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(132) 凝り性

大学の3年生になって、正は麻雀の面白さに取りつかれました。ゼミの担当教授の研究室に出入りしているうち、誘われて加わったのが運のつき。始めたからにはとことん究めたいのが性分とあって、正の部屋にはたちまち麻雀関係の雑誌、単行本の山ができました。歴史ある遊びではあり、魔力のような魅力があります。

「雀荘」だの「雀豪」だのフロッピーディスクを友だちに借り、暇さえあればパソコンにかじりついて、練習です。

帰りに研究室の仲間たちと、週に二、三度は麻雀屋に寄るようになり、帰宅時間は遅くなって、夕食を父親と先にすませて息子の帰りを待つ、母親の苛立ちが目についてきました。

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日曜日、遅い朝食を済ませてすぐに、正が二階の自分の部屋でパソコンに向かっていると、
「もう我慢も限界よ。一度きちんと聞いておきたい」と、母が部屋に入ってきました。

「友だちと賭け麻雀したりしてないでしょうね。借金なんて許さないよ!」

正はふふふ、と笑いました。新聞に出ていた、どこやらのどら息子の数千万円という、賭け麻雀での借金の額を思い出したのです。

「大丈夫だよ。そんなのぜんぜんさ。たまに席料の2000円を、負けた順に差をつけて分担するだけで、地味なもんさ。ムリなんかしてない。それにオレ、勝ち続けで席料も一度も払ってないんだ。それだけ勉強してるしね」

「まあ!そうなの・・ とにかく学生なんだからね、忘れないでよ」
母はほっとして、拍子抜けもしたようです。

部屋を出かかった母が、パソコンの画面に目を走らせて、つぶやきました。「なんだか面白そう。私もやってみたいな」
「いいよ。教えてあげるよ、簡単なのから」

正の教え方がうますぎたせいか、以来、正が大学へ行っている間、パソコンの前を陣取っているのは、もっぱら母なのです。

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