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私の性

 私は男性も女性も恋愛対象になる。バイセクシャルというやつかな。年齢
は二十二歳。職業はドラッグストアの店員をしていて、登録販売者の資格を持っている。ここの店では正社員で転勤族。今は北海道の北の方に住んでいる。そこで同じ店員で私はその女店員に好意を持った。スタイルも抜群で顔も綺麗。目も二重で鼻筋も通っている。口は小さくて、歯並びもいい。歯の色も白い。肌も色白。こんな綺麗な子を放っておくなんて世の男どもは何をやっているのだろう。それと、私のようにバイセクシャルの女性は周りにいるのかどうかは分からないけれど、もしいたとしたら、なぜ、放っておくのかな。もったいない。

 私の名前は工藤夏目くどうなつめ。好意を持った女性を彼女にしたいと思っている。良い雰囲気のフランス料理店にでも連れて行って告る。きっと交際に発展できるだろう。私はそれを狙っている。彼女の名前は前島妙美まえじまたえみ、二十三歳。

 仕事を同じ時間に終えて、ロッカーで着替えていると、妙美さんがやって来た。緊張がほとばしる。相変わらずの美貌。純真無垢だとよく言われる私は良い男を見ても、良い女を見ても緊張で喋れなくなる。慣れるまでは。慣れてしまえばこっちのペースだけれど。今までがそういう感じだったから。
 話しかけられるのを待っていたが、「お疲れ様でしたー」だけで帰ってしまった。意外と素っ気ない。私と仲良くなりたいと思ってないのかな。仕方なく私も帰宅した。帰宅途中にスーパーマーケットに寄り、今夜の食材を買った。いつも寄るこの店は常連になっている。お気に入りの男性店員もいる。身長は高く、痩せている。鼻が高く、笑うとかわいいと思う。でも、私は目が悪いせいか、名前のプレートの字が見えない。そこが残念。彼がレジにいる時じっくりプレートを見てみよう。何見てるの? と言われても、ああ、何ていう名前なんだろうと思って見てたよ、と正直に言えばいい。

 私は気の多い女だと自分でも思う。他には北海道の北の方に転勤する前にいた時も、女性店員のことが好きだった。その子は割とぽっちゃりしていてでも笑うと愛嬌のある顔付きになる。その子は前田信子まえだのぶこという名前で、当時の年齢は二十一歳。奇遇にも信子は私を好きだったようで、職場のバックヤードで二人きりになった時、呼び止められ、カミングアウトされた。積極的な子だなと思った。信子は、糖尿病だということを知らされたのは交際してからだった。私は健康な人が好きなのでふった。今、思えば信子はレズかバイセクシャルのどちらかだろう。彼女をふった当初は、絶望的になったのか、信子は号泣していた。でも、かわいそうとは思わなかった。私は冷たい女だろうか。ひどいやつだろうか。自分ではそういう自覚はない。だって、病人と交際していてもデート中に具合いが悪くなったりしたら介抱するのが面倒だから。母さんからは、「もっと人に優しくしなさい」と言われたけれど、そんなこと言われたって根がこういう性格だからどうしようもない。それを言うなら母さんだって浮気をして、父さんに「あんたのことはどうでも良くなった。離婚しましょ!」という話を私が高校生のころ聞いてしまった。とんでもないことを言う人だ、母さんは。と思った。それと比べたら私の行動はかわいいものだと思うけれど。

 あとから父さんに聞いた話だけれど、離婚しよ! と言われた時、自分も別れを切り出そうと思っていたらしい。それならすでに母さんに愛情はなかったと思うからいいのだけれど。

 私は今自宅のアパートにいる。同僚の前島妙美にLINEを送った。
<お疲れ様! 今度、ご飯食べに行こう?>
 しばらくしてから返事がきた。
<あなたのことは嫌いじゃないけれど、仕事での付き合いだけにしたいの、ダメかな?>
 意外。まさか断られるとは……。自信あったんだけどなぁ。ショック……。
しばらくは職場で会っても声はかけないでおこう。でも、これで<ダメ>と送ったらどういう反応をするだろう。いたずら心が湧いてきた。そう送ってみよう。怒られそうだけれど思い切って送った。
<ダメ>
 するとすぐに返事がきた。
<はあ? なんで? わたしは仕事とプライベートの人間関係をごちゃまぜにしたくないの!>
 なるほどと思った。
 それ以降、私は返信しなかった。納得したから。でも、妙美さんのLINEは続いた。
<ふざけたLINE送るのやめてもらえる?>
 すっかり怒らせてしまったようだ。どうしよう、謝るのも嫌だし。放っておくかな。どうせ仕事上の人間関係だから関わりは持てないから。

 一時間くらいしてからまた妙美さんからLINEがきた。なんだろうと思って開いてみると、
<なんで無視してるの? 訊いてるんだから答えて!>
 意外と執念深い人だなと思い、仕方なく、
<もうあんなLINEは送らないよ>
 そう送ると、続けざまに、
,<謝って!>
 ときた。私はなんでそこまで言われなくちゃいけないのかと思ったので、
<いやだ!>
 そう送った。これは仕事に行ったら気まずいかもしれない。でも、それは相手も同じだろう。明日出勤してまず妙美さんの行動を窺おう。
 それにしても、こんなに気が強くしつこい女だとは思わなかった。もっと優しくて大人しい人かと思っていたけれど。でも、それ以降、LINEはこなかった。私は負けない、絶対負けないんだから! なんだか今になって腹が立ってきた。

 この私がモテないわけがない。男性にだってウケがいいんだから。今日は休みだから、スーパーの男性店員のところに行ってみようかな。忙しくしてるかもしれないけれど。積極的なのが私のいいところ。自分のいいところを前面に押し出していくスタイル。よし、彼に会いに行こう。まずは、シャワーを浴びてから、化粧をした。薄化粧にしておく。濃くする必要はない、もともとの顔のつくりがいいから。スタイルだっていい。出るところは出ているし、引き締まるところは引き締まっている。服装はそうだな、赤いミニスカートに白地に赤い字のアルファベットのTシャツを着た。艶っぽさを出して彼を私のものにしてやる。レモンスカッシュの香水を少し手首にふりかけて首筋にのばした。
 よし! 完璧。さあ、いざ出陣。前島妙美はうまく引っかからなかったけれど、スーパーの彼はきっとうまくいくだろう。なんたって私が相手だから。もし、うまくいったら、すぐにでも抱かせてあげようと思っている。それぐらい性欲が高まっている。

 スーパーマーケットに着いて気合い十分で店内に入ったが、彼の姿がない。まさか、休み? まわりをよく見てみたけれど、いない。マジか! せっかく気合い入れて用意してきたのにー! だれか、だれか私をナンパして! といっても誰でもいいというわけではない。私にだってタイプはある。一番はイケメン! やっぱり見た目がよくないと。二番目にセックスの相性。この相性が合わないと続かない、私の経験上では。三番目は性格が合うこと。これが私の理想。でも、なかなかこういう男はいない。

 どこかに理想の男はいないかなー。もしいて、つきあってくれたら、おかえしにいろいろしてあげるのに。おいしいご飯を作ったり、掃除洗濯したり。多分すると思う。気が向いたときに。

 基本的に私は相手がよくしてくれたら、おかえしはする。でも、尽くすタイプではない。たまにしてあげるだけ。だから、結婚は向いていないと思う。旦那さんが家事をしてくれるなら別だけれど。

 今、母さんから珍しく電話がきた。父さんが倒れて入院したらしい。でも、私は父さんのことが嫌い。血のつながりもないし。私は母さんの連れ子なので、父さんとは再婚したことになる。だから、倒れたと聞いてもショックはうけない。

 母さんには言ってないけれど、私は嫌いな義父にたまに体を触られる。でも、私は嫌がらない。歓迎しているわけではないけれど。これが実の父親だったら気持ち悪いけれど。

 義父は母さんとしてないのだろうか。しない年齢でもないと思うけれど。しているかどうか母さんには訊けないし、義父は倒れてしまったし。まあ、俗に言うセクハラ、をしてくる義父なんか死ねばいい。これが私の本心。

 母さんから聞いた話では、義父は脳梗塞らしい。母さんは私が義父のことを嫌っているのを知っているから、お見舞いに行かないのも無理に行け、とは言わない。いくら母さんにとはいえ、私の本心は言えない。母さんは義父を愛しているから。でも、こういう状況でも母さんは取り乱したりしない。なぜかな? 簡単に考えて、もう愛してないから、とか。それともまだ生きているからかな。とにかく私にはどうでもいいこと。義父が死のうが、どうなろうが悲しいということはない。

 私の実父はどこにいるのかな、母さんもわからないらしい。会いたい。母さんが言うには私が産まれてすぐにいなくなったらしい。原因はわからないみたい。

 でも、母さんには心当たりがあるらしい。それは多額の借金。そう、父さんはギャンブルが好きだったようだ。競馬・競輪・競艇・パチンコ・スロットなど。でも、いくら借金があるかは知らない。母さんもわからないらしい。多分、私の予想はサラ金から借りていると思う。簡単に借りられるのはそこくらいだろう。銀行のようなかたいところは、簡単には貸さないはずだから。でも、父さんは私たちを置いて蒸発した。なんて無責任な話。現在、父さんは生きているのかな。やくざにお金のことで抹殺されたのでは。そんな気がする。それとも、なにかの病気にかかって亡くなったとか。生きているとは思えない。私もそうだけれど、父さんはろくでもない人だったのではないだろうか。ちゃんと仕事をして生活していればいいけれど。もしかしてホームレスにでもなっていなければいいが。すべては憶測に過ぎないけれど。

 もし、父さんが亡くなっていたら、どうやって、誰が埋葬したのか? そういう話が迷いこんでこないのだから生きている証拠かな。生きていてほしい。この願いは通じるかどうかはわからないけれど。義父と実父ではやはり信頼度や愛情度が違う。義父も大切に育ててくれたから感謝はしている。でも、実父とはちがう。こんなことは口がさけても言えないが。

 今、思えば義父の行いはおかしい。わたしの体をさわったり。血のつながりがないとはいえ父親。変態、頭がおかしいとしか思えない。でも、それを拒否しない私も私だから人のことは言えないか。

 私って変態かなぁ? というより、頭がおかしいのか。人に言われたわけじゃないから、腹もたたない。だが、自分自身のことを批判するのはいささかかわいそうではないかな。母さんに言われたのは、「もっと自分を大切にしたほうがいいよ」と。私のどこをみてそういうことを言うのだろう? 自分では大切にしているつもりなんだけどな。私は自分のことを褒めるし。


 これから行きつけのスーパーマーケットに行こうと思う。このまえ、例の彼はいなくて残念な思いをした。また同じ思いをしたくないから今日はジーンズに黄色いTシャツと、軽めの服装で行く。もし、いたら連絡先を交換したいな。無理かもしれないけれど。とりあえず徒歩で行ってみる。車の免許はないから。取りたいとは思うけど、そんな大金持ってない。母さんに免許の費用出してもらおうとも思ったけれど、どうしようか考え中。

 よし、母さんに運転免許の費用、出してもらおう。私がバイトしたところではたかが知れているから。それなら私より高い給料もらっている母さんに頼ろう。迷惑かな。でも、車を乗れたほうが便利だし、移動も早い。試しに相談してみよう。
 私は午後四時に仕事を終え彼のいるスーパーマーケットに向かった。でも、やっぱりいなかった。なぜ? 辞めちゃったかな。わからないけれど。結局、彼に会うことはできなかった。でも、私は諦めない。いずれこの店で会えることを信じて。

 母さんに車の免許を取りたいという話をした。すると、
「いくらかかるか調べてみたの?」
 まだなので、
「いや、調べてない」
 と言うと、
「調べてからまた言って」
 言われた。私は、
「今、スマホで見てみるよ」
 母さんはだまっている。私は検索してみた。料金一覧を見た。すると、AT車料金は、二十六万六千円。マニュアル車料金は二十八万六千円。結構高いんだなぁと思いながらそれを母さんに伝えた。反応は、
「まあ、これくらいはするよね。お父さんに言っとくから。なんて言われるかわからないけどさ」
 と言った。
「あの人いつも何時ごろ帰ってくるの?」
 母さんは苦笑いを浮かべながら、
「あの人って……。今は入院中だから、復帰したら多分、六時ころには帰って来るかもね」
「そう」
 母さんは呆れたような表情で、
「夏目、あんたお父さんにもしかしたら世話になるかもしれないんだから、あんまり生意気な態度とるんじゃないよ」
「だって、嫌いなんだもん!」
「なんでそんなに嫌うの? 世話になってるじゃない」
 私は思っていることを言うことにした。
「私ね、父さんからセクハラうけてるの。血のつながりがないから触ってくると思うんだけど、変態だわ!」
 母さんはこの世のものとは思えないものを見るような目で私を見た。
「それって、本当?」
 疑われている、母さんに。
「ホントだよ!」
「それって、いつから?」
「うーん、半年くらい前から」
 母さんは意気消沈したような様子。
「でも、脳梗塞で入院してるんだから、助からないでしょ」
 すると母さんは、
「そんなこと言うな! 血のつながりがなくても夏目のお父さんなのよ!」
「こんなときばっか、お父さん扱いしないで! 卑怯よ!」
 私は言った。母さんは有無を言わさず平手がとんできた。
「夏目! お前はいくら義理の父とはいえ、どれだけ世話になったと思ってるの! いい加減にしなさいよ!」
 私は涙目になった。
「痛っ! 何すんのよ!」
 私も母さんをビンタした。
「お前! 親を叩くなんて……!」
 私も母さんも興奮状態で睨みあった。
「あんたは父さんに感謝してないの?」
「してない! むしろ再婚しないで欲しかった」
 母さんは複雑な表情をしている。
「夏目がそんなこと思っているとは思わなかった。母さんは悲しいよ」
 急に母さんの態度が豹変したので焦った。
「あ、ごめん……。今のは撤回して」
 フン、と鼻で笑われた。何を思ったのかな。
「そんなこと、今さら言ったって撤回なんかできないよ」
 返す言葉がなかった。たしかにそうかもしれない。でも、思ったことを言っただけ。悲しんでいる母さんは見たくないけれど。

 もっと全うに生きていったほうがいいかもしれない。自分の性を否定はしないけれど、相手は一人にしぼるべきかも。あっちの男、こっちの女とならないように。そうしたらもっといい恋愛ができるかもしれない。

 翌日、母さんの仕事は休みで、私は仕事。午前中、お父さんの様子を見に行くみたい。私の免許の話ができればいいけれど。もし、できなかったら母さんの判断に任せるしかない。

 私の仕事は九時から十七時三十分時まで。帰宅してからすぐにお父さんの様子の話をした。すると、話はできたみたい。だから免許の話をしたらしいけれど、反対されたみたい。俺の入院費はどうするんだ? と言われたらしくて。だから、退院したあとか、俺が死んだあとにしてくれ、と言っていたようだ。たしかに免許の費用と、入院費の両方の支払いは大変だろう。仕方ない。この件に関しては納得した。

 あとはスーパーマーケットに勤務する彼の件。これは、会えるまで気を長くしていなければならないかもしれない。私の未来は暗くない。がんばろうと思う。仕事も恋も。

                             (終) 

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