(93) お年玉
「毎度ありい。弁当3つここに置きまーす」
パーマ屋さんのカウンターに、お弁当屋さんは手早く弁当を重ねました。
女主人はカーラーを巻き終えて、ちょうど手が空いたところでした。
「君はお向かいのおまわりさんに、弁当をとらないかと、すすめに行ったんだって?」
「もう伝わってんだ! そうなんすよ。断られちゃった。でも、お年玉ぶくろを拾って、届けるついでだったんで・・」
「へえ、お年玉ぶくろが落ちてたの! いくら入ってた?」
「3000円す。なんにも連絡来ないとこ見ると、落としたって届けに来ないらしいっす」
「今の子は3000円じゃひびかないのかもね。君だって、30万円なら届けないんじゃないの?」
そりゃ、ないっす! 届けますよ、と青年はむきになって言いました。
「あたしも今朝、2000円拾ったの。ネコババしちゃった!」
「ええっ、いいんすか? そんなでかい声出して」
青年はあわてて向かいの派出所を、のぞき見しました。
「いいのよ! 洗濯しようとして、うちの人のズボンのポケットから、助け出したんだから」
「なあんだ」
「ほらこれよ。ちょうど君も昼休みだし、お客さんと君にも、パーッとおごっちゃお。隣でケーキを買ってきて!」
お金を渡され、青年はニコニコと駈けだして行きました。
(これはバブルの頃の話です。お年玉を落としても取りに来ない話を何度か聞きました。総額10万を超えるほどの年玉をもらった話も・・。あの頃は、子どもまでもお金の価値を見くびっていたのでしょうか)
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