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シュリーマンの伝説的な英語勉強法『古代への情熱』

シュリーマン(1822-1890)は伝説の考古学者。

架空の存在と思われていたトロヤ、ミケネ、ティリンスを発掘してしまったことで知られます。

そして彼は外国語学習者のあいだでも名の知られた存在でもあります。

何ヵ国語をもマスターする異様な才能にくわえ、その独自の学習法が注目を集めるのです。

彼の自伝『古代への情熱』には、その方法がさらっと書かれています。

この本の存在は昔から知っていましたが、実際に読んだのは今回が初めて。

シュリーマンは英語の学習法について次のように書いています。

そんなわけで一所懸命、英語を学んだ。その際、困窮が発見を生んだといっていいような外国語習得法に気がついた。ごく簡単な方法であって、大きな声を出して原文を読む。訳をしない。毎日きっと一時間はあてる。そのことばで自分の関心のあることを書いてみて、先生に直してもらう。直してもらったのを暗唱する。つぎのときに前日直されたところを声に出していってみる。

シュリーマン『古代への情熱』池内紀訳、以下同書より引用

・毎日1時間は音読する
・訳さない
・自分の好きなテーマで作文する
・先生に添削してもらう
・直された文章を音読する

この方法でフランス語、オランダ語、スペイン語、イタリア語、ポルトガル語を次々に習得していったといいます。

もともと弱かった記憶力は、この勉強を繰り返す過程で強化されていったとのこと。

シュリーマンはさらにラテン語を習得し、次に本命のギリシア語習得に取り掛かります。

ギリシア語の文法学習について、彼は次のように言っています。

ギリシア語の文法のうち、わざわざ勉強したのは名詞の変化、及び動詞の規則・不規則変化だけである。貴重な時間を、小うるさい文法にとられるなどのことはしなかった。ギムナジウムでは古典語に八年か、それ以上をかけ、退屈きわまる文法規則で苦しめられ、痛めつけられる。その結果といえば、手ひどいまちがいだらけを書きなぐるのがやっとである。私は確信しているのだが、学校の学習方法はまちがっている。私の考えによれば、実地の練習、つまり、古典的な散文を注意深く読み、それを暗唱することによってのみ、文法そのものをわがものにすることができる。私はすこぶる単純なこの方法によって、古典ギリシア語を生きたことばのようにして学んだ。だからすらすら書くことができるし、どんなことであれ表現できるし、忘れることもない。文法規則にも通じている。ただ。それが文法書にあるかどうか関知しないだけの相違であって、もしだれかにまちがいを指摘されたとしても、直ちに古典作家を引用して、それが正しい表現であるしだいをいうことができる。

これは伝説的なパッセージ。

要するに大量のインプット学習なんですよね。

そこに少量のアウトプットも添えています(好きなテーマについて作文を書き添削してもらう)。添削は現在ならChatGPTにお願いすることができますね。

第二言語習得研究の観点からしても、これは適切な学習法であるといえると思います。

文法に代表される明示的知識を積み重ねる自動化モデルを批判し、理解可能な外国語を大量に浴びるインプットモデルを打ち出しているわけです。

それにしても、毎日1時間とか、古典作品を丸ごと覚えてしまうとか、その量は異次元のものがありますね。


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