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技術者の本質的なスキルアップ5要素

「技術者が研究開発で勝ち抜く実践的スキルアップ法の初回」として、今回は技術者がスキルアップを考える際に、理解必須の5つの要素について述べます。今後、これらの要素に絡めながら具体的なスキルアップ法を解説していく予定です。
スキルアップ法を実践いただく前の前提知識でもあるため、自らのスキルアップを考える技術者の方々に是非ご一読いただきたいと思います。


技術者の”本質的”なスキル

正直なことを申し上げて、技術者の本質的なスキルが本当にこの5つに集約されるのか、それともこの5つの構成要素に上層、下層の関係があるのかわかっていない部分があります。言い換えればまだ発展途上ではないかと、当社は考えています。
しかしながら、間違えなくいえるのはこれらのスキルを有している技術者は、間違いなく企業における戦力になっていることです。

よって、ひとまずは当社が「技術者の普遍的スキル」と呼ぶ、技術業界不問のスキルについて解説をしていきたいと思います。

技術者の普遍的スキルとは

冒頭に記載した通り5つの要素からなります。

技術者の普遍的スキルは、論理的思考力、グローバル技術言語力、異業種技術への好奇心、企画力の5つの要素から成る
技術者の普遍的スキル構成要素

それぞれの要素について、概要を説明します。今後、ブログで述べるスキルアップはこれらの要素の概要を理解した前提となりますので、是非理解してください。それぞれについて最重要点だけ述べます。

”論理的思考力”は自らを制御し、第三者目線から見られる力

論理的思考力というと、ロジカルシンキングという単語から始まり、MECEやフレームワーク思考等、様々な表現が散見されます。

そして、これらは間違っていません。しかし、これらは論理的思考力の基礎ができた方々が身につけるべき、スキルの事例です。

技術者が理解すべきは、そのもっと手前の
「自らを制御し、第三者目線から自分を見られるか否か」
ということが論理的思考力の前提にあると理解すべきです。

技術的な業務について報告する際、自分の言いたいことから話し始めていませんか?

例えば、難解な技術専門用語を言うことで自らの優位性を示すことに注力しすぎる故に、相手に伝えるべき例えば技術評価結果を話すまでに前振りが長すぎる、と指摘されたことはありませんか?

上記は論理的思考力に課題のある技術者の典型的な言動です。

色々話したい自分を制御し、相手の理解を見ながら、相手の求めることを正確に伝える。
技術者は論理的思考力を上記のようなイメージでとらえておくといいでしょう。

技術者の普遍的スキルの中枢である論理的思考力については、心理学の観点からも考察をしています。ご興味のある方は、当社の以下のコラムを合わせてご覧ください。

※技術者育成研究所コラム
熟慮的思考に関する心理学研究結果と技術者育成との関係


技術文章作成力は”読み手を意識”して、難解な技術的内容を”客観的正確性”をもって”わかりやすく”伝える力

技術文章作成力に求められるのは、読み手を意識した上での、客観的正確性を基礎としたわかりやすさです。

読み手を意識する時点で既に述べた論理的思考力が関わっていることがわかるかと思います。

さらに、技術文章作成力で求められるのは
「客観的正確性」
です。主観での定性的表現は避けなくてはいけません。
客観的正確性は技術者最強の武器です。そして、当然ながら技術文章は読んでもらうものなので、読み手を意識してわかりやすく記述することは不可欠です。
客観的正確性と読み手への配慮をイメージする事例として以下のようなものがあります。同じことを表現しようとしている前提だとして、どちらが理解しやすいかは一目瞭然ではないでしょうか。

<例>
・定性表現が強い場合
リン酸を用いて表面処理を行ったAlの材料データは高くなった。
・客観的正確性を意識し、定量表現を意識した場合
濃度8%のリン酸を用いて液温20℃、化成電圧120Vの条件で5分陽極酸化処理を行った結果、A2011の引張弾性率は10%向上した。

処理条件や特性向上の割合を数字で表現をしていることに加え、何を行ったのか、どのような材料、表面だったのかといった情報が加筆されたことで内容を理解しやすくなったと思います。
当たり前に見えるかもしれませんが、文章を書いている本人が内容を理解しているという前提になると、定量表現や読み手への配慮は急激に難しくなります。

読み手への配慮を理解するには、一般的に言われるビジネス文書と技術報告書の違いを理解すると良いでしょう。

本点について興味のある方は、当社の以下のコラムをご参照ください。

※技術者育成研究所コラム
ビジネス文書 と技術報告書の共通点と違い


グローバル技術言語力は英語力ではなく数学力

グローバルといった単語を聞いた方は何をイメージされるでしょうか。

多くの技術者の方がイメージされるのは「英語」を主とした外国語のようです。
グローバルというのは、多くにおいて海外を意味するのでもちろん一理あります。しかし、技術者にとってのグローバルは必ずしも国のことを指すわけではありません

技術者にとって重要なグローバルの観点は、技術領域です。

今ご自身が機械系であれば、例えば電気電子や情報、化学等が一例です。このように技術領域を超えた(またいだ)好奇心や交流が技術者にとって重要です。

そしてこのようなことを実現するのに最も重要なのは、定量表現に必須の「数学力」です。受験のような与えられた問題を解くというよりも、自らの言いたいことをいかにして定量的に伝えるか、そして技術的な理論を実務に落とし込むための数式を理解するということが、技術者に求められる数学力です。

数式は英語以上に世界共通言語です。ローマ数字をはじめ、数学的な理論が世界共通であることを考えれば当たり前とお感じいただけるのではないでしょうか。

ソフトウェアによる翻訳技術が急激に進化している昨今、語学の勉強に時間を使うのであれば、グローバル技術言語力につながる数学力を鍛えるのがこれからの技術者に求められます。

例えば数学力に関するコラムは当社のHPでも公開しています。
実際、グローバル技術言語力に関する内容を掲載すると、多くの方がお読みになる傾向が出ています。
技術者育成は人材育成という側面と、技術的な数学のような基礎学問を応用する姿勢が求められるのを感じていただけるかもしれません。

※技術者育成研究所コラム
誤差や公差の複数積み重ねに対する二乗和導入の指導
技術者がデータの同等性を技術的に判断できない
グラフで囲まれた面積をExcelだけで求める方法がわからない


異業種技術への好奇心は自身の技術軸の裾野を広げる

異業種技術への好奇心は、異業種技術協業をはじめとした従来技術の高付加価値化に必須な時代となっています。
自分はこの技術の専門家であるといえることは、技術者育成の観点でも重要ですが、技術の基軸ができたらその技術の裾野を広げるという柔軟性がこれからの技術者に求められます。

ここでよく誤解されるのが、ここでいう異業種技術をメディアなどのトレンドに流されてしまうこと。

何故、自らに必要な異業種技術をトレンドから見つけられるのでしょうか。

情報媒体を担う方々が、技術者の方々の技術的な専門性を理解できているはずがありません。

技術者が普遍的なスキルを意識して異業種技術を考える際に最重要なのは、

「自分の技術的な専門軸は何なのか」

を常に念頭に置くことです。よって何かに流されるのではなく、まずは自分が何者なのかを理解し、それを軸に偏見を持たずに平等かつ俯瞰的に異なる技術領域をみるという”好奇心”が肝となります。ここで前半述べた論理的思考力が効いてくるのがわかるかもしれません。

異業種技術は飛び込む側がそれをしたくとも、異業種技術側がそれを望まないことも多いです。そのためには技術者と言えども、相手側に配慮する目線が重要なのは盲点でしょう。この辺りは以下のコラムを合わせてご覧ください。

※技術者育成研究所コラム
異業種技術協業に必要な顧客を求める+顧客になるという考え方


技術者にとっての企画力は、創造力よりも誘導力を重視する

企画力というと、多くの技術者がイメージされるのがこれまでにないものを創造する「創造力」です。

所属する企業の技術力を高め、その力を応用して新しい製品や、製品の高付加価値化に貢献するのは、技術者にとって最重要の命題の一つと言えます。
これを実現するには、技術者が何かしらの企画を行うことが求められます。
最もイメージしやすいのは「技術テーマの立案」でしょうか。

技術者はここで恐らく内的志向の心理状態となり、周りが見えなくなってしまいます。自らの思いだけで技術テーマの骨格を作り始めてしまうのです。

まさに創造力偏重の行動パターンです。

技術者が企画力実践で意識するのは、自らが言いたいことを伝え、その方向に周りを動かす「誘導力」です。

実際にその方向に動いてもらい協力してもらうという意味もありますが、思考的にも技術者の考えた企画のストーリーに引き込むという観点が入っています。

企業組織にいる以上、決裁者、協力者という方々に理解してもらい、企画した技術者が望む方向に動いてもらうという考えが必要なのです。

この辺りは当社コラムでも概要を述べています。

※技術者育成研究所コラム
技術者の イノベーション と 企画力 1:企画力とその盲点


最後に

技術者の普遍的スキルは様々な要素で構成されることをご理解いただけたかもしれません。
しかし、その一つひとつは”ごく当たり前のこと”であるということもお気づきになったかもしれません。

技術者育成というのは、育成する側にもそれ相応の経験と技術専門性が必要なのは言うまでもありませんが、人を育てるにはまず基本を重視し、そこからずれないようにするという姿勢が求められるのです。

このブログをお読みいただいている方々の多くは現場の技術者であると考えれば、読者の方々はここで述べたような技術者の普遍的スキルを「ご自身で」意識し、日々業務に取り組むことが必要となります。
所属している企業、上司がここで述べた普遍的スキルの重要性を理解し、または同調するとは限らないからです。

技術者のスキルアップを実現するには、技術者自身が自らのスキルで何を鍛錬すべきかを常に意識し、日々継続的に取り組むのが近道です。

このような基本を常に意識いただきながら、今後ご紹介する普遍的スキルの向上方法のブログをお読みいただくと、普遍的スキルの習得効率が上がると考えます。


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