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劇団四季「パリのアメリカ人」

渋谷ヒカリエ11階のシアターオーブで、劇団四季の新作ミュージカル「パリのアメリカ人」を見てきた。ジョージ・ガーシュウィンの交響詩「パリのアメリカ人」が1928年発表、それに基づいてジーン・ケリー主演のミュージカル映画が1951年公開。今回劇団四季が挑んだ新作は、2014年からパリやロンドンで公開されてきたミュージカルの日本版らしい。ミュージカルでありながら、殆どバレエの舞台のような見事なバレエが幾つものシーンで繰り広げられる。

毎朝歩く地下鉄乗り換え通路に「パリのアメリカ人」の広告が出ているのを見た時から、すごく行きたくて、でも特に上記のような知識もなくチケット買って渋谷へ。いや、ガーシュウィンはもちろん昔からずっと大好きだったので、彼の音楽も堪能したくて。
ガーシュウィンのパリは第1次世界大戦以降のパリで、ミュージカルのパリは第2次世界大戦以降のパリだ。第2次世界大戦のパリは、ナチスに占拠され、住民同士が疑心暗鬼で暮らした時代が終わった直後のパリだ。その辺の微妙な人間関係が如実に表れるストーリー展開。ナチスの傀儡だったヴィシー政権下、誰を信じてどう戦い、どう生き延びるか、苦悩しながら戦後を迎えたフランス人たちと、フランスを開放しにきたアメリカ軍から除隊後、フランスに残ったアメリカ人たちの間に横たわる、目には見えない大きな溝、というのがストーリーの根幹にある。一方、従軍から戻ったアメリカ人には戦場での体験がトラウマになっており、それがまた芸術に向かう原動力となっている、という面もある。
ミュージカルだが、歌だけでなく、本格的なバレエのシーンがとにかく素晴らしい。クライマックスで、「パリのアメリカ人」が演奏される中バレエの舞台が展開されるのだが、まるでピエト・モンドリアンの絵のような衣装のダンサーの群舞の中で、主役のジェリーとリズが黒い衣装を着て踊る光景の美しさ。躍動感。ジェリー役酒井大の踊りの見事さに心奪われたが、それもその筈、彼は元々はバレエダンサーだったのね。となると逆にミュージカルで主演を張れるだけ歌の訓練もした、ということに驚かされる。リズ役石橋杏実は、これまでアンサンブルでしか舞台を踏んでこなかったのが抜擢。その境遇は、作中でオーディションを受けてプリマドンナに選ばれるリズと重なり合う部分が。とはいえ、バレエ作品ではないので、アンリがナイトクラブで歌うシーンは途中から舞台がぱーっと半円状に輝くセットに代わり、みんなでラインダンスをしたり、タップダンスをしたりもする。例えが悪いかもしれないが、東京ディズニーシーのビッグバンドビートを彷彿とさせる要素も。
残念ながら生演奏ではなく録音だが、次々と繰り広げられるガーシュウィンの楽曲にわくわくする。吊るされて滑るように動いて展開される舞台セットとその間を巧みに踊りながら出入りする登場人物の身のこなしも素敵だ。
3人の主要人物ジェリー、アダム、アンリ(ジェリーとアダムがパリのアメリカ人)が、みんな、若きバレリーナ・リズを好きになっちゃうという、単純な物語に、前述、第2次世界大戦終戦直後の世相が絡み、また、米軍除隊後パリに残ったジェリーが画家として身を立てようとする過程でパトロネス・マイラと人間関係をどう築くかとか、親に隠れて芸能活動をしているアンリの親子関係とか、並行するエピソードがあり、どの登場人物もキャラが立っていて、ストーリーがくっきりしている。昔「シェルブールの雨傘」の舞台を見て、もやもやしたストーリー展開がすごく苦手だったのだが、「パリのアメリカ人」はそういうもやもやが殆どなく(皆無とまでは言えないが、それはミュージカルとして仕方ないことなのかな)そんなに気持ちがこじれることなく、歌とダンスに陶酔する。
上演時間2時間50分(休憩込み)もちょうどいい感じ(先週の「罪と罰」3時間50分はややきつかった)。ヒカリエは東急文化会館の跡地なので、シアターオーブの階段の踊り場には、東急文化会館にあった、ル・コルビュジェの緞帳の縮小復元レプリカが飾られていた。懐かしい渋谷と今の渋谷。眼下に建設されつつある街を眺めながら、不思議な感懐に捕らえられる。

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