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【短編小説】複雑な人間関係

#短編小説 #一次創作 #農家 #若いパート従業員

 実家がトマト農家なので僕は後継ぎ。米も作っているがそれは、自分達が食べる分だけの量しか作っていない。兄妹は3人いる。長男は僕で名前は
星田律夫ほしたりつお、26歳。独身。彼女はいない。次男は結婚していて勝川英人かつかわひでと、24歳。何故、苗字が違うかと言うと婿に入ったからだ。勝川家は漁師の家だ。そこで、後継ぎをしている。勝川家に子どもは奥さんの仁恵ひとえさんしかいない。英人が婿に入る話をした時、父は激怒した。婿に入るなら親子の縁を切る! とまで言ったくらいだ。英人は父にそう言われても結局婿に入った。あれ以来、英人は実家に来ない。ゴールデンウィークも、お盆も、正月も来ない。母は寂しがっているようだ。父は英人を『親不孝者』と言っている。余程、英人が憎いのだろう。3番目は長女。独身。名は星田保美ほしたやすみと言い、22歳。職業はOLで彼氏はいるようだ。

 3人兄弟で僕だけ相方がいない。寂しくないと言うと嘘になるけれど、正直、彼女は欲しい。でも、僕と結婚するには条件がある。それは、僕の両親、祖父母と同居すること。何故かと言うと、僕がこの農家を継ぐから。でも、最近の人は旦那の両親と同居したがらない。挙句の果てには、旦那はいらないから子どもだけ欲しい、という女性が増えているようだ。この前、ニュースで観た。

 最近、父がよく言う話しがある。それは、
「家族経営はきつくなってきた。パートを1人雇うかな」と。
 母もその話しには賛同している。因みに祖父母は反対している。理由は余計な経費を作るな、ということらしい。元々は祖父母が経営していた農家で祖父母は「まだ、自分達がいるからパートなど必要ない」と言っている。でも父はこの前祖父母にはっきり言った。「もうじいさん、ばあさんの時代ではない」と。それに対し祖父は、「舐めた口きくな!」と激怒した。祖母も
面白くない顔をしていた。父は更に反論した。「だって実際そうだろ! じいさん、ばあさんだって年とってきて体力も落ちてきてるだろ。だから、あまり無理しない方がいい!」と言っていた。父は一応、祖父母の体のことを考えているようだ。父の発言が祖父母の心に伝わったのか、大人しくなった。祖母は「ワシらの体の事を考えてくれているのは嬉しいけれど、歩けなくなった訳でもないんだから、出来るところまでワシとじいさんはやりたいんだよ」と言った。

 それに対し父はこう言った。
「じいさん、ばあさん。無理しなくていいから家庭菜園でも作っていてくれ。トラクターも乗らないでくれ」
 祖父はこの前勝手にトラクターに乗り、操作を誤り家の硝子を割った。何事かと思った。これには祖父も深く反省しているようだけれど、父はもう乗らせないようだ。祖父の言い分はこうだ。
「この前の操作ミスはついうっかりしていただけだ。気を付ければ大丈夫だ」
「いや、とにかく、じいさんとばあさんはもう隠居してくれ。2人はもう現役じゃないんだ。それくらいのこと自覚してほしい」
「お前……。言わせておけば良い気になりやがって」
 祖父は怒った。
「だって実際そうだろう」
 祖父は悔しそうな顔をしている。反論の余地がないからだろう。

 翌日。祖父は父にこう言った。
「昨日の夜、ばあさんと話してみて家庭菜園でも作るわ。80歳を手前にして現役は難しいな。トラクターの件ではお前らに大変な迷惑をかけてしまったし」
 そうは言ったが祖父は父の顔を見ずに言った。なぜだろう。納得いってないのかな。
「それと、パートも1人雇うからな」
 そう言うと祖父の眉がピクッと上にあがった。
「好きにしてくれ!」
「まあ、いちいちじいさんに報告する必要はなかったな」

 僕は祖父母が父にこてんぱんにされて少し可哀想な気もしてきた。今まで祖父は先頭をきって働いてきたから、その地位を譲るのに抵抗があるのかもしれない。まあ、地位と言っても何か役職があるわけではないが。父は祖父母に言った。「分かってくれればそれでいいのだ」と。すると祖父は、
「ああ、全てお前らに任せる。その代わり、この農家を潰すようなことはするなよ」
 祖父がそう言ったのを聞いて父は笑った。
「当たり前だ。そんな真似する訳ないだろ。俺らの生活がかかってるんだから」

 父の言動を見ていると、祖父母を馬鹿にしているように見える。気のせいだろうか。父は母に言った。
「今日、ハローワークにいくからな」
「わかったよ」
「一応、お前もついてきてくれ」
「うん、わかった。何時頃行くの?」
「午後からだな。行く時言うから」
 皆で朝ご飯を食べている時に話した内容だ。

 現在、家には父、母、祖父、祖母、僕の5人暮らしだ。実質働いているのは、両親と僕の三人だけ。父はパートを1人雇うつもりのようだ。

 母から聞いた話しだと、昔は馬もいたらしい。でも、採算が合わないのでやめたという。僕が生まれる前の話だ。そういう話しを聞くと両親や祖父母は苦労したんだなぁと思った。でも、いずれこの農家は僕が経営しなければならない。できるだろうか。

 僕ももう26だし、彼女を作って結婚したい。要は身を固めたいのだ。誰かいないかぁ……。条件を飲んでくれて可愛くて優しい女性。

 今は13時30分頃。父が母の元へ行き声を掛けている。今朝、ハローワークに行く話をしていたからきっとそのことだろう。

 家の前に停めてある軽トラに2人は乗り、僕が見ているとこう言った。
「律夫、ハローワークに行って来るからな」
「わかったー」と僕は返事をした。

 どんな人が面接に来るのだろう。きっと、おばちゃんだろうけれど。

 翌日の午前10時頃。家の電話が鳴った。居間には祖父母がいて網戸にしているから外にいても電話の音が聴こえる。電話には祖父が出た。
「もしもし、はい、はい。あ、わかりました。今、変わります」
 祖父はトラクターに乗っている父に向かって叫んだ。
『誠二ー! 誠二ー!』
 父は反応しない。聞こえていないようだ。僕が代わりに呼びにトラクターに近付いた。
「父さん!」
 思いっきり叫んだ。父は気付いてこちらを向いた。そしてこう言った。
「どうした?」
「じいちゃんが呼んでるよ」
 父はトラクターのエンジンを止めてから言った。
「どうした? じいさん」
「ハローワークから電話きてるぞ」
「お! そうか。今、行く!」

 父はベランダから家の中に入り電話に出た。僕も仕事があるので父の話は聞けなかった。

 少しして父は家から出て来た。
「律夫、明日面接だぞ! 24歳の女らしい」
「そうなんだ」
「かわいいといいな!」
 なので僕は、
「何で僕に言うんだよ」
 そう言った。
「上手くいったらどうにかなるかもしれないだろ」
「どうにかなるって、彼女ってことか? なれるといいけれど仕事しにくるんだろ? 向こうはそんなこと考えてないだろ」
「楽しく仕事した方がいいだろ」父は言う。
「まあ、そうだけど。不純だな、父さんは」と僕。
 父は、ガハハハッとデカイ声で笑った。

 夜になり、家族全員が入浴を済ませ夕ご飯を食べるために各々の席に着いた。父は開口一番、「明日は1時30分から面接があるから。その時だけ、俺と母さんと、律夫が抜けるから」と祖父母に伝えた。祖父は「わかったよ」と言い、祖母は「何歳くらいの人?」と父に訊いた。
「ばあさん、いい質問だ! 何歳だと思う?」祖母に言うと、
「40代?」と答えた。笑いを隠しきれなくなったのか、笑いながら、
「24だよ」そう言った。
「え? そんなに若い子なの?」
「真面目そうなら働いてもらおうと思っている」

 祖父は祖母の顔を見て何か言いたげだ。
「まだ会ってもいないのに決めるのは早すぎだろ!」
 祖父はどこを見るともなく怒鳴った。

「そりゃあ、まだ決めてはいないよ。勿論会ってからだよ」
 祖父は身を引くように、
「そうか」
 と、言った。元々、家族経営しかしたことがない祖父母だから、困っているのかもしれない。慣れない人と接する訳だから。何だか可哀想にも思える。

 でも、よく考えたらその子はトマトのハウスで仕事をする筈だから、祖父母とは接点がないと思うのだが。家庭菜園をするはずだから。

 僕の弟である勝川英人からメールがきた。夕食後、自分の部屋に行きメールを開いた。するとこう書いてあった。
<オスッ! 元気してるか? 久しぶり。ちょっと相談に乗って欲しいんだけどいいか?>
<いいけど、どうしたんだよ急に>
<俺、離婚することになったんだ>
 僕は一瞬何を言われたのか分からなかった。
<え? 離婚? 何で?>
<最近、セックスレスでさ。俺も奥さんじゃ勃起しなくなった。それが2年経つから奥さんに問い詰められたから本当のこと話したら、離婚よ! 離婚! と言われて今にいたるんだわ>
<そうなのか、今後どうするんだ?>
<今後は、苗字を勝川から星田に戻して正社員の仕事が決まるまではバイトでもして食い繋ぐさ>
<住むところはどうするんだ?>
<それは、俺の通帳に20万くらい入っているから、それでアパートを借りるよ。どうせ、親父もお袋も俺の顔なんか見たくないだろうからさ>

<両親に話してやろうか? 苗字を戻すとなれば話は変わるかもしれないぞ?>
<まあ、訊くだけ無駄だろうけど、一応、訊いてきてくれるか?>
<ああ、わかったよ>

 僕は父に英人とのやり取りをした内容を話して聞かせた。父は言った。
<俺の静止を振り切って婿に入って2~3年しか経ってないのにもう離婚か。笑わせるな! 苗字を戻すのは構わんが、この家には入れさせん! 勝手過ぎる!>

 確かに父の言っていることは一理ある。苗字も戻してもいいらしい。元々英人は実家には戻る気はないみたいだからちょうどいいだろう。この話を英人にメールした。彼は、
<そうか。確かに実家に戻る気はないし、星田に姓を戻していいのならちょうどいい>そう言った。

 まずは住むところを見付けないと、と英人は言ったので手伝ってやるか。電話で英人と話した。「僕はこの町の不動産屋に行くよ」と言い、
『よろしく頼む』と英人は言った。彼は隣町の不動産屋に行くらしい。

 僕は車で不動産屋に向かった。そこには誰もいなかった。この夏という時期が悪いのかな。室内に入ると奥行きの広い建物だということがわかった。
カウンターの反対側には若い茶髪のお姉さんがいた。スーツ姿で書類を整理しているように見えた。
「こんにちはー」と僕は声を掛けた。
「いらっしゃいませー」
 笑みを浮かべて爽やかに応対してくれた。年齢は僕と同じくらいだろうか。
「あのう、アパートをさがしてるんですけど」
「はい、何人でお住まいですか?」
「1人ですね。僕の弟が住むんですよ」
「そうですか。トイレとお風呂は別がいいですか?」
「そうですね」
「部屋はワンルームでもいいですか?」
「はい」
「少しお待ちください」
 女性はパソコンに打ち込んでいる。

 少しして、プリンターから紙が数枚出て来た。
「お待たせしました。今、募集しているのはこの5件になります」
「わかりました。弟と話してからまた来ますね」
「はい、わかりました。お待ちしております」

 英人は隣町にいるのかな? 電話をしてみよう。何度目かの呼び出し音で繋がった。
『もしもし、兄貴か? どうした?』
「5件見つかったぞ」
「お! マジで? 俺は隣町にいて今、不動産屋にいて調べてもらってる。俺の分と後で見比べよう」
「そうだな、待ってるわ」
 そう言って電話を切った。

 約30分後。英人が帰って来たようで、電話がかかってきた。すぐに出た。
『もしもし、兄貴。今、どこにいる?』
「家にいるよ」
『町に出て来てくれないか』
「ああ、わかった。今、行くわ」

 一度、山にある家に戻って来たので、今行く、とは行ったものの面倒だ。仕方ない。行くか。そこで父に呼び止められた。
「どこに行く?」
「英人の家探し」
 父は俯いてこう言った。
「あんな奴の事より、家の仕事してくれ。忙しい時期なんだから」
「……いや、でも、あいつ離婚して住む場所に困っているからさ」

「家探すだけだぞ。引っ越しの手伝う時間があったら仕事してくれ」
「父さん。英人は離婚して住む家もなくて困っているらしいんだ。だから、引っ越しくらい手伝ってあげたいんだ。それでもダメか? 父さんの息子じゃん!」
「あんな奴は今更、息子でもないわ! おかしなこと言わないでくれ!」
「そういう言い方ないだろ」
「何だ、お前は英人の肩をもつのか」
「肩をもつとかそういう意味ではなく、親子だろ! 英人が婿に出て気に食わないだろうけど、離婚もして姓も『星田』に戻すんだからいい加減、許したらどう?」
「そんな簡単に……そんな簡単に行くか!」
「英人を許すということは、父さん自身も許すことになるんだぞ。楽になりたいだろ?」
 
 父は黙っている。そしてこう言った。
「そうだな、確かに。律夫には負けた。ただし、英人がこれから先、再婚するとして、また婿に入るようなら、いくらお前が何を言おうとも許さんぞ! それだけは覚えておいてくれ」
「わかった」

「今夜、英人に実家に来るように言うか?」
「来たってあいつと話すことはないぞ」
 頑固だなぁと思ったが言わなかった。きっと気分を害すだろうと思ったから。
「まずは一緒にいるところから始めよう。暫く会ってないからね」
 再び父は黙った。都合が悪いことになると、だんまりか。ズルいな。英人にはメールを送った。
<英人、今夜実家に来いよ。親父を説得して今回だけは許してくれたから>
 返事はすぐに来た。
<マジで? 兄貴、何て言って親父を言いくるめたのよ>
<まあ、それはさておき。なるべく英人の方から話しかけてやってくれ。親父は相変わらず頑固で、話す事無い、と言っていたからな>
 英人は一言、「話すことがない」それなら呼ぶなよ。
「まあ、そう言わずに関わってやってくれ。少しずつでいいからさ」
「何だかどちらが子どもかわからんな」
「あんまり気を悪くしないでくれよ」と僕は宥めるように言った。
「わかったよ。兄貴も間に入って大変だな」
 その時、英人はフッと鼻で笑った。僕はあえて気付かない振りをした。
 何が可笑しいのか、こっちは必至になって仲を取り持っているというのに。

 夜8時頃、英人から電話が来た。
「はい、もしもし」
『着いた』
「今、玄関まで行くわ」
『わかった』

 玄関に行ってみると、痩せこけた弟の姿があった。
「お前、めっちゃ痩せたな。飯食ってるか?」
「ああ、食える時に食ってる」英人は言った。
「食える時? 食えない時もあるのか?」
「あまりに時間が遅いと食わない。身体に良くないからな」
「なるほどな」
「お金はある程度持ってるんだろ?」
「ああ、あるよ」
「そうか、まあ、上がれよ」
 事前に弟の情報を得ておかないと、父に突っ込まれた時、フォロー出来なくなるから。なるべくなら、親子は仲良くしていたいし。平和主義者の僕としてはそう思う。

 居間に僕が先に入り、英人はその後に続いた。父は黙って次男を見ていると、急に声を荒げた。
「英人! 何だ、その体! 前と比べて随分と痩せたじゃないか! ちゃんと食ってるのか?」
 英人は耳を塞ぎながら、
「うるさっ! 来ていきなりかよ!」言った。
 父は、「うるさいとは何だ! 人が心配して言ってるのに」
 英人は、「心配してくれるのは有難いけど、もっと小さな声で言えよ。やかましいわ」
 父はむさい表情になり不機嫌そうだ。なので、僕は言った。
「父さん、過度な心配はこいつにはいらないよ」
「そんなこと言ったって俺は英人の父だ。一度は星田家を捨てた人間だが、離婚してまた星田家に戻って来たんだ。大事にしてやらないとな」
 
 父から意外な言葉が発した。「大事にしてやらないとな」。しかも、英人に対して。やはり、僕らより年を食っているだけあって大人なのか。でも、僕は父のことを大人だなぁと思ったことがない。いつも少年の心を持っているように感じられる。

「漁師の仕事をしてた、と聞いたが大変だったろ?」
「まあ、楽じゃねーよ」
「だろ。休みはあったのか?」
「忙しい時はないけど、そうじゃない時はあったよ」
「まあ、そうだよな」
「疲れてるだろうから、少しの間は何もしないでゆっくり休め」
「サンキュ」
 父は英人に異常なほど優しい。以前のような父ではない。どういう風の吹き回しだ? 何か思うことがあるのかな、英人に対して。
「ただし!」
「うん?」
 父は先程とは違い、厳しい眼差しで言った。
「お前、アパート借りるんだろ? 休むならそっちの部屋に行って休めよ。この家には英人の居場所はないから」
 僕は思った。急に厳しくなったな、と。
 緩急の付け方が激しい。英人は言った。
「わかったよ! 今日中には出て行くから。部屋も探してあるし」
「それならいいが」
「兄貴、アパートの資料持ってるんだろ? 俺にくれ」
 そう言われて資料を渡した。

 英人は数枚の資料を1枚ずつくまなく見ている。
 その中で1枚の物件を手に取った。「俺が見つけたやつだ。昼飯食ったら不動産屋に行ってくる」父は、「見せてみろ」と言った。なので、その資料を渡した。

「うん、いいじゃないか。バストイレ付きで、トイレと風呂は別々だし。築10年でまだ新しいし。まさか事故物件じゃないよな?」
「違うだろ」
「それならいいが。いや、家賃が安いからそう思ったんだ」
「なるほどな、でも大丈夫だと思うぞ」
「そうか」

「それと荷物運ぶのも手伝ってくれないか?」
「僕はいいよ」
「仕方ないやつだな。当てにし過ぎだぞ」
「たまにだからいいじゃないか」
「そういうのを甘え、と言うんだ」
 英人の眉間に皺が寄った。
「全く、優しいんだか、厳しいんだか分からないなぁ、父さんは」
 それを聞いて父は高笑いした。
「それはおれの気分次第だわ」

 
「それじゃあ、俺らが困る。父さんの気分に寄って行動を変えられたんじゃあな」

 また、父は笑っている。そんなに面白いか?

 翌日の13:25分。面接まであと5分しかない。本当に彼女は来るのか?そこに1台の赤い軽自動車がこちらに向かって走って来た。きっとあの車が面接を受ける女性の車だろう。

 苗字を聞いてなかったから聞いておこう。僕は父のところに行って訊いた。岩堀明菜いわぼりあきなというらしい。
「今、赤い軽自動車で岩堀さん来ると思う」
「見たのか?」
「うん、多分、この辺じゃ見ない車だからあの車は多分、岩堀さんだと思う」母さんにも言っておこう。
「多分、岩堀さん、今来ると思うよ」
 その時だ家のチャイムが鳴った。来た。僕が玄関に出た。
「はーい、あ、川淵かわぶちさん、こんにちは」
 この男性は町内会長さんだ。70代だと思う。あれ? あの車は……。
「あの赤い軽自動車は川淵さんの車ですか?」
「そうだよ。前の車、壊れちゃってさ」
「そうですか」
 あれ、岩堀さん、来ないなぁ。何でだろ?
「父さん、川淵さんが見えたよ」
「お、そうか。わかった」
 そう言って父は僕と入れ替わりで玄関に行った。僕は母さんに、
「岩堀さん、来ないな」
「そうね、急用でも出来たのかな」
 さらに5分後、また家のチャイムが鳴った。僕が玄関に出た。
「遅れてしまってすみません。岩堀です」
「母さん、来たよ」
「お父さん、川淵さんと話しているし、岩堀さんに少し待ってもらおう」
 黄色いTシャツにジーンズを履いて来た岩堀さん。
 待ってもらう説明をすると「わかりました」という返事だった。
 30分くらい経っても父は川淵さんとの会話が終わらないので声を掛けた。
「あ、来てたのか! もっと早く言え!」

「いや、声掛けたらまずいかな、と思ったけど岩堀さんが30分くらい待ってるからさすがに悪いと思って」
 父と母と僕は岩堀さんを客室に招き、町内会長の川淵さんには帰って貰った。僕ら家族3人は奥に座り、赤堀さんは手前に置いたパイプ椅子に座ってもらった。

 15分くらい話しをして終わった。即決だ。それには赤堀さんも驚き嬉しそうにしていた。父は、「よろしく頼むね」と言うと、「はい」と元気よく返事をした。

 赤堀さん、かわいい!

 というのが第一印象。さて、これから彼女との関係はどうなることやら。仲良くなれたらいいけれど。見た目もかわいいけれど、明るそうな感じがした。こうして星田家に新たな戦力と花が入った。一緒に頑張ろうと思う。

                             終

  




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