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知り難きこと陰の如く、動くこと雷霆の如し。ー2020年12月の記録ー

"L'enfer est plein de bonnes volontés ou désirs" - Bernard de Clairvaux -

これほどまでに、観劇を悩んだ舞台はなかった。

インフルエンザしかりヘルペスしかり、罹りやすい行動はあっても日常生活を送る中で絶対に予防できる方法などない。
されど新型コロナウイルスに関しては、専用の治療薬が確立していない不安から、ともすれば犯人探しが始まる。

「感染者」はもちろん、「濃厚接触者」の来場制限。マスク着用、フェイスシールド着用。消毒に次ぐ消毒。声は出さない。

例え劇場が考えうる限りの万全の対策をとっていても、その後に、翌日に、数日後に感染してしまったら?大切な場所が槍玉にあげられてしまうかもしれないという恐怖がある。劇場に行ったことを責める人に、きっと悪意はない。そこにあるのは、正義感だ。ただひたすらに、正義感なのだろう。

そんなわけで!

できるだけの対策+絶対に感染しない!という気合いで観てきました、「知り難きこと陰の如く、動くこと雷霆の如し。」

夏に北村諒さんと西田大輔さんがタッグを組んだひとりしばいを観て、はまりこんだ人間です。このテーマの舞台、見なかったら後悔する。エイリアンハンドシンドロームも観にいきたかった。後悔している。きっとそれ以上に後悔してしまう。
2013年、2015年に続く再再演とのことですが、まだ観ていない方もいらっしゃると思いますのでネタバレなしで感想です。ビリーエリオットの感想が下書きのままになっているのを今発見しましたけど、それはそれ、これはこれ。だって書かなきゃまた眠れなくなる。

結論: 好き。

第二次世界大戦ドイツ史、とりわけヒトラーやナチスドイツに関してはタブー視されている。きっと。礼賛は犯罪で、さらにドイツではナチスドイツの敬礼を彷彿とさせる挙手が罪になる。割とゆるめな日本でも、ナチスドイツの軍服を想起させるとしてアイドルグループの衣装が問題になったりもする。けれどそれは一方で、人の興味を惹きつけ、映画や舞台、創作物の題材になってきた。

私は専門家でもなんでもない。戦争は歴史の授業で中間テストと期末テストのために勉強したくらいで、あとは映画や漫画をちょっとみただけ。そんなやつでも夜眠れなくなるほど、怒涛のように時代を、激動を、現代に生きる思いを注ぎ込んでぶち込んでくる西田大輔さんってすごいなぁと思いました(まとめ)。

まず舞台がすごい。

客席配置がですね、ステージをこう取り囲むような感じなんですよ。公式サイトみてくださいませ。コの字型です。その、コの字型の客席のどこでも楽しめる。全ての席に死角があり、その席でしか観れない光景がある。これは本当に、舞台でしか味わえない。舞台上には木製のステージと階段といくつかの椅子。たったそれだけの舞台装置で、うらぶれた飲み屋が、思惑渦巻く会議室が、若者たちのアパートが、あの歴史書の場面がダイナミックに形作られていく。初日から3公演、全部違う角度だったけど全部よかった。これは最小でも3箇所からは観たい舞台。もっと!観たい!好き!

光と音と暗幕、すごい。

本当に、光の使い方が好き。青でパーン!赤でパーン!好き!スポットライトの当て方の演出の美しさがめちゃくちゃ好き!音楽も、効果音もすごかった。2回ほどビクッてしました、後ろの方ごめんなさい。暗幕のプロジェクションマッピングはもちろんすごい。心がざわつく。そしてただの幕を超えて変幻自在の舞台装置の一部になる。すごい。そしてそれを操作しているのは俳優陣。流れるように、無駄なく、それすらも演技の一部のように。すごい。

そう、俳優陣がすごい。

ネタバレにならない程度に申しますと、陪審員達は「役」を演じます。それが!すごい!ライティングの切り替え、音楽の切り替えとともに、纏う空気から全てが変わる。いやいや待って嘘でしょ凄い。「わー。今は誰の役なんだろー?」なんて考えることは1秒たりともないんです。だってもう違う存在だもの。
その最たる存在が陪審員12、田中良子さん。かっこいい。美しい。息継ぎなしで役が変わる。すごい。好き。
めちゃくちゃ個人的な話ですが、「ベースの役が違う役を演じきって元の役にもどる」演技が大好きなんです。
陪審員5、瀬戸祐介さん最高でした。

そして陪審員4、太田奈緒さん!とにかく可愛い。現実的で打算的な女らしさを、圧倒的ヒロイン力が最高の女性として輝かせている。これは惚れる。
でもって斉藤瑞季さんが演じる陪審員10のヴェラがね、素敵なんですよ。強く、まっすぐで、誰かの思惑で貼られていくレッテルに、「のめりこむ」人に気づかせようとする。(舞台感想じゃないけどパンフレットのヘアメイクすごく好き……。舞台上の方が確かにヴェラなんだけど、ほんとに好き。みんな見て。)

非常に重たくシリアスなシーンとコミカルなシーンを、どちらもフルスロットルでぶちかましてくださる男性陣!
毎回のアドリブ、突然始まる笑ってはいけない教練室  at スペースゼロ

感情の!振れ幅が!でかい!追いつかない!

怒涛の攻めを見せる村田洋二郎さん!佐久間祐人さん!耐え忍ぶハンス!神永圭佑さん!強い!すごい!いっそ噴き出すマルティン!予想外のポテンシャルを見せつけるメンゲレ!糠信泰州さん!

そろそろネタバレになりそうなので切り上げます。あとあのシーンとあのシーンとあのシーンについても語りたいですが、どうあがいてもネタバレです。今の文章力では回避できぬ。無念。ゲストシーンもあるよ!

ああでも、この舞台を知るきっかけになった北村諒さん。これは語りたい。初回は心が切り裂かれるような、冷たい冬の夜にひとり取り残された寒さを感じた序盤のシーン。2回目からはむしろひとりになろうと、必死で自分の身を守ろうとする姿に見えて、周りを囲む壁さえ見えました。演技が変わったのか、一度見届けたことによって観ている側が変わったのか。いずれにせよ、空気を支配し錯覚をもたらす凄さ。強い。
そしてライティングが映える。映える。こう、影を落としたいところに上手く影がおちてくれている感じ。もはや絵画。わずか一瞬で鮮烈な印象をのこすあのシーンはレンブラント。
誤解を恐れずに乏しい語彙力で言ってしまいます。
北村諒さん、めちゃくちゃすごい役者であり、最強の舞台装置なのでは?

そして作・演出・出演:陪審員13西田大輔さん。登場シーンから強キャラ感ハンパない。これは強い。絶対強い。やっぱり強かった。
あ、DisGooNieS行きました。Führerイメージの「Bloody Thursday」美味しかったです。パンケーキ予想の3倍くらいあって衝撃でした。無謀にもディナーセットと一緒に頼もうとしてたのを止めてくださったスタッフの方に感謝しております。ぼっちでもスタッフの方もmuseBeesのお姉様も優しくしてくださって素敵な空間でした。ありがとうございます。また行きます。

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さて、手洗いうがいはしたし、あとは出来るだけ規則正しい生活をしてできるだけの感染対策。とか言いつつもう24時をまわっているのでもう寝ます。
年末年始の本業の関係上、私の2020年の観劇はこれがラストです。

ー地獄への道は善意で舗装されているー

悪意なき強い思いが、正義感が、そして無関心が、悪夢を導くことなどありませんように。
心に、深い傷を負う。
そんなことがありませんように。失われませんように。

生きることは選択の繰り返しで、選ぶということは何かを選ばなかったということ。選ばざるを得ないのだから、誰かの思惑に利用されることなく、私は時々忘れ物がないか振り返りながら、生きていこうと思いました。

千秋楽を無事に迎えられることを心より願っております。

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