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4章-(6) ママを見直す

その帰り道、パパがしみじみとした声で言った。

「ママが落着いてきて、この難局をいっしょに乗り切ろうとしてくれてるのがわかって、よかったよ」

みゆきもそれを感じて、自分も前を向いていこう、と思い直していた。エイやあきおばさんのできごとも、後押ししてくれていたが、ママがパパを切り離すどころか、ピアノの生徒を余分に入れて、借金返しを増やそうとしてる、とわかって、パパを援助しようとしてるのだ、と嬉しかった。

「この冷凍品もありがたいよ。しばらくは思いがけないご馳走になるね」
と、パパが嬉しそうに笑った。

「ママ特製のギョウザもたくさん入ってたよ。パパ、水餃子がいい? 焼きギョウザにする?」
「焼きギョウザだな。大根おろしといっしょに食べたいな」

「それからね、私の好きなポテトポタージュもあったよ。酢豚もあったし」

「ママには感謝だな。大事にしなくちゃ」

パパのその言葉にも、みゆきはまたジンとしていた。 

「ママ、きっと4人分以上作って、私たち用に冷凍しておいてくれたのよ」

みゆきはふと思いついて、そう言った。

「そうか、そうだったんだね。そういえば、いつも4人分よりたくさん作って、残りは翌朝に回したりしていたなあ。朝忙しいから、時短の知恵でも  あったんだね。ママはいつもよく考えていて、えらいな」

「今頃気が付いたの、パパ。おかしいよ」

「いやあ、初めから気がついてたよ。ぼくにはない経済感覚とか、気配りの良さとか、人付き合いのよさもね」

「パパ、経済感覚ないの? 数学の教師なのに?」

「ハハハ、痛いとこ突かれたな。そうなんだ、数学の概念とか理念とかは、面白いんだけど、毎日の買物のお金とか、家計とかの全体をどうバランス  取るか、というのは、別みたいで、どうもよくわかってないんだ。月々に  ママから小遣いもらってたんだが、弁当は持っていくし、タバコは飲まないし、酒もつきあいの時だけ、たまに飲むだけだし、使うとしたら、面白そうな本を買うくらいだったな」

「それじゃ、ずいぶん貯まったでしょ?」

「そうでもないな。寄付はよくしたんだ。友だちが困ってる、助けてくれと頼んできたら、言うだけあげたり、あしながおじさんの会の子たちが、駅で募金を呼びかけてたら必ずあげたね。ぼくは岡山のおばさんに、ずっと世話になって大学まで行けたから、お金に困って、進学や事業が望み通りにいかない人を見ると、今度は自分が助けてあげなきゃ、と思うんだ。

そうし始めたのは、スミ伯母さんのせいでもあるんだ。伯母さんには学資 だけではなく、背広とか服、食べ物もよく送ってくれて、世話になりっぱなしだったから、教師になって毎月伯母さんに送金を始めたんだ。伯母さんは止めてよと受け取ってくれず、今足りない物はないから、お前が誰かを助けてあげるといいよ、と言ってくれたんだ」

パパはそんなことをしてたのか。知らなかった、とみゆきは思った。そう言えば、お中元やお歳暮に父宛に知らない人から、幾つか届いていたのを思い出した。

「ママは僕とママの2人分の給料を、ちゃんと管理して、僕にひと月分の小遣いを渡した残りを、うまく配分してくれてたから、神予町の家をローンで買えたんだ。それを僕が台なしにしてしまったからなあ。あの連帯保証人というのも、経済観念がちゃんとあれば、本当に信用のおける人以外は、引受けるべきではなかったんだ。これはまったく僕が悪い。猛反省してるよ。 今さら遅すぎるけど・・」

「でも、今日のママを見てたら、あの日、怒り狂ったママとは違ってたよ」

「そうだね。協力してやっていきましょう、という感じがあったね。有り難いことだよ。僕も少し家計の始末をちゃんとできるように、今のアパート暮らしで、身につけて、借金返しをやり遂げないとね」 

「協力するね、パパ。私にも何かできるかも。上手に買物するとか、買った物をむだにしないとか」

「それいいね。僕もそうしよう」

なんだか変な話を、親子でしてる、とみゆきは思いながらも、そんな話が パパとできてよかった、とも思っていた。パパの話を聞いて、ママのことも見直せた感じがして、それも嬉しい気がした。

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