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1章-(2) クラスで額縁騒ぎ

クラスへ行くのが楽しみだった。夏休みに、大阪の実家にまで電話をくれた佐々木委員長に、再会できるのが嬉しい。

「今日はまだ毛糸の作品は持っていかないでしょ?」
と、直子が聞いた。
「そう、まだよ。でも2つほど、見本に持って行ってみるつもり」
「それいいね。みんな、驚くよ。オリはみんなに見直されるね」

そんな予言をされると、香織はドキドキしてしまう。でも、なんだか気恥ずかしさもあって、見本を持って行くのもやめよかな、そっと静かにしていたい気もする。

でも、いざ出かける時になると、夏休みに作った1枚だけを、カバンに潜ませた。直子と並んで、教室へ向かう。香織は1年B組へ、直子は隣のC組へ、手を振って別れた。

「わあ、おひさしぶり!」
と、手を振ったのは、隣の席の横井さんだ。1学期の終りに『台所のマリアさま』の授業のあと、香織が寮生だと知って、一番に部屋を訪ねたがり、 そのあとクラスの15人ほどが、次々に来てくれたのだった。

「文化祭の準備で、夏休み中もずいぶん賑やかだったのよ。私もオペレッタに出ることになって、楽しいの。歌うのも踊るのも・・」
と、横井さんは、踊りの身振りつきで、話してくれる。

始業のベルが鳴って、担任の若杉先生が入ってきた。今日は授業はなく、
2学期全体の行事予定のプリントを配り、大体の説明をしてくれた。

「文化祭が近くて、皆忙しいだろうが、勉強の方も手を抜くなよ」
と、最後を締めくくったとき、先生は香織に目を向けて、そう言われた気がした。

先生が教室を出ると、待っていたように、佐々木さんと松井さんの2人の 委員長が寄ってきた。                        「笹野さん、どう? お願いした特技展の出展物、どのくらいできてるの?」
と、佐々木さんに訊かれた。

香織はちょっと肩をすくめて、答えた。
「14枚くらい。文化祭の当日までには、もう少し増やせるかも・・」
「まあ、すごいじゃないの。ミス・ニコルが売りに出して、寄付を集める ようおっしゃったのですって?」
と、松井委員長は驚きの声を上げる。。

「そのつもりで、頑張ったの。今は1枚だけ見本に持って来だけど・・」
「お願い、見せて、みせて! 1学期に寮にも伺えなくて、残念だったのよ」
と、松井さんは、ジタバタしながら、香織のニット作品を見たがった。

香織は、カバンの中から、大判のハンカチにくるんだ〈額縁入りモチーフ〉を取り出した。
これはガクアジサイではなく、ピンク色の華やかな丸っこいアジサイに、 小さな葉も添えてある。

「わあ、なんてすてき!こんなのが10数枚も並んだら、見事よね」    と、松井さん。隣の席の横井さんも、身を乗り出してきた。

「あら、寮で見たのと違う花の色と形ね。どちらもとってもいいわ!」
と佐々木委員長は、ガクアジサイのブルーのもちゃんと覚えていてくれた。

「5種類、作ってみたの。色や種類を変えて・・」           と、香織は控えめに言った。

松井さんは興奮して、こんなことを言い出した。
「これね、欲しがる人、いっぱいいると思うわ。値段をつけること考えなくちゃ。それと、ひとつひとつの額の下に、予約みたいに、欲しい人は名前を記入してもらうのよ。 14枚なんて、このクラスの中だけで、売り切れて しまうもの。クラスの人は、買うのは禁止にするしかないよ。そりゃ、売れ残ったら、買ってもいいけど。きっとあっという間に、売り切れちゃうわ」

「それ、いい提案だわ。私も賛成。クラスの人は、文化祭が終ってから、 笹野さんに個人的にお願いして、作ってもらうのよ。 私だって欲しいもの」
と、佐々木さんも熱をこめて言った。  

たちまち他の人たちも、香織の机のまわりに集まってきた。額を見たとたん私も欲しい、の声がいくつも上がった。

「だから、クラスの人は文化祭の時は、買っちゃいけないの、禁止にする。寄付金集めのためなんだからね」
と、松井さんが、大きな声で念を押した。

数学の得意な前田さんが、さっそく別の提案をした。
「予約を書いてもらうのはいいけど、制限なしだと、ひとつの額縁に10人名前を書かれたとしたら・・、全部で額はいくつあったっけ?」
と、これは香織への質問だ。

「今は14個。昨日も作り始めたし、9月末までには8個か10個くらい 余分にできるかも」
「ほうら。仮に14+8として22個。220個の予約が出てごらんよ。 笹野さんはそれを全部作ることになるのよ。ひと月で8~10としたら、 1年もかかるでしょ」                          と、前田さんは目を見張って言った。

「そんなの、無理よ。編み物だけやるわけにいかないの。勉強があるし、寮の当番が何かまわってくるし・・」
と、香織は困り切った顔になった。 


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