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東京湾のアサリ漁の小屋

田畑や漁港のすみに建つ小屋に魅せられて、あちこちを巡っています。有益な情報はございませんが、どうぞしばしお立ち寄りください。

千葉県に仕事で行った帰り道のことです。車の窓からチラッと漁船と小屋の並びが見えたので立ち寄りました。後から調べたところによると、ここは東京湾の中でも遠浅の海が広がり、江戸時代からアサリ漁が盛んだった場所なのだそうです。

小屋自体はいたって簡素なトタン壁だったり、トラックのコンテナを流用していたりで、これといって特徴的な形をしていたわけではありません。そこで目を引いたのは、高速道路の高架下に置かれていたステンレス製のザル籠でした。
これは海底のアサリをすくい上げる鋤簾(じょれん)という道具だそうです。先端にツメがついていて、柄の長さが4メートルはあるでしょうか。重さ10キロほどもあるこれを手探りで操って、アサリをすくい上げるのです。
ただ、ここ最近は使われた様子がありません。

私が訪れた時間帯は昼下がりでしたが、写真を撮っている間もすれ違う人はほとんどなく、ひっそりとしていました。
船橋市漁協では、昭和40年前後の最盛期には年間2万トン前後のアサリ収穫量がありました。それが平成の後半は500トンに満たなくなり、令和2(2020年)年度の漁獲量はついにゼロになったそうです(注1)。
1時間ほど周囲を歩き回りましたが、漁港のすぐ目の前にまでマンションや建売住宅が建ち並んでいて、見方によっては東京のベッドタウンの中に港町の面影が残っているといった風でした。

漁師たちは東京湾に居着いた北米原産のホンビノス貝を収穫しつつ、アサリが再び生息できる海を取り戻そうと漁場の環境改善に取り組んでいるそうです(注2)。眠っている鋤簾が再び東京湾の遠浅の海で使われ、小屋に人が出入りする日が来ることを祈ってやみません。
注1 産経新聞2021/6/25   注2 船橋市HP
(了)
2022.08.09


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