小屋のディテールを楽しむ
畑や田んぼ、漁港などに建っている物置小屋や作業小屋の写真を撮り歩いては記事を書いています。
何かのお役に立ちそうにはありませんが、よろしければ、しばしお立ち寄りください。
今回は小屋の扉や雨どいなど細部について見ていきたいと思います。
SNSにはこれまで写真をちょこちょこあげていたのですが、noteでは書いていなかったので文章にまとめてみました。
まずはこちらの小屋をご覧ください。
田んぼ脇でたまに見かけるポンプ小屋ですが、扉に注目してみると、、、。
どこにでも落ちていそうな木の枝を掛金に差しています。これは鍵をかけているともいえますが、厳密には鍵がかかっているとも言いがたい。簡単に抜いて、小屋の中に侵入できてしまいます。でも、所有者はわざわざ南京錠をかけることをしない。おおらかな土地柄なのでしょう。「誰でも開けられるけど開けないよね」という暗黙の了解がここに成り立っています。
同様な戸締りの仕方は他にもあります。木材を立て掛ける、石やタイヤを置く、紐で結ぶなどです。ある農家さんは、防犯というよりも強風などに煽られても扉が開かないようにするのが目的だとおっしゃていました。
こうして眺めてみると、所有者の動作が眼に浮かぶようで興味が尽きません。
次は小屋の雨どいを見てみましょう。これが結構やりたい放題で個性的なのです。
こちらの雨どいは青森県の漁港で見かけました。扉の幅の分だけ取り付けています。
雨どいは一般的に掛けるといいますが、これは吊るすという表現がぴったり。針金での大雑把な取り付け方も、傾斜具合もいい感じです。大雨の時には流れ落ちる水が盛大に周りに飛び散りそうですが、そんなことはお構いなし。しかも流れを隣の小屋の方に容赦なく向けています笑。
お次は北海道で見かけました。
「雨垂れ石を穿つ」といいますが、これはそれを避けるための工夫でしょう。建物の基礎部分が雨垂れで掘られていくのを嫌がったと思われます。でも逃した先でも既に雨垂れが地面を穿ち始めている、、、。
一般的な雨どいのように管を地面まで伸ばして雨水を道路側に向けて流す方が建物へのダメージが少ない気がしますが、それだと(言葉は悪いですが)ありきたりで面白みがなくなってしまいます。この形だからこそ目に止まるわけですし、所有者の個性が伝わってきて、想像が膨らみます。
最後はこちら。東京の下町で見かけました。注目したいのは写真右端にちらっと写っている雨どいです。
近くに寄ってみます。
なぜ壁のこんな中途半端な位置から突き出ているのか?
裏に回ってみましたが、雨どいが見当たりません。
小屋の中をのぞかせてもらうと、管が走り抜けていました。
どうしたらこんな大胆な取り付け方になるのか、所有者に是非お話を聞いてみたくなります。
先日、一緒に小屋巡りをした方が「小屋が何に使われているのかを立地やディテールを手掛かりにして推察するのが面白い」とおっしゃていました。そう指摘されて初めて気が付いたのですが、小屋の観察は分からないことだらけのところからスタートしますので「仮説と検証」の繰り返しです。
戸締りについて言えば、私は防犯ばかりに気を取られていて、所有している農家さんからの「強風で扉が開かないようにするため」という「正解」は思い付きもしませんでした。
雨どいの取り付け方も一見おもしろ可笑しく解釈してしまいがちですが、私が想像もしていないような理由があるのかもしれません。また、住宅でこんな戸締りや雨どいの取り付けをしたら住人の常識や大工さんの腕が疑われてしまうところですが、笑って楽しめるゆとりが生まれるのは小屋という余白の建築だからこそといえます。
ディテールにも所有者の個性が光っていて、見ていて飽きることがないのです。
2021.12.08
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