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スティーヴン・キング『11/22/63』

4年前に読んだ、スティーヴン・キング『11/22/63』(上下・白石朗訳・文藝春秋)の感想文が出てきたので、あげておく。
「小説は長ければ長いほどいい」と言ったのはジョン・アーヴィングだが、たぶんスティーブン・キングもそう思っている? あまりに長大で、そのせいで読者を減らしている気もするが、キングにせよアーヴィングにせよ、その長大さに付き合ったからこそ得られるカタルシスがあり、そういう読書が存在することが嬉しい。

『11/22/63』読了。長かった。上下あわせて1050ページくらいあった。2段組でぎっしり。
タイムトラベルもの。2011年の世界から、高校教師ジェイクが1958年の世界に戻り、オズワルドのケネディ暗殺を食い止めようとする。
タイトルはジョン・F・ケネディがダラスで暗殺された、1963年11月22日の日付にちなんでいます。
で、一番の感慨は、ケネディ暗殺はもはや近過去ではないのだな、ということ。主人公ジェイクは1970年代生まれで、自分が生まれるより前の世界に遡っている。
うちの両親が見合いをしたのが1963年11月23日で(アメリカはまだ11/22なんですな)、見合いの席でも当然ケネディ暗殺が大きな話題になっちゃう、というような時代感覚です、わたし。
で、ジョン・F・ケネディの時代、というのは、歴史の授業で学んだり、入試に出たりする時代ではなかった。大学入試を世界史で受け、文学部史学科に進み、社会科の教員免状まで取ったわたしなのに、ケネディのことなんて何も知らない。
ケネディはちょっと前の新聞に出ていた時事、という感じ。
キューバ危機のことは、大学時代の友人がキューバ危機をテーマにした劇を上演したときに初めて知った、という認識の浅さ。
オズワルドの名前は、伊坂幸太郎『ゴールデンスランバー』の中で、青柳が森田に「オズワルドにされるぞ」と言われるシーンの方がオズワルド本人より印象的。
本を読んだ後で、Wikipediaのケネディの項目読んで、ケネディが、アメリカ大統領史上初のカトリック教徒の大統領(今のところ唯一)だったこととかも認識。
時空の穴をくぐると、そのたびにたどり着くのは1958年9月の同じ場所。過去で何年も過ごしても、2011年に戻ると、時間は数分しか過ぎておらず、もう一度過去に戻ると、前回のタイムトラベルで起こったことはすべてリセットされる。
タイムパラドックスや、起こる予定の史実を改変しようとする動きに逆らおうとする何かの力。SF的な説明は最後の方で少し出てくるが、基本的には1963年11月22日までの5年2ヶ月を、ジェイクがどのように生き、何を思っていたかが丹念に描かれる。
長いけれど、集中力の途切れない読書。
まだ色濃く残る人種差別。鼻歌でローリングストーンズを歌って、その反社会性を聞きとがめられる。半世紀前のアメリカが、よかったところ悪かったところ、そんなに具体的にではないが、2011年を生きていた主人公が自分が生まれるより10年以上前の世界を試行錯誤しながら進む。
スガシカオの「夜空ノムコウ」の歌詞「あの頃の未来」という言葉が何回もたちのぼる。
アメリカ海兵隊所属時代にロシア語を学び、一旦ソビエトに亡命し、ロシア人の妻を娶り、結局はアメリカに帰ってきたオズワルド。オズワルドの背後にどんな力が働いて、ケネディを暗殺するに至ったのか。どのタイミングでオズワルドを止めればいいのか。
改変されまいとする歴史の圧力と闘うジェイク。魅力的なヒロイン、セイディー。
辛いシーン、哀しいシーンがいくつも繰り広げられた末の、美しいエンディング。
結論は身も蓋もない、という考え方もあるんだけど、現実を肯定できる(こんな世界でもなお明るい側面はあると)ある意味オプティミスティックな物語。
大変印象的な本でした。1000ページ以上も読んで印象なくても困っちゃうけどね...。ケネディの時代についても、大変勉強になりました。

#読書 #スティーブンキング #キング #112263 #ケネディ

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