(73) トリック
久しぶりに幼なじみで親友のN君が、アパートを訪ねてきてくれた。
「奥さん、こいつのことなら、何でも教えてあげますよ。奥さんより10倍も長く、つきあってますからね」
妻は受け流して、にこにこと茶などもてなしている。
ぼくはNが持ち出したカメラで、ゲームを思いついた。
「かなこ、ぼくがうしろを向いてるから、君の好きなところを、指でさわってごらん。当ててみせるよ」
妻は、ほんとかしら、という笑顔で応じた。
「はい、どうぞ、さわりましたよ。ほんとに当たるの?」
ぼくはもったいぶって、カメラを嗅いだり、首をかしげたりしたあげく、ここだ! と、カメラの隅を指さした。
「当たり! どうしてわかったのよ?」
妻は目を丸くした。
「君の匂いでわかったのさ」
ぼくの答えに、Nがぷっと吹き出した。
ペンや置き時計でも、ぼくが次々と完ぺきに当ててみせたので、妻はどうして? を連発する。Nとぼくは笑いすぎて、妻は少々むっとしたらしい。
「じゃ、これでやって!」
スヌーピーのぬいぐるみを、押しつけた。なぜか、やばい! と思った。
予感は的中! 妻はぼくの視線を見張っていた。そして、Nの指先が、Nの鼻の頭に触れるのを、見届けてしまった。
「あなたたち、グルだったのね! 昔からそうなのね。わたしの匂いでわかるなんて、もう!」
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