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(150) バレンタインデー
教室内は朝からなんとなく落ち着きません。女生徒たちは頭を寄せ合って、ヒソヒソクスクス秘密めかして、相談し合ったりしています。
男の子たちは、幾分の期待とあきらめと不安で、ソワソワしたり素知らぬ顔をしていたり・・。
「一生のお願い、朝子、きいて」
親友の知子が、窓辺に朝子を引っ張っていきました。
「伴君にチョコを渡したいの。だからこの手紙を渡してきて」
「そんなややこしいことしなくても、直接渡せばいいじゃない」
「人に見られるの、やだもん」
珍しく知子が、恥じらうような顔をしました。
![バレンタインデー](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/70356656/picture_pc_0ca1689069a27f4fa9c16d7d78852f28.jpg)
「ケヤキの木の下に来てください、でしょ?」
「えっ? なんでわかるの。げた箱の所にしようかと思ったけど、皆と同じじゃ、やだもん」
「苦労しちゃうね。いいわ、届けてあげる」
朝子は複雑に折りたたんだミニレターを、伴君にさっさと届けました。
その代わり、S君あてのレターを、知子に頼めなくなってしまいました。
〈ケヤキの木の下で〉のつもりが、知子たちと鉢合わせになるのだもの。 ついあんなこと口にしてしまって、知子に場所を譲ってしまったなんて!
チョコの包みを自分で届ける勇気も出ないまま、下校時になってしまい ました。
足取りも重く、藤森公園まできた時、そうだ!と跳び上がりました。S君の家は、そこから少し遠回りした、路地の中にあるのです。いつだったか、地図で調べて、場所もたしかめたことがありました。
その家の郵便受けに、包みと手紙をすべりこませて、朝子ははずんで家路につきました。
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