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 8章-(6) 乗馬と囲碁

「この家、すばらしい作りだね」

結城君が香織のおじいちゃんの家を、ほめた。檜造りの和風の家で、障子や畳部屋、漆喰塗りの壁など、マンションなどにはない、趣があるんだって。

「オレ、大学は建築科に行こうと思ってるんだ」                                        と、廊下から、茶の間に向かいながら、結城君が香織に言った。

「そうだったの。想像もしてなかったわ」              「何を選びそうだと思ってた?」

「ううん・・そうね、思いつかない。運動する姿しか浮かんでこないもの。勉強する姿はみたことないし、本を読んでるのも見たことないなあ」

「本はよく読んでるよ。『ホビットの冒険』の最初の方の場面で、ホビットの洞穴の家が出てくるけど、それに憧れてね。それが始まりかな。日本の城はもう10箇所くらい見たし、さっきの民家も面白かった。アメリカの建て方と、ぜんぜん違うね。やっぱり日本の気候に合わせてるんだよね」

香織は今だ、と思って、姉から借りた英語の本を、自分のへやから持って来て、結城君に渡した。                          「建築とは関係ないけど、姉が泣いた本なの、読んでみて。私もそのうち 読めるようになりたいな」

茶の間の大きなテーブルには、取り寄せた寿司に、茶わん蒸しや、ホウレンソウの和え物、お吸い物が整えてあった。志織姉は台所で、まだ揚げ物を しているようす。

ママがさっそく皆を席につかせながら言った。            「公園を歩いてくると、お腹がすきますよ。今、揚げ物もできますからね」

志織姉が、得意のポークチーズ巻きの、葉巻状の揚げ物を、レタスの脇に、こんもりと盛った鉢を、2箇所に置いた。

おじいちゃんも加わって、7人で食事を始めた。

「イタダキマス」と、ポールが両手を合わせ、結城君と声を合わせて、そう言うと、おじいちゃんがニコニコして「日本風をちゃんと学んでるんだね。えらいもんだ」と言った。

「オイシイデス。オスシ、ダイスキ」

「それはよかった。生魚が食べられない人、よくいるからね」とパパ。

結城君がポールのことをほめて言った。

「ポールは何でも試してみたがるんです。納豆は最初は変な顔をしてましたけど、すぐに慣れましたし、醤油や味噌で煮た煮物も、おいしがって食べてます。ぬかみそ漬けも食べるから、僕は驚きましたよ」

「そうだ、香織の話では、ポールは宇都宮の直子さんを訪ねたそうだね。 どうでしたか?」                          「タノシカッタ。ギョウザ、イッパイネ」

その後、英語で直子と町めぐりをしたり、日光まで遠出をして楽しんだ話をした。家族みんなで歓迎してくれて、嬉しかったのだって。3人姉妹の中で、長女の直子が一番大きくて、元気でふっくらしてたのだって。

香織は夜にでも、直子にTELしてみようと思った。そうだ、圭子にもしなくちゃ、忘れてた!

「それはそうと、午後はどこか行きたいところがありますか?」と、パパが聞いた。

ポールと結城君が顔を見あわせた。小声で相談し合って、結城君が答えた。「さっきの乗馬をやってみたいです。やったことないし、できるなら、  ちょっとラッキーと思ったから」                  「それなら、簡単だね。食事がすんだら、TELで予約してみよう」とパパ。

ポールが遠慮がちに、続けた。

「その後でもいいですけど、あそこに囲碁の道具がみえますね。結城君の パパに少し教わって、面白いと思いました」

茶の間のテレビの近くに、おじいちゃんの碁盤と碁石ケースが見えていた。

「おじいちゃん、ポールさんが囲碁を打ってみたいんですって」
と、香織が大きな声で伝えた。

おじいちゃんは目を見張ってポールを見やると、うれしそうにうなずいた。「相手がいなくてね。いつもテレビを見ながら、ひとりで打ってるから、 お相手してくれるとは、嬉しいよ」

「でも、先に緑地公園で乗馬をしてくるんですって。2人で2時間くらい」
と、これも香織が伝えた。

「じゃあ、楽しみにして待ってる」と、おじいちゃん。

「ポールは始めて4ヶ月の初心者ですから、手加減してやってください。 うちの親父とは12目置いていたみたいです」と、結城君がおじいちゃんに頼んだ。

2人はお寿司だけでなく、茶わん蒸しも和え物も揚げ物も、遠慮なく   おいしがって完食した。

「この葉巻みたいなチーズロールがおいしいです。中に玉ネギと大葉が  入ってますね。お袋に教えておきます」と、結城君が志織の揚げ物をほめた。志織がうれしそうに、うなずいてから香織を見た。

パパが予約の電話をかけてすぐに時間が決まり、午後も香織が公園へついて行った。

「乗馬は初めてだけど、カオリを後ろに乗せて、ギャロップで走ってみたいよな。ぎゅっとオレに掴まるだろ、そこがいいんだな」        と、結城君がパパに聞こえないように、小さく香織に言った。香織はだまって、結城君の手をつねってやった。結城君はすぐに手を返して、香織の手をぎゅっとにぎり返した。

予定通りに、乗馬をすませ、ポールとおじいちゃんが囲碁を打ってる間、 もうひとつの碁盤で、結城君と香織は〈五目並べ〉をして遊んだ。5回やって、香織は1回しか勝てなかった。

夕食をすませて、2人がお暇したのは、夜の8時を過ぎていた。大阪城に近いホテルに一泊して、明日は大阪城を見学して、夕方には帰るのだって。

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