、お金を寄付するということは最も安易な社会貢献の仕方でなんですよ。一番大変なのは可哀想な動物たちの現実を直視して、実態を調査し交渉して訴えている人たちです。本当に頭が下がります。せめて、私は発音を教えることを通してみなさんに訴えかけることやそのお金を寄付すること、そして今の自分にできる方法をこれからも考えていきたいと思っています。

私の活動で最終的にはみなさんに地球温暖化と家畜の関係まで考えてもらえるようになってもらえたらと願っています。少しでも日本の皆さんに動物福祉の考え方を知ってもらえたら嬉しいです。『誰かを助けることなんて私にはできない』とみんな言うでしょう。でも、できることからやればいい。お隣の人に伝えることしかできないならそれをすればいい。みんながやったらすごく大きな力になると信じています

"This task is open ended, but a conscious effort can change the world. I am optimistic we can do this. Don't let complexity stop you"
(ハーバード大学でのビルゲイツのスピーチから一部引用)

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▲Yukiさんの愛犬たちが躾を受ける様子。欧米の犬はきちんと躾を学ぶため、公園でもお店の中でも自由に行動できる。
《インタビューを終えての感想》
*動物虐待などのニュース、私は苦しくなってしまい積極的に見聞きするのを避けてきました。ですが、見て見ぬふりをすることは容認することと同じこと。微力ながら動物福祉の考えを誰かに伝えられたらという想いで、今回書きました。
*Yukiさんが生徒たちに送る記事は英語の記事も多い。同じ事件でも、こうも世界と日本で報道される内容が異なるのかと驚くとともに、英語でニュースを読む大切さを感じます。
*奉仕活動をするのはえらいわけでもなく人として当たり前の行為ですと語るYukiさん。見返りを求めることなく、"自分のできる範囲のことをおこなう"という感覚、日本でも広まればいいなと思うと共に、私自身も実行していきたいなと感じました。
*「人間に優しい社会は動物と植物にも優しい社会」という言葉が印象に残っています。経済活動優先で、個人の生活よりも仕事を優先させる社会のままでは動物と植物に優しくするのは難しいかもしれない。社会の仕組みを変えないと動物福祉が浸透しないのでは、と感じました。

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