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再起動

どうも、よなかくんです。ふれあえなくても、ふれあいロード…と思いながら今日も生きています。人肌恋しい季節になりましたね。

さてさて、よなかくんと月曜の理屈
第一二八回は「再起動」

第一二八回 再起動

泣いたり笑ったりの調節がある日突然壊れてしまって、見かねた親に連れられて精神科に行った。会社に行こうとすると吐いて泣いて過呼吸になって、遅刻ギリギリな毎日が続いていた。

診察の前にカウンセラーの人と話をする。自分の声を一言も発しないまま、「職場環境があまりよくなくて、かなり追い詰められている。」という形でストーリーがまとまってしまった。職場の人たちはみんな優しく、仕事内容も量も特に問題があるわけではないのに、すべての悪役を一手に引き受けてもらってしまって申し訳ないなと思った。

どうして会社に行くことがこんなに辛いのか自分でもよく分からない。問題があるのは会社じゃなくて自分だろうと思っているのだけど、それはどうも通じそうになかった。
結局、自分でも分からないことを他人に預けたところで分かりやすいストーリーに当てはめられてみんなで首をひねってしまう。自分でも分からないのだから当たり前だけど、そんなすべてのことに明確な因果関係が結べるわけじゃないだろうと思う。

カウンセリングを終えて診察室に入ると、三十代前半くらいの男の先生がいて、ベルトにでかでかとDolce Gabbanaと書いてあった。別にドルガバは悪くないけど、ああ、ドルガバ…と思った。ほんとに。ドルガバは悪くないのだが。
ドルガバは二、三の質問をした後「まあ今から医学部に行ったり公務員になったりしてもいいですし。まだ若いから大丈夫ですよ。」なんて的外れなことを言っていて、僕の中の瑛人が別に君を求めてなくてそれに激しく同意するほかなかった。
「ま、とりあえず、すぐに休職しましょう」
「無理です。」
簡単に「休め」という人間を、僕はあまり信用していない。

それから心を落ち着かせる薬、というのをもらって飲みはじめた。とにかく眠くなった。眠くて眠くて、朝会社に行く前に泣き喚くことはなくなったけれど、帰り道や電車の中でポロポロと泣くようになった。前に占いの先生が「今とにかく眠いのは、身体じゃなくて心が疲弊しているからよ。」と言っていた。もはや占いでもなんでもないけれど、ドルガバの精神科医よりよっぽど、帰り道は心が朗らかだった。今、眠いのが薬のせいなのか、心が疲弊しているせいなのか、よく分からない。

言葉がうまく出てこなくなった。特に形容詞をよく間違える。高いが大きくて、すごいがたくさん。なんだか変だ。

薬を飲み始めてすぐに、Twitterを消した。
あの情報量の洪水とざわめきが好きだった。でも今は、もうそれに耐えられる気がしなかった。
Twitterがない生活は頭が静かだったが、ハリポタ祭りをやっていることも、某俳優の事故も、峯田さんと山口さんのANN0のことも知らなくて、ああ、SNSをやらないだけでこんなにも社会のことが入ってこないんだと思った。…本当にそれが「社会」なのか、少し疑問だが。

これからどうなるんだろうなあ、とぼんやりと思う。ただ、ある日急に大丈夫になったり、何かをきっかけにスパンと治ったり、なんてことはないんだろうなということだけは、なんとなく、分かる。
きっと、少しマシな日と、ダメな日を繰り返して、どうにかこうにか、やっていくしかないのだ。

今までだったら、自分のこんな話は絶対に書きたくなかった。
だけど、多分僕は、何だか思い切り手を振りたくなったのだ。この世界のどこかで、自分と同じように訳も分からず途方に暮れている仲間たちに向かって、私はここにいるんだと。たとえそれがなんの解決にも繋がらなくても、ただ、一人じゃないんだと知るために。そして、一人じゃないんだと誰かに伝えるために。ただそれだけのことが、心を救うこともあると知っている。

二回目の診察。ドルガバに現状を話すと「どうしましょうねえ…」とだけ言って今までと同じ薬を出して終わった。

また眠たい日々が始まる。

#エッセイ #日記