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8章-(5) ポール結城君来宅

香織は毎日のスケジュールを自分で決めて、ラジオ英会話講座、編み物、  英語読み物を下調べを続け、数学は姉に教わっていた。

姉と散歩しながら、彼の事を聞かれて、登山の時のこと、会話を習いにお宅へ伺ってること、いろいろ反発もあったけど、彼が好きになってることに    気づいた日のことなど。初めてのデートで海やお城を見にいったことも、姉にはすべてを話せた。

意思の強そうな、頭のいい人ね、オリを大切にしてくれてるみたい、と姉は言ってくれた。

パパの休日が7月27日と知らせてあったので、その日にポールたちが来ることになった。
ママは、ポールたちを迎えるため、その日のレッスンは止めにして、念入りに掃除をしたり、おもてなしの料理を考えたり、忙しがっている。

そしてその日、玄関に2人が入ってきた。

「まあ、よくいらっしゃいました。どうぞどうぞ、お上がりになって・・。いつも香織がお世話になっております」

ママは英語と日本語をまぜこぜにしながら、2人を応接間に招いた。

ポールがママに土産の品の入った紙袋を渡しながら、お世話になります、
などど英語で話している。

香織はママに、結城君を紹介した。

「ポールのホームステイしてるお家の方よ。5月のワンゲル登山の時にも、とってもお世話になったの」

結城君はママとポールの後から、応接間に入りながら、すれ違うときに、 香織の手にそっと触れた。香織もすぐに指に触れた。

志織姉はお盆にお茶と、冷たくしたお手拭きをのせて、応接間に向かった。 香織もついて行った。

パパは応接間で先に待っていて、2人を見ると、懐かしがって握手しあっている。それからは、英語が飛び交った。志織がサンフランシスコから帰って来たことを知って、ポールも結城君も、懐かしがって,最近の町の様子などを聞きたがったのだ。

志織は言葉短く答えていた。まだジェインの衝撃が重く尾を引いていて、 かえってあちらでの話を持ち出されるのは、辛いようだった。

ママがポールに香織の会話はどうなっていますか、と口をはさんだ。

ポールは結城君と顔を見あわせてから、進歩してますよと答えた。そして、電車の中で、香織が It's a tadpole. It grows into a frog. とアメリカ人の親子に説明した時のこともつけ加えた。自分も知らないことだった、と。

すると志織が笑顔を見せて、香織をほめた。

「よく覚えてたじゃない、オリ。あのカードを使ったのは、ずいぶん前  だったのに」                           「私もふしぎだったの。ひょいと口に出てきたものだから、自分でも   びっくりしたの」

「幼い時に覚えたものは、脳の奥の方にしまわれているのかもしれないね」と、パパが口を出した。  

「香織は朝のラジオ講座も続けてるし、よくがんばってるよ。あとは好き 嫌いをなくして、もっと元気になることだね」

そう言ってくれるパパを喜ばせたくて、香織は実情を話した。

「好き嫌いは、だいぶ直ってるのよ。結城君のママが、英会話のあとで、 夕飯をご馳走してくださるの。おいしくて、知らないうちにきらいだった チーズも、ニンニクも野菜も食べてた。寮の方でも残さなくなって、上級生にほめられてる」

「まあ、そんなに結城さんのお母様に、お世話になっていたとは、存じ上げなくて、申し訳ありません。私も香織の食事のことは気にしていたので、 ほんとに助かります。貧血が治ってくれたら、こんな有り難いことはあり ませんもの」

ママが、結城君に頭を下げた。なんだか結城君を見直したみたいだった。

「じゃあ、今日はうんとご馳走しないとね。君たちどう、ここは服部緑地 公園に近くて、あそこへ行くと、乗馬体験ができるし、日本民家集落博物舘を見るのも、ポール君なんか、日本の少し前の時代の暮らし方を見られて,面白いのじゃないかな。午前中にちょっと行ってみないか」

パパが英語で説明すると、ポールが実に嬉しそうに賛成して、結城君を  ふり向いた。

「僕も見たいです。建築に興味がありますから」と、結城君。

「じゃあ、ママ、いいかい、ぼくらはちょっと公園へ行って来るよ。そうだな、12時半には戻れるかな・・」と、パパ。

「いいですよ、ランチの用意をしておきます。お昼はおすしを取り寄せて、夜にごちそうしましょ」と、ママ。

志織姉は、ママを手伝って残ると言い、香織に行くようすすめた。

香織はつばの広い帽子をかぶり、ブルーの袖なしワンピースの上に、白い 長袖ブラウスを羽織って、カメラを持った。

「カメラに気がついて、よかったよ、香織。君たちを撮っておこう」
と、パパが、香織の手からカメラを取り上げて、肩にかけた。

4人で緑地公園へ入ると、子どもたちがあちこちで楽しそうに遊んでいる。噴水が何本も吹き上がって涼しげだ。音楽堂や広場、花壇、はす池など全部を見てまわると、昼までには帰れそうもない。

「乗馬と民家のどちらを先に見たいかな?」と、パパが尋ねた。

「ぼくは民家が見たいです」とポール。結城君もうなずいた。

『日本民家集落博物館』には、北は岩手県から南は鹿児島、宮崎などのあちこちの民家が12軒ほど、白川郷の民家や、東北の曲り家、長屋門、茶室 などあって昔のかやぶき屋根が民家らしかった。その前にポールと結城君、香織と3人で立って、パパに写してもらった。パパはあちこちで、3人を 写し、自分も加わって、香織に3人を写させた。

乗馬のところは広々として、何カ所も乗れる場所があった。希望者は45分乗れて、お金を払うことになるらしい。

「時間が足りないようだから、今は見るだけでいいです。少し他を歩いて みたいです」とポールが言って、4人で公園内を、昼の時間までめぐることになった。

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