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【短編小説】急展開な恋

#短編小説 #一次創作 #恋

 僕には好きな子がいる。名前は福田絵美ふくだえみといい、体型はぽっちゃりしていて茶色い背中まで伸びた髪が何とも色っぽい。赤い縁の眼鏡をかけていて僕のお気に入り。年齢は二十五歳。職業はコンビニの店員でアルバイトをしている。僕も同じコンビニで店長として勤務している。僕は絵美とこのコンビニで知り合った。僕の名前は、
多田応助ただおうすけ、二十六歳。体型は痩せているが背が低い、男性の割には。僕は彼女のことが好きだけれど、果たして絵美はどう思っているのだろう。シフトを作るのは僕なので、なるべく絵美と休みがかぶるようにしている。今度、食事にでも誘おうと思っている。いつがいいかな。ここは北海道の田舎町で季節は夏。お洒落なお店というより、居酒屋で鍋を食べるくらいが良いのかもしれない。まあ、彼女に何が食べたいか訊いた方が良いけれど。一応、絵美の連絡先は知っている。もちろん、LINEも。来週の休みに絵美を誘ってみよう。
 僕は今日、十八時まで仕事で彼女は十四時まで仕事。今日は事務仕事もあるので絵美が帰ったらLINEを送るかな。今日は平日で日中のせいかお客さんはまばらだ。
 前に聞いた話しだが、絵美の友人に心の病になってしまった子がいるらしい。彼女の友人だから何とかしてあげたい。でも、僕は医者でもないしどうすることもできない。こういう時、自分の無力さを感じる。結局、病院に行った方がいい、としか言えない。僕は絵美に訊いた。「なんていう病気?」と。すると、「統合……統合失調症っていう病気だったかな」へえ、と思いながら話しを続けた。
「いくつの子?」
「私と同い年です」
 僕は休憩時間に検索してみた。
 若い時に発症しやすく、幻聴・幻覚・妄想という症状があると書いてある。
 絵美にこの話しをしてみると、「何か怖いですね」と言った。
「友達は浴室で手首を切って自殺未遂をしたらしく、大変だったらしいです」
 僕は手首を切ったところを想像しただけで、ゾワッとした。でも、死にたい人ってそういうことも感じないんだろうな。まあ、病気がそうさせているのだから仕方がない。絵美の友達なんだろうから、無下にはできない。
 
休憩時間に僕は絵美に質問した。
「自殺未遂した子の話しだけど、今はその友達は何をしているの?」
「精神科に入院しています。なかなか安定しないみたいで、閉鎖病棟にいます」
「心配だな」
「そうなんですよ。でも、どうしてやることもできなくて……。こういう時、自分がいかに無力かを思い知らされます」
「いやあ、それは仕方ないよ。絵美は医者じゃないんだし。それにしても僕と同じことを思うんだな」
「そうなんですか?」
 僕は頷いた。彼女と同じことを思えて僕は凄く嬉しい。最近では絵美と触れ合う時間がなぜか知らないが増えていて、楽しい。周りにも従業員はいるが、僕は絵美とばかり喋っている。しかも、満面の笑みで。もしかしたら、周囲のパートさんは僕の気持ちに気付いているかもしれない。パートさんは二十代から五十代と年齢層が広い。シングルマザーもいれば、普通に旦那と子どもがいて、ここで小遣い稼ぎに来ている人もいてさまざまだ。
 十四時になり、絵美はレジに向かい退勤した。「多田店長、上がりますね。お疲れ様でした」
「お疲れさん」僕はいつものように対応した。十四時半頃、絵美にLINEを送ろう。この時間になって店内が混んできた。LINEを送れるかわからなくなってきたが、お客さんが増えるのは有難いことだ。たまに、本部の人間が来て売上が悪いとチクリと言われる。例えば、店内が清潔に保たれているか、とかお客様への態度に問題がないかなど、何点か指摘される場合がある。そういう時に、言われたことをこなしていれば、腹が立つ。あまり、言い返さないようにしているけれど。でも、この前、この店舗に社長が直々にやって来た。売上も上々で、お客さんへの態度や店内の清潔具合いなどを見て回ったあとで、褒められた。
「がんばっているじゃないか。従業員への指導も行き届いているようだな。お客さんへの対応もしっかりできているし」
 社長はそう言った。
「ありがとうございます。これからも現状維持できるようにがんばりたいと思います」
「その粋だ! がんばれ!」
「はい!」
 社長の言葉は僕の胸に刻まれ、より一層がんばろうというやる気が増した。
 結局、継続して来客してくれ、絵美にLINEを送れたのは十六時を過ぎた頃だった。彼女のことは常に頭にあったが、お客さんをないがしろにして事務所でLINEを送るわけにいかない。本文は、
〈おつかれ。店が混んでて今、落ち着いたところ。もし、良かったら今度二人で食事に行かないか?〉
 僕はOKをもらえる自信はあった。だが、
〈多田店長と二人ですか? 何人かで行くならいいですよ。二人で行って誰に見られているかわからないので〉という残念な結果だった。でも、僕はまずは二人きりじゃなくてもいいか、と思い、
〈じゃあ、三人で行くか? 竹田たけださんも誘って〉
 竹田さんのフルネームは竹田満男たけだみつおという。パートで勤務していて年齢は二十九歳と僕や絵美より年上。だからと言って、変に気を遣ったりはしない。僕も絵美も対等に接している。
〈そうだね、それならOKです〉
 畜生、別に見られていてもいいじゃないか。そんなに警戒しなくても。きっと絵美は僕に恋愛感情はないな。訊いたわけじゃないけれど、そんな気がする。何だか、カミングアウトする前にフラれた気分、笑っちゃうな。でも、僕は諦めない。食べたいのはステーキ。絵美と竹田さんは何が食べたいだろう。訊いてみよう。まずは絵美から。LINEを送った。本文は、
〈僕はステーキ食べたいけれど、絵美は何が食べたい?〉
 竹田さんも誘わないと。
〈竹田さん、お疲れさまです。今度、僕と絵美と竹田さんで食事に行かない?〉
 彼は十五時まで勤務。今は十五時半過ぎ。暫くしてからLINEはきた。
〈店長、お疲れ様です。良いですね。今度、行こうか〉
 よし、アポイトメントは取れた。
〈何が食べたい? 僕はステーキ。絵美からはまだLINEがきてないから何が食べたいかわからない〉
〈そうなんだね。ちなみに俺もステーキでいいよ〉
 そうなんだ。じゃあ、あとは絵美からのLINE待ちだ。
 夜になり、彼女からのLINEがきた。
〈多田店長や竹田さんは何が食べたいんですか?〉
 絵美にはすぐに返信した。
〈僕らはステーキだよ〉
〈そうなんですね、私は回転寿司がいいなぁ〉
 そうきたか、まあ、僕は寿司でも良いけれど竹田さんにも確認してみよう。
〈竹田さん。絵美は回転寿司が良いというんだよね、竹田さんは寿司でも良い?〉
 しばらくして竹田さんから返事がきた。
〈うーん、本当はステーキが良いんだけど、寿司でもいいよ〉
 よし、回転寿司に決まり! 絵美にもそれを伝えた。彼女は喜んでいた。良かった! まだ、いつ行くか決めていないのでシフト表を見た。だが、ランチなら三人が一緒の休みはない。ただ、夕食として行くなら夜になるが行ける。僕は十八時に退勤するので、それから一度帰宅して準備をしたいから十九時過ぎが良い。それを絵美と竹田さんにLINEした。今は勤務中なので、とりあえず帰宅してから連絡を取り合うことにした。
 十八時までお客さんが途切れることはなかった。午前中はまばらだった客の入りが午後になって増えた。たまにこういうことがある。理由はわからないけれど。ここのコンビニは社長の方針で店内での喫煙は禁止になっている。僕も喫煙者なので休憩に入るとすぐに外に出て喫煙する。僕の勤務時間は九時から十八時までで、休憩はその日に寄って変わるが大抵は十二時か十三時頃に一時間ある。でも、絵美と竹田さんは勤務時間が短いので休憩時間はない。一つ疑問がある。竹田さんはどうしてパートのままなのだろう。以前、社長が僕に言ってきたことがある。「竹田君は正社員になる気はないのか?」僕もそれについては考えたことがある。実際、訊いたこともあるが、「今のままで良いという」何か理由はあると思うがそこまで踏み込んで訊いてはいない。きっと社長は竹田さんを正社員にしたいのかもしれない。メリットはあると思う。勤務時間は長くなるけれど、その分、給料もアップするしボーナスだって夏と冬にでる。今の時代、ボーナスがでる会社はそんなに多くはないだろう。確かに、ここの店舗は売上が
周りの店舗と比べて多いらしい。だから、ボーナスもでるのかもしれないが。
 十八時を回ったところで退勤した。帰宅してスマートフォンを見た。すると
二人からLINEがきていた。絵里と竹田さんから。絵里はこういう文面。
〈その時間帯でも良いですよ〉
 竹田さんはというと、
〈俺は何時でもいいから、十九時過ぎてもいいよ〉
 という内容だ。
二人に同じ内容のLINEを送った。〈現地集合で〉と。
絵里は、〈わかりました〉ときて、竹田さんは〈OK〉という返事。
それと時間は十九時過ぎだけれど、いつ行くか決めていなかった。給料をもらってからにするか。十五日が給料日だから、十六日に行くか。それもLINEで二人に送った。しかし、竹田さんは十六日は勤務終了後、用事があるという。実家に帰るようだ。十七日、彼は休みだからもしかしたら泊まってくるのかもしれない。詳しいことは訊いていないからわからない。うーん、なかなか一筋縄では
いかない。じゃあ十八日はどうだろう、と訊いてみたら〈その日はOK〉ときた。じゃあ、そうしよう。絵里にも知らせた。楽しみだ、できれば絵里と二人きりで行きたかったが、彼女はそれを望まなかった。でもいずれは二人だけで遊びたい。
 翌日、八時五十分頃出勤してみると、社長の車があった。この前も来たのにまた来ている。何かあったのだろうか。
「おはようございまーす」
 挨拶しながら店内に入り、事務所に向かい、社長にも元気よく挨拶をした。
「おはようございます! お疲れ様です」
 社長はスーツ姿でジャケットは着ていない。この暑さだから当然だろう。結構体格がよく、でも僕より背は低い。白髪混じりのオールバック。
「おはよう! ちょっと多田君に話しがあるんだが、今、いいか?」
「はい、大丈夫です!」
 なるべく元気よくを心がけて僕は話している。
「実はだな、竹田君を正社員にしようと思うんだ。彼はもう来るのか?」
「はい、出勤時間は九時です」
「そうか、じゃあもうすぐ来るな」
 竹田君が正社員。社長に評価されているんだな。なかなかやる。でも、本人は何か理由があって、しかも二十九歳にもなってパートという立場にいる。本人にも訊いてみないとどうなるかわからない。


 少しして竹田さんが出勤してきた。社長が来ていることに気付いているだろうか。僕と同様に、「おはようございます」と言いながら入ってきた。事務所には社長と僕しかいない。竹田さんが事務所に来て社長の存在に気付くと、
「あ、社長、おはようございます。多田店長もおはようございます」
 挨拶した。
「おはよう」社長が言うと、先程の話を早速始めた。
「竹田君。君に話しがあって来たのだが、正社員にならないか?」
「え? 俺が、ですか……?」
「急な話しだが、どうだ?」
「ちょっと考えさせてもらっていいですか?」
 社長の表情が曇った。即答だと思ったのだろうか。
「前向きに考えてくれよ。わざわざ来たんだから」
 竹田さんは難しい顔つきになった。何を思ったのだろう。ちなみに僕は急に来て、そういう言い方はないだろう、と思った。
「じゃあ、わたしは店内を見てくるよ」
 社長はそう言って売り場を見に行った。
 竹田さんは僕の顔を見てこう言った。
「俺、実は作家になるという夢があるんですよ。それで、仕事が終わって帰宅したら寝る時間まで小説書いてるんですよ。だから、正社員になると書く時間が削られるのでパートのままでいいと思ってます。親も応援してくれているし」
 初耳だ。でも、僕は言った。
「そういう強い思いがあるなら、社長に直接言った方がいいよ」
「うん、そうする。社長に怒られそうだけど」
 竹田さんの発言に僕は疑問を抱いた。なぜ、怒られそうと思うんだろう。それを言ってみると、
「現実を見ろ! 作家になんかなれないよ、とか言われそうで」
「そこまで酷いこと言うかな、社長」
「わからないけれど」
 社長が売り場から事務所にもどってきた。一言、口にした。
「先入先出と前進陳列がなってないな」
 責任は店長の僕にある。
「すいません。従業員には指導しておきます」
 その後に竹田さんは社長に話しかけた。
「社長、先程の正社員の話しなんですが、」
 社長は笑みを漏らし、竹田さんのほうを見た。
「おお、決意したのか?」
「あの……。実は僕、作家を目指していまして、仕事は早く上がれるパートのままがいいです。そのほうが書く時間が確保できるので。せっかくのお声がけなのに申し訳ありません……」
 社長の表情が真顔に戻る。怒り出すのかと思い、ハラハラしていると、
「結局、そういうことか。チャンスは二度とないぞ? いいのか?」
 竹田さんは俯きながら「はい」と返事をした。
「チッ! 仕方のないやつだ! そんな作家なんかに本気でなれると思っているのか!」
「自分が学生の頃からの夢でして。諦めたくないんです」
 やはり社長は酷いことを口にした。
「君、大学は行ったのか?」
「いえ、高卒です」
 社長はニヤリとした。
「世の中の作家は大卒ばかりだぞ。高卒のお前がなれるわけなかろう」
 竹田さんは社長を睨んでいる。
「なんだ、言いたいことがあるなら口に出して言え。ただわたしを睨んでいるだけじゃわからんぞ」
 竹田さんは話し出した。
「確かに大卒の作家が多いのは認めます。でも、中には高卒の作家もいます」
「ほう。その言葉忘れるなよ。わたしにたてついてただで済むと思うなよ」
 竹田さんは黙った。僕も黙って様子を窺っていた。すると社長は言った。
「せっかく竹田君のことを認めてやってるのに、これじゃ話にならん」
 社長は案の定、ご立腹だ。
「竹田君。君を解雇にしてもいいんだぞ。それでもいいなら文章書いてろ」
 彼は顔を真っ赤にしている。今にもキレそうだ。
「自分は書く方を選びます」
「まあ、解雇は冗談だけどな」
 竹田さんは俯きながら無言のままだ。社長の言葉に頭にきているんだろう。そりゃそうだ、社長が言っていることはあまりにも酷い。それに、冗談にしてはキツイ。社長はムカつく笑顔を見せている。早く帰ればいいのに。正直、邪魔でしかない。そんなことは口が裂けても言えないが。
「だが、竹田君が正社員に後からなりたいと言っても、もう遅いからな」
 社長はまた憎たらしいことを言っている。
「わかっています!」
 竹田さんは強い口調で断言した。
「それならいいけどよ! 後悔するなよ!」
 社長も負けずに強い口調で言い返した。
「大丈夫です!」
 竹田さんはそれ以降、口をつぐんで売り場に行ってしまった。
 今度、社長は僕に話しかけてきた。
「竹田の野郎、なんだか前より生意気になったな」
「というか、彼は小説の話をすると熱くなるんです。相当好きなんでしょうね」
 僕がそう言うと社長は、
「正社員の話しと小説の話は別だろ」
 と言った。
「そうなんですが、作家の話をしたじゃないですか。それでだと思います」
 社長は少しの間黙った後、話し出した。
「若さっていいよな。無限の可能性が広がっているから」
 社長は将来の夢の話しについて言っているのだろうか。
「さて、わたしは本社に戻るとするよ。残念な結果に終わってしまったがな」
「すみません、うちの竹田がご期待に沿えなくて」
 僕がそう言うと、社長はこう言った。
「君が謝ることじゃないよ。まあ、こういうこともあるわな」
 僕は黙っていた。
 僕は呟いた。
「若さ、か」
 なぜ、社長とあろうお方がそんなこと言うのだろう。若いころに戻りたいのかな。わからないけれど。そんなことは訊けないし。でも、社長の意外な発言には関心がある。僕の祖父よりは若いが、割と近い年齢だ。祖父に社長の言われたことを言って、意見を聞こうかな。僕は、北海道に住んでいるが、祖父は東京の下町に祖母と二人で暮らしている。確か祖父は七十八歳で、祖母は八十歳のはず。祖母の方が二つ年上。昭和初期の生まれで、太平洋戦争の話をたまに電話で話した時言っていた。日本は核を持っちゃいかん! と口癖のように何度も電話をするたび言っている。確かに僕もそう思うけれど、僕にそう言われてもどうすることもできない。祖父は自分が戦争の話しをすることに誇りを持っているのかな。実際、経験したことはないと思うのだが。それか、そういう話しが好きなのかもしれない。僕は仕事が休みのときに祖父の家に電話をしてみようと思った。
 
 予定の十八日。僕は仕事を終え、帰宅した。今日は、絵美と竹田さんと僕で夕ご飯を食べに行く予定。まずは、シャワーを浴び、母に今日は「夕食いらないから」と伝えると、「もっと早くに言いなさい! 作っちゃったじゃないの!」と怒られた。「悪い、言うの忘れてた」と一応言っておいた。八月も下旬になるが、まだまだ暑い。なので、赤いTシャツを着てベージュのハーフパンツを履いた。
 時刻は十九時前。もう少ししたら行くかな。僕は自分の部屋でたまにしか吸わない煙草に火を点けた。時間を潰すために。十九時になり、移動時間も考えて行くことにした。財布とスマートフォンと家と車の鍵を小さな袋に入れた。母に「出かけて来る!」と伝えると、「あんまり遅くなるんじゃないよ!」と言われたが、返事はせず家を出た。僕は白い軽自動車に乗っている。中古で買ったもの。もちろん自分でローンは払っている。二十六歳にもなって親に買ってもらっていたらそれはただの甘えだ。
 十分ほど走り、目的地に着いた時刻は車の時計を見ると十九時十分。辺りを
見渡すが絵美と竹田さんはまだ来ていないようだ。多分、二人とも自分の車でくるだろう。絵美は赤い軽自動車。竹田さんはシルバーの普通車に乗っている。
 少し待っていると、赤い軽自動車がやって来た。きっと、絵美だろう。僕の隣に駐車した。彼女は車から降りて来て、僕は窓を開けた。
「こんばんは!」
 絵美は元気よく挨拶してくれた。かわいいやつだ。僕も挨拶をした。
「竹田さん、まだ来てないみたいですね」
「そうだな。七時過ぎと言っといたからもう少ししたら来るだろう」
「そうですね」
 絵美はピンクのツーピースを着ている。かわいい。そう伝えると、
「ほんとですか? ありがとうございます」
 相変わらず礼儀正しい。その時、僕のスマートフォンが鳴った。LINEだ。
 見てみると竹田さんからだ。本文は、
〈絵美さん、来た? 二人で仲良く遊んでよ。俺がいたら邪魔でしょ〉
「え! マジか!」
 僕は驚いた。
「どうしたんですか?」 
 絵美は訊いてくる。LINEを見せると彼女も驚いていた。僕は言った。
「とりあえず、ご飯食べよう? せっかく来たんだし」
「そうですね」
「二人きりになるとは予想していなかった」
「確かにそうですね。どうせならカラオケに行きません? そこなら誰かに見られる心配も少ないし。食事もできるし」
「それでもいいけど、そんなに僕と二人きりでいるところを見られるのは嫌なのか?」
 絵美は考えているようで、それから喋り出した。
「嫌ではないけど、あとでいろいろ訊かれるのが面倒で」
「面倒なのか。それならいっそのこと彼氏だよ、と言えばいい。僕は光栄だぞ」
「え! 彼氏? 私みたいなのが彼女で多田店長は嫌じゃないんですか?」
「嫌なわけないだろ。今も言ったけど、光栄だよ」
「ほんとですか……意外」
 僕の発言はそんなに意外なことだろうか。これで僕の気持ちは少しでも伝わったかな。はっきりと「好きだ」という気持ちは伝えてないけれど。
「多田店長がそう言ってくれるなら、私も言います。私は多田店長に憧れています。憧れているで伝わるかな」
「僕もだよ。僕も絵美に憧れている。というか、好きだ」
 とうとう言ってしまった。僕の気持ちを。いつになったらこの気持ちを伝えられるかな、と思っていたがまさかこのタイミングで言えるとは。悶々としていたのでスッキリした。
「実は私もです。私も多田店長のことが好きです」
 彼女は頬を赤らめながら言っている。そういうところも可愛い。僕は言った。
「なら、付き合おうか」
「そうですね。よろしくお願いします」
 こうやって急展開で始まった僕らの恋物語。果たしてうまくいくだろうか。楽しみ。
 
                             終

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