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(私のエピソード集・20)香り好き嫌い

花や香水、お香やアロマオイルに、いい香り! とうっとりしている人を見ると、羨ましくなる。残念ながら、私は匂いの楽しみには、長い間、縁遠い身だったし、今も克服しきれてはいない。

年をとったことで、良いこともあるらしいが、私にとっては〈匂いの感覚〉がすこし鈍くなってきていることが、幸いに思えている。

いつの頃からか、香りが耐えられなくなって、化粧品や石鹸その他、できる限り無香料のみで、頂いた香水は人に差し上げるほかなかった。

教師の頃は、授業前に教卓の花瓶を、窓際とか後部へと、移動させていた。花束や花鉢を頂いても、香りが強いと、屋外やガレージで控えていてもらう。実に申し訳ないのだが、身体的打撃を受けてしまうのだから、許して頂くしかない。

まずクラクラとめまいがして、息がつまり、頭痛、吐き気が起こる。とりわけ、ユリ、クチナシ、ラベンダー、一部のバラなどは、即、ガレージ行きだった。

スウィートピーは、可憐な色と柔らかさが、遠目に憧れの花だったのに、庭の地植えで背丈ほど伸びたのを頂き、玄関に飾ると、10数m 離れた私の部屋にまで、強い香りが漂ってきて、降参した。

そんなわけで、シクラメンとかベゴニア、あじさいなど、今もって香りの少ない花を飾るしかない。

新築の室内に招かれるのも、樹脂の臭いで居たたまれないこともあり、世界を狭められているのは確かだ。

奇妙なのは、ユズとかニンニク、自家製の味噌その他、食べ物系はすべて平気で無害なのだから、首を傾げてしまう。

若い頃の夫は、汗の匂いのきつい人だった。特に夏は、汗でシャツの背や脇に青い染みが残るほど、特別な香り成分を発揮していたようだ。私がそれでめまいを起こしたかって?それが一度もなかったのだから、不思議! 今では散歩しても汗をかかないようで、老人臭も感じられないのは、私の嗅覚の鈍化のおかげ? 

源氏物語の〈薫の君〉は、花の香もしのぐほどの、かぐわしい匂いが、あたりにたちこめ、存在を知られてしまうほどだったという。どんな香りだったのかと、好奇心に駆られる。

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