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鳩舎 レース鳩のための小屋

畑や田んぼ、漁港などに建っている物置小屋や作業小屋の写真を撮り歩いては記事を書いています。
何かのお役に立ちそうにはありませんが、よろしければ、しばしお立ち寄りください。

みなさんは鳩レースをご存知でしょうか? レース用に育てられた鳩を数百キロ、長距離では1,000キロも離れた場所から一斉に放ち、鳩舎(レース鳩を飼育する小屋)に帰ってくるまでの速さを競う競技です。
鳩は帰巣本能が優れているため、古くから軍事や報道分野で伝書鳩として活用されてきました。情報の受け渡しがほぼデジタルに置き換わった現在では想像もできませんが、1960年ごろまでは新聞社でも鳩が社屋の屋上で飼われていました。速報性が求められる事件の現場に鳩を連れていき、通信文や写真フィルムを足首や背中にくくりつけ、会社に向けて放っていたのです。途中で鳩が迷子になったり、猛禽類に襲われて帰れないことも計算に入れ、当時のカメラマンは同じアングルの写真を2枚撮影し、2羽の鳩にフィルムをくくりつけるなどしたそうです。カメラはスピードグラフィックという大型のもので、フィルムは4×5サイズのシート状、鳩も複数羽連れて行ったというのですから驚きです。
記者と飼育者、原稿を今か今かと待つデスクの姿を想像すると、本当にそんなことが行われていたのかと疑いつつ、なんとのどかな時代だったのだろうと、うらやましくも思えます。

時代の流れの中で情報や荷物を運搬するという伝書鳩としての役割はなくなりましたが、鳩の習性を生かしたレースは残りました。今でもこれを趣味として楽しんでいる方が全国各地にいらっしゃいます。
先週、宮古島に行った際、通りがかりに鳩舎を見かけたので許可をいただき、写真に撮りました。

宮古島で見かけた鳩舎

宮古島では多良間島、石垣島、与那国島をスタート地点にしたレースが行われているそうです。一番遠い与那国島〜宮古島間にもなると約300kmの距離がありますが、鳩は海上を飛んで、その日のうちに帰ってくると飼い主さんは言います。今回、ご好意に甘えて鳩舎の中も拝見させてもらいました。この鳩舎は内地の知り合いに作ってもらったとのことでした。

鳩舎内部。床に置かれている青い塔は鳩が水を飲むための給水器

車であちこち出かけていると、まれに鳩舎を見かけることがあります。それらは普段撮影している農機具や漁具を納める小屋とは明らかに違う形状と構造をしているので、否が応でも目を引きます。所有者がそれぞれに工夫を凝らしているのか、いずれも個性的な形をしていて、思わずカメラを向けずにはいられませんでした。この記事の冒頭の写真は宮城県で、下の写真は千葉県で見かけたものです。
なんといっても一番に目を引くのは出窓ですが、これは鳩にとって住みやすいように工夫が重ねられての結果なのでしょう。

千葉県の房総半島で見かけた鳩舎。どことなくユーモラスさを感じさせる。

ところで、私が鳩レースについて知ったのは、はるか昔、今から40年以上前のことです。当時、週刊少年チャンピオンで鳩レースをテーマにした漫画が連載されていて、それを通院していた歯医者さんの待合室で読んだのです(手塚治虫の「ブラックジャック」も連載されていた)。「そんな地味な漫画が!」と驚かれる方もいると思いますが、連載されていた1970年代後半〜1980年にかけては、趣味で鳩を飼う人がそれだけ多かったと言えます。私の家の近所でも鳩を飼育している家庭があり、朝夕には放たれた鳩が空をぐるぐると舞っていたものです。おそらく50歳より上の世代なら鳩が舞う光景は見慣れたものとして記憶の片隅に残っているのではないでしょうか。

今回、宮古島で飼い主の男性に「そういえば、鳩レースを題材にした漫画がありましたね」と水を向けたところ、「『レース鳩0777』(これで「レースばと あらし」と読みます)でしょ」と即答されました。そして「なんだ、お前もその漫画を知っているのか」と、ちょっと嬉しそうに笑顔を向けてくれました。(了)
2022.11.21


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