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(189) くも

縁側でタバコを吹かしながら、お向かいの家の義助じいさんは、高い空に浮かんでいる雲を見上げて、6年生の私に問いました。

「雲は何でできてるか知ってるか?」

私がすぐ答えずにいると、おじいさんはユラユラと立ち上るタバコの煙を示して、こう言いました。

「雲はな、地上の煙という煙がすべて集まって、できてるんだよ」

「ちがうよ、雲は水蒸気が集まって、固まってできるって、学校で習ったもん。おじいちゃん、おくれてるう!」

私が思わずそう言い返して笑うと、おじいさんは大真面目で反撃してきました。

「そんなバカなことはない。わしが真夏に日高山に登った時、下から見ると乗っかって、座っていられそうに厚い雲が出ていたが、登って行くと、モヤのようなものが、あっただけだ。あれが雲の正体なんだ」


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私がもっと反論しようとしたら、おじいさんは和やかな表情になって、こうつぶやくように言いました。

「15年前に、ばあさんが死んだがの、焼き場の煙突から、白い煙がまっすぐに空へ昇っておった。あの煙は天に昇って雲になって、今も空を巡っているのにちがいない。わしもそのうち雲になって、世界めぐりをするぞ」

12歳の私は、黙りこんで考えていました。おじいさんの話の方が、ずっとすてきで、ほんとのように思えたのです。


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