17.知的トレーニングの技術〔完全独習版〕(花村太郎・長沼行太郎)

この探求の過程で、ぼくらが意外な驚きをもって再発見したこと―それは、偉大な知、知的巨匠たちの方法の真髄はみなハンド・クラフトであり、からだをつかう肉体作業である、ということだった。考えることにおける「手」の役割というものに、あらためて気づかされたのだ。つまり、知的方法の本質は、まさしく「手法」と呼ぶにふさわしいものだった。

一週間ぶりの更新になってしまった。

前職の半分くらいの勤務時間になってしまっている。生活時間が増えて、学ぶ時間も増えた。

さて、ぼく自身が影響を受けた本を挙げるなら、この本は外せない。思想と身体はそれぞれ別で語られることもあるが、身体論なき思想はあり得ない。知のクラフトとはアタマではなく、身体全体の話である。そしてこれは「今ここ」でなく、従来的にそのようである。

我々の身体的自己は歴史的世界に於て創造的要素として、歴史的生命は我々の身体を通じて自己自身を実現するのである。歴史的世界は我々の身体によって自己自身を形成するのである

実践ということは、制作ということでなければならない。我々が働くということは、物を作るということでなければならない。制作を離れて実践というものはない。実践は労働であり、創造である。行為的自己の立場から世界を見るというのは、かかる立場よりすることでなければならない。
『論理と生命』(西田幾多郎)

準備編 
知的生産・知的創造に必要な基礎テクニック8章
志をたてる―立志術
人生を設計する―青春病克服術
ヤル気を養う―ヤル気術
愉快にやる―気分管理術
問いかける―発問・発想トレーニング法
自分を知る―基礎知力測定法
友を選ぶ・師を選ぶ―知的交流術
知的空間をもつ―知の空間術

実践編
読み・考え・書くための技術11章
論文を書く―知的生産過程のモデル
あつめる―蒐集術
さがす・しらべる―探索術
分類する・名づける―知的パッケージ術
分ける・関係づける―分析術
読む―読書術
書く―執筆術
考える―思考の空間術
推理する―知的生産のための思考術
疑う―科学批判の思考術
直観する―思想術
さまざまな巨匠たちの思考術・思想術―発想法カタログ

目次は上記になっているのだが、先日記事でも取り上げた『独学大全』(読書猿)の目次もこれを踏襲したような構成になっている。「なぜ学ぶのか?」という自己本位の形式から入るのが、なんとも納得感のある内容でもある。

自分の学びのスタイルと言うのは、最終的に自分の等身大のものである。誰某がどんなふうにやっていたとしても、己れの形がなければ小手先のテクニックに終わってしまう。だから完成されたやり方を追求するのではなく、あくまで過程的な部分にフォーカスするという戦略は、正しい。

示唆的な部分は数多くある。例えば、『ボヴァリー夫人』を書いたフランス文人であるフローベルは、近代的なロマン主義を痛烈に批判した。それは、誰かのためでなく、自分のためである。

「ロマン主義の土台がぐらつきだすにつれて、現在に生き現在に対して責任を取ることを恐れるあまり現在から逃避し、本来自分がいなければいけない場所以外のところにばかりいたがって、常に遥か彼方を夢みようとする」現代人に共通したものであり、「その結果は、自分で自分の存在に対する責任を負うことができず、いつも責任を保兄なすりつけ、ありのままの自分の姿ではなく、かくありたい姿をしか見ようとしないような」きわめて主観的で感情の過剰な傾向としてあらわれる

また、本を読む人が陥りがちな積読問題に対しても考察面からアプローチしてくれている。

つまり、書棚は記憶の貯蔵庫である。記憶が頭脳の飽和に達した分を、モノのかたちで外化しておく。頭脳それ自体は一種のインデックスとなり、書斎空間がむしろ思考する身体にしてかつ主体、ということになる。それゆえ、思考するとは、まさしく本棚の前を「歩く」という身体的行為のことなのだ。書斎全体が思考する装置となっている光景を、ぼくはこの哲学者との対話でまざまざと見る思いがした。

このあたりの、身体と思想・発想という話題は近年でもまだまだ考えられているようだ。

誰かのためではなく、自分のために。他人や環境を変えようとしがちなぼくらであるが、変えられるのは自分自身だけである。他人が変わったように感じるのは、(当然環境的要因もあるだろうが)自分の変化と見たほうがよい。

ぼくらが勉強したり、学んだりすることで変わろうとするのに多くの支障がある。続かないとか、何がやりたいのかわからないとか、勉強のやり方がわからないとか、周りの目がきになるとか、時間が足りないとか、様々かと思う。かといって、その支障を言語化できるような人は、既に走り始めていることを考えれば、「なにが分かっていないのかが分からない」くらいの人が一番よく刺さるのだろう。





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