![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/73301286/rectangle_large_type_2_0e2137a7d0fb05c78dfc3845b9345e5f.jpg?width=1200)
(189) くも
縁側でタバコを吹かしながら、お向かいの家の義助じいさんは、高い空に浮かんでいる雲を見上げて、6年生の私に問いました。
「雲は何でできてるか知ってるか?」
私がすぐ答えずにいると、おじいさんはユラユラと立ち上るタバコの煙を示して、こう言いました。
「雲はな、地上の煙という煙がすべて集まって、できてるんだよ」
「ちがうよ、雲は水蒸気が集まって、固まってできるって、学校で習ったもん。おじいちゃん、おくれてるう!」
私が思わずそう言い返して笑うと、おじいさんは大真面目で反撃してきました。
「そんなバカなことはない。わしが真夏に日高山に登った時、下から見ると乗っかって、座っていられそうに厚い雲が出ていたが、登って行くと、モヤのようなものが、あっただけだ。あれが雲の正体なんだ」
![IMG_20220123_0010くも](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/73301142/picture_pc_75c78b1cf0c52e9fe67a59b1f3b72986.jpg)
私がもっと反論しようとしたら、おじいさんは和やかな表情になって、こうつぶやくように言いました。
「15年前に、ばあさんが死んだがの、焼き場の煙突から、白い煙がまっすぐに空へ昇っておった。あの煙は天に昇って雲になって、今も空を巡っているのにちがいない。わしもそのうち雲になって、世界めぐりをするぞ」
12歳の私は、黙りこんで考えていました。おじいさんの話の方が、ずっとすてきで、ほんとのように思えたのです。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?