(230) 夕焼けの町
ジィジィ。ドアベルが鳴っています。片方の耳で聞きながら、透は必死に なって、ボンバーマンのコンピューターゲームに、張りついていました。 もうちょっとで上がりなんだ!
ほらほらほら、やったあ、やったね!
上機嫌でドアを開けると、知らないおじさんが、杖を手に立っていました。その目が、家の中を素通りして、窓の向こうをすかし見るようにして、のぞいています。
「何の用ですか?」
透は思わず、とがった声を出しました。
おじいさんは恥ずかしそうに、頭をかきながら言いました。
「あそこの窓から見せてもらえないかと思って・・。下を散歩していたら、西の空がそれはそれはきれいでね。ちょうどお宅の窓が、日に照り映えて いて、いいなあと思ってしまって・・勝手なこと言ってすまないけど・・」
そうなの? 透はすぐに窓へと駆けもどって、外を見ました。
「夕焼けだあ!すっげえ!ほんものだあ!」
11階のマンションの窓のむこうに、あかね空が大きく大きく広がって見えます。今までその窓に背を向けて、コンピューターの画面だけに見入っていたのでした。
「おじさんも、見て見て、すごいよ!」と思わず言ってしまったほど、 警戒心なんて吹きとんでいました。
透とおじいさんは、窓辺に並んで空を眺めました。
「下の通りからだと、建物や電線で空がちぎれて、切れはししか見えないんだよ。ここから見る空は、ほんとに広くて大きくていいなあ」
おじいさんは満足そうに言って、大きく息を吐きました。
町全体が 、あたたかい色の空気に包まれているようです。
ほんとにいいなあ。透も自分の部屋からの良い眺めに、初めて気づいて、 見とれていました。
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