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4章-(7)VVVと市の賑わい

夫はオランダに来て初めて、ジンマシンを起こさずに夜を過ごし、朝を迎えた。夕べのパーテイでは、あんなにお酒類を飲んだり、肉でも何でも好きなだけ食べて、むちゃ食いしてたのに。

最終日に、英語で論文発表というストレスが、それほど大きかったという  ことだったのかも、と思わずにはいられなかった。意外に繊細な人なのだと、あらためて思った。
私は神経質でいろいろ障りがあるくせに、演劇とかスピーチコンテスト      とか、出場した時は、事前にドキドキとか上がるとかいうのは、ほとんど  なかった。いざ、となると度胸がすわるのだ。

さて、いよいよ〈カランサ・ホテル〉とはお別れの朝となった。荷物を全部詰めこみ、船の折り紙に2Gを乗せておいて、ナイメーヘン駅まで歩いた。

今日も暑い日なので、しましまTシャツの上に、木綿チョッキを着た。駅のロッカーに荷物をいれ、VVV(=観光案内所・オランダ語で、フェ、フェ、フェと読むそう)  を目指して1.5㎞の道を、日陰を探しながら行く。

着いてみると、土曜日のため、VVVは10時から12時のみ開くと判明。40分も早すぎたので近回りを歩くことに。ハトルたちと月曜日に歩いた 同じ所を、夫と歩いた。丘の上のトリアヌスの砦から下へ降りてみると、 前には見つからなかった〈大砲〉や、市の紋章をかたどった花壇を見つけたり、新しい発見があって面白かった。

10時にVVVへ戻り、絵はがきをなるべくたくさん買った。夫は革製の 袋を2つと、ナイメーヘンを紹介する本も買った。

再び町の中心街へ向かって歩き始めると、ひょっこりと〈市〉の開かれて いる場所にでくわし、2人で大喜びした。手焼きのパンを売っている店では、驚くほど種類が多くて、おいしそうだ。果物店も種類が多く、安い! 黄色のメロンを1個買ったら、1Gだった。
サクランボ、ミカン、リンゴ数種、スイカ、イチゴ、バナナ、マンゴなど、あらゆる物がある。それに、チーズ屋、ハム屋、魚屋、八百屋の野菜も種類が多い。しかも日本の半額か7割程度の額だから、客は皆かごいっぱい買いこんでいた。

オランダ人はじゃがいもとニンジンと肉など、ほんの少しの種類をどかっと食卓に盛り上げて食べる〈貧しい食事〉だと書いていたのは、だれだろう?これだけ食材が豊富にあって安くて、たくさん買いこんでいるのに、そんなはずないじゃないか。こうした市が毎日、町のどこかで開かれていて、移動しているとのことだから、人々は毎日豊かな食事をしているはずなのだ。

果物とパンを買い、牛乳やスパーも3本手に入れ、駅近くの公園のベンチに座って食べた。

公園を出る直前に、小型動物園らしい囲いがあり、立ち寄ってみようと話し合った。すると近くで遊んでいた犬が、口にスティックを加えて、私たちのベンチに駆け寄ってきた。飼い主の少女は、少し離れた所からこちらを見ている。犬はステイックを私の足元に置き、頭を低くして、前足を差し伸べたかっこうで、こちらを見上げている。まさか飛びかかる寸前の構えでは? と心配になり、
「この犬は何をして欲しいのかしら?」
と、私が叫んだら、その少女が叫び返した。
「その棒きれを投げて、遊んで欲しいの!」

そうだったの!と、私と夫とかわるがわるステイックを投げてやると、犬は喜んで駆け回って、何度でも届けに来た。

その少女に、幾つか質問してみた。12歳だった。
「夏休みはいつからなの?」
「7月になってから」
「英語は小学校から習うの?」
「はい、習います。でも私は母がニュージーランド出身だから、小さい時 から英語で話してる」などなど・・。

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