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妊娠と流産とクリスマスツリー

10日間ほどの短い期間に、嬉しいことがひとつ、悲しいことがひとつあった。

嬉しいことは、妊娠が判明したこと。
悲しいことは、残念ながら流産してしまったこと。

誰かに聞いてもらいたいような、でも気を遣わせてしまいそうで話したくない気もする。リアルの友人知人にはたぶん話さない。だからnoteに書こうとおもう。

6週目で妊娠判明

夫と2歳の息子と3人家族。「そろそろ二人目が欲しいね」なんて話してたらあっという間に妊娠判明。一人目の妊娠時には時間がかかったのでちょっと驚きつつも、やっぱり嬉しかった。

夫の"妊婦の夫"たる自覚は目をみはるものがあった。

風疹の抗体検査、親への報告、わたしの体調不良に備え在宅勤務日を増やす調整まで、妊娠がわかった翌日にはすべておこなっていた。トツキトオカアプリを早々に登録して、逐一「今大豆くらいの大きさらしいよ」と報告してくる。わたしには一切重たいものを持つことを禁じ、「アマンダは座ってていいから」と週末も忙しく家事育児に励んでいた。そのはりきりぶりが微笑ましく、うれしかった。

妊婦検診で助産師さんから「身体に負担がかかるのでなるべく上のお子さんを抱っこはしないようにしてください」と言われていた。甘えん坊の息子なので突然抱っこを拒否したら可哀想だとおもい、丁寧に説明することにした。

「ママね、お腹に赤ちゃんがいるから息子くんのこと抱っこができないんだ。抱っこすると赤ちゃんが苦しくなっちゃうんだよ。でも座ってるときにお膝の上に乗っけてギューはできるからね」と伝えた。

その日の晩、布団の中で「なんでママだっこできないの?」と繰り返し聞かれたが、それ以来「抱っこして」の代わりに「座ってギューして」と言うようになった。ちゃんと理解してくれてるんだなと頼もしかった。

「息子くん、お兄ちゃんになるんだぞ!かっこいいな!」
「やったー!」

そんなやり取りを夫と息子がしていた。悪阻もほとんどなくて楽しい毎日だった。

妊娠7週、突然の出血

平日の昼間ひとりで自宅で仕事中、飲み物を取りに行こうと席を立ったとき、ふと振り返るとさっきまで座っていた場所に赤い染みがついていた。「子どものクレヨンの落書きかな?」と一瞬思ったものの、すぐに血だと気が付いた。トイレで確認すると終わりかけの生理みたいな血の量。

流産かもしれない

瞬時にそう思った。病院へ電話するとすぐに診察に来てくださいと言う。実はこのとき5分後からWebミーティングが始まるというタイミングだった。ミーティング相手に謝罪して延期させてもらい、どきどきしながら病院へむかう。

赤ちゃんの入っている袋はきちんと確認できています。なので現時点では流産していません。妊娠初期の出血はよくあることです。この出血が今後流産に繋がるものなのか、そうでないものなのかはわかりません。仮に流産に繋がる可能性のあるものだったとしても、現時点でできる治療はありません」と女性医師が淡々と説明する。

流産していないという言葉にホッとしたのもつかの間、「え、今って危険な状態なの?どうしたらいいの?」と困惑。理解するのに時間がかかったが、普段どおりに生活して良いこと、赤ちゃんを信じること以外にわたしにできることはないということはわかった。

「このまま経過を観察していきましょう。次回は5日後に来てください」そう言われ、病院を出た。

わたしが出血していると聞き、貧血を心配したのか夫は毎日ほうれん草を使った料理ばかり作ってくれるようになった。

妊娠8週、「赤ちゃんの入っている袋が見当たりません」

次回検診を待つ間も一向に出血は止まる気配がない。夫とは「もしかしたらダメかもしれないね」と話していた。赤ちゃんが産まれたあとの生活を想像すると万が一の場合に悲しいから、あまり考えないようにして過ごした。

そして週明けの診察日、内診台にあがると「赤ちゃんの入っていた袋が見当たりません」と医師から告げられた。どうやら気付かぬうちに流産してしまったらしい。妊娠判明から10日後、妊娠8週目の出来事だった。

調べると胎児を自然排出してしまうとき、陣痛のような強烈な痛みを伴う場合があるらしい。でもわたしの場合はほとんど痛みがなかった。

内診室の診察台の上で「診察は以上となりますがなにか聞きたいことはありますか?」と聞かれた。わたしは「大丈夫です。ありがとうございました」といつもよりハキハキ答えた。しっかりしなきゃとおもうあまり、なんだか仕事中の話し方みたいになってしまった。

内診を終えると診察室へ戻り、女性医師がパソコンにエコー写真を映し出しながら説明してくれる。女性医師も、声をかけてくれた看護士さんも、わたしの反応を注意深く観察しているような気がした。その空気感に「あ、わたしが泣き出すかもしれないと心配してくれているんだな」という気遣いを感じた。

出血し始めてから心の準備はできていた。
大丈夫、わたしは平気

診察室からでるときに心の中でつぶやいたら、はずみでじわっと涙ぐんでしまった。

赤ちゃんのことを考える時間をもっと持てば良かった

長男の妊娠中、悪阻は本当に辛かったけれどしあわせだったなとおもう。まだ見ぬ赤ちゃんに想いを馳せること、赤ちゃんと一緒の新生活を考えるのはとても楽しい時間だ。

出血してからは意識的にお腹の赤ちゃんのことを考えることを辞めていた。もし悲しい結果になった場合にショックが大きくなるのが怖かったからだ。悪阻もほとんどなく、自然排出のときすら静かだったおとなしい赤ちゃんのこと、もっと考える時間を持てばよかったな。

妊娠初期に流産に至る可能性は8〜15%の確率という統計があるらしい。だからありふれたことといえばそうなのかもしれない。それでもやっぱり悲しいな。

「クリスマスツリーを買いにいこうか」

流産判明から数日後、夫が急に言い出した。

遡ること数週間前、家族でデパートへ出掛けたときのこと。デパートではクリスマスツリーを売り出していた。そこで見かけたあるツリーにわたしは釘付けになってしまった。サイズこそそんなに大きくないものの、プラスチック製とは思えない本物そっくりの見た目、センスのいい飾り付けが施されたツリーは、そこだけ別世界のようにキラキラと煌めいていた。

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「とっても素敵!でも値段がたかいから買えないね」そんな会話を夫としていたのだ。

節約家な夫が、なぜ急にあのツリーを買おうと言い出したのかはわからない。夫は赤ちゃんを心から楽しみにしていたから、自分を慰めるためにツリーを買いたいと言ったのかも。いや、夫はそもそもツリーを欲しがってなかったから、やっぱりわたしを元気づけようとしたのかも。

無口な夫はきっと理由をはっきり教えてくれないだろう。でも、落ち込んだ家族の雰囲気をなんとかしようと提案してくれたことは確かだ。

週末は息子とツリーの飾り付けをしよう。それから息子をいっぱいいっぱい抱きしめよう。それがきっとわたしを、そして家族を救うことになるはずだ。




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