大腸がんの発生〜ポリープだけじゃない〜

大腸がんは全ての「がん」の中で罹患数No.1の「がん」である一方で、その発生について理解し、正しい検査を受ければ大腸がんによる「がん死」を回避できることはもちろん、がんの発生自体も高い確率で予防できます。

この記事では、大腸がん発生経路にはどのようなパターンがあるか?について解説します。

adenoma-carcinoma sequence(腺腫-癌連関)

以前の記事でも紹介しましたが、大腸がんの主な発生経路として最もよく知られているのは、「大腸ポリープ」の一種である「腺腫」という良性のポリープができた後、次第に大きくなり、一部〜全体が「がん化」していく、というものです。

文字では理解しづらいと思いますので、模式図を以下に示します。

発癌経路図.001

これを adenoma-carcinoma sequence(腺腫-癌連関)と呼び、大腸がんの主要な発生経路のひとつと考えられています。

大腸ポリープ(腺腫)は大きくなるほど癌化率は高くなると言われていて、下記のようなデータがあります。[2]
腺腫の癌化率:5mm以下で1.8%、5~10mmで9.1%、10~20mmで32.9%、20mm以上で67.8%

一方で、腺腫の段階で切除してしまうことで、なんと大腸がんは70〜80%も減らせることがわかっています。[3, 4]

腺腫の早期発見・早期治療には内視鏡検査(大腸カメラ)が最も優れた方法で、少なくとも40歳までに1度は内視鏡検査を受けることをおすすめしています。

de novo cancer

大腸ポリープ(腺腫)が次第に「がん化」していくadenoma-carcinoma sequenceとは対照的に、正常粘膜に突然「がん」ができて、次第に大きくなるパターンも存在し、これをde novo癌と呼びます。

発癌経路図.002

この経路から発生する「大腸がん」の初期像は、いわゆる「ポリープ(腺腫)」とは違って、平坦で、わずかな発赤や、わずかな凹凸不整といった微細な大腸粘膜の変化を示すのみで、早期の発見がより困難な可能性があることに加えて、より悪性度が高い(早いうちから浸潤傾向を示す)可能性が示唆されています。[5, 6]

内視鏡機器の発達によって、より微細な大腸粘膜の変化を捉えられるようになり、発見率の向上とともに、このde novo癌がadenoma-carcinoma sequenceと並んで大腸がんの主要な経路の1つであることが分かってきました。

serrated pathway

腺腫以外によく遭遇するポリープに「過形成性ポリープ(または化生性ポリープ)」があります。

これらのポリープは直腸やS状結腸に多くみられる〜5mm程度の小さな病変で、従来「がん化」する危険性が低いもの、とされていました。

しかし、中には上行結腸に10mm超の過形成性ポリープ様の病変が稀に見られることは報告されており、さらに、これらの一部には「がん化」するポテンシャルのある亜型があることが分かってきました。[7]

これらの、「がん化」するポテンシャルのある亜型病変はSSA/P (sessile serrated adenoma/polyp)という名称で一気に普及しました(2019年にSSL: sessile serrated lesionと名称変更されました)。

従来の過形成性ポリープと、SSL等をひっくるめて「大腸鋸歯状病変」と呼びますが、この鋸歯状病変からの「がん化」には腺腫が「がん化」する際とは異なる遺伝子変異が関与することが解明され、これをserrated pathwayと呼びます。[8]

比較的歴史が浅く、診断基準やどこまで治療対象とするか?についてはまだ議論が残りますが、概ね10mm以上の病変もしくは異形を伴う(「がん」になりかけ、もしくは一部「がん化」した)病変を積極的な治療対象としている施設が多いです。[9]

SSLに関しては後日、別記事を立てる予定です。

dysplasia-carcinoma sequence

これは潰瘍性大腸炎と呼ばれる炎症性腸疾患の方にできる大腸がんのパターンです。

大腸に限らず、慢性的な炎症は「がん化」のもとになります。潰瘍性大腸炎患者さんでは罹患年数が長くなるにつれて「がん化」リスクが高くなることがわかっており、10年で1.6%、20年で8.3%、30年で18.4%程度と言われています。[10]



治療によって血便など、目に見える臨床症状が改善した後も、内視鏡的な炎症所見が消失する粘膜治癒状態を目指して治療を継続することが重要と考えられています。

まとめ

以前の記事で紹介した「ポリープ(腺腫)」から「大腸がん」ができる経路を含め、主な大腸がんの発生経路の4つを紹介しました。

いずれのパターンにおいても、早期発見が重要なのは共通です。特にde novo癌やSSLの拾い上げには「便潜血検査」より「大腸内視鏡検査」が有用です。

繰り返すようですが、大事なことなので…
・40歳までに1度は内視鏡検査を受けましょう
・定期的な内視鏡検査を継続しましょう

参考文献

[1] 大腸癌治療ガイドラインの解説 2009年版. https://minds.jcqhc.or.jp/n/pub/1/pub0042/G0000215/0006
[2] 味岡洋一. adenoma-carcinoma sequence. 『胃と腸』用語集 2012 HTML版. https://gastro.igaku-shoin.co.jp/words/adenoma-carcinoma_sequence
[3] Winawer SJ, et al. Prevention of colorectal cancer by colonoscopic polypectomy. The National Polyp Study Workgroup. N Engl J Med. 1993; 329: 1977-81.
[4] Murakami R, et al. Natural history of colorectal polyps and the effect of polypectomy on occurrence of subsequent cancer. Int J Cancer. 1990; 46: 159-64.
[5] 藤井隆弘. De novo cancer 発見への挑戦─ 通常内視鏡・色素内視鏡,画像強調内視鏡(非拡大)まで. INTESTINE. 2020; 24: 13-21. 
[6] 南出竜典ら. De novo cancer の浸潤・転移・再発リスク. INTESTINE. 2020; 24: 39-44. 
[7] 八尾隆史ら. 大腸SSA/Pの病理組織学的特徴と診断基準―大腸癌研究会プロジェクト研究から. 胃と腸. 2011; 46: 442-8.
[8] Leggett B, et al. Role of the serrated pathway in colorectal cancer pathogenesis. Gastroenterology. 2010; 138: 2088-100. 
[9] 山野泰穂ら.   大腸鋸歯状病変に対する臨床現場での実情.  胃と腸. 2020; 55: 1648-69.
[10] Eaden JA, et al. The risk of colorectal cancer in ulcerative colitis: a meta-analysis. Gut. 2001; 48:526-35.

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