幸福な死 1

 僕の母さんは、僕をうつ。痛いと泣いても、僕をうつ。最近やっと、少しだけやめてくれたけど、昔の傷はなかなか癒えない。僕は、学校で服を脱ぐことができない。背中を、みんなの前でさらすことが、できない。

 今日、転校生がきた。色の白い、女の子。僕の隣の席になった。仲よくできるといいのだけれど。僕は、口べただから。みんなとも、うまく話せないから。よ、よろしくね。勇気を出していってみた。女の子もよろしくね、といってくれた。良かった。なんとか、嫌われずにすみそう。


 私を、私として認めてくれる価値といえば、身体。女だから、認めてくれる。いつもは無口なお父さんも、私が裸になれば、にこにこしてくれる。それが嬉しくて、私は毎晩、裸になる。お母さんは、それをあんまりよく思ってなかったらしくて、今年、二人は離婚した。そんなに娘がいいのなら、そいつとこどもを作ればいいじゃない。お母さんは泣いていた。

 お父さんと二人暮らし。元いた場所もいいけれど、ここもなかなかいい感じ。隣の席の男の子も、優しくしてくれる。最近、お父さんは私が脱いでも、にこにこしてくれない。どうしてかな。


 僕の隣の子、最近、元気が無い。どうしたのかな。毎日、学校に来る前、僕はハラハラする。彼女が、来てないんじゃないかって。でも、それは杞憂。僕より先に登校している。おはよう。彼女の笑顔。


 お父さんが、乱暴をしてくる。やめてといっても、やめてくれない。そのせいで、身体はぼろぼろ。お風呂に入ると、あちこちが痛む。酷い時は、朝、起き上がれない。学校休もうかな。何度も思った。けど、そう思うたび、隣の席の子を思い出す。今日も、挨拶しなくちゃ。


 なんだろう、この気持ち。彼女を見ると、胸がざわざわする。まるで、自分を見ているみたい。少し、気持ち悪いな。

 数日前から、鏡に彼女が映る。少しはにかんだような、顔。思わず、鏡を倒す。血まみれになりながら、僕は破片を片付けた。母さんに見つかったら、大変だ。


 お父さんの顔が、隣の席の子に見えることがある。優しげな、表情。彼が、私を触る。あちこち、触る。そんな風にされると、私は頭が真っ白になる。ぐったりしていると、お父さんは、久々に笑ってくれた。満足してくれたみたい。

 今日、彼は手に包帯を巻いていた。大丈夫? 声をかけると、私を触る時みたいな顔をして、大丈夫、と答えた。


 鏡に、彼女は映らなくなった。でも、今度は僕の顔が歪んで、映る。歪みすぎて、何かの模様みたい。だから僕は、寝癖をつけたまんまで、学校に行く。恥ずかしいな。彼女は気にしてないみたいだけど。


 寝癖をつけた彼は、少しかわいい。朝が弱いのかな。そんなことを考えながら、ベッドに潜る。お父さんも潜る。お父さんが私を覗き込んだ。目の中に私が映ってるのが見える。でも、なんだか変。私の顔、ぐちゃぐちゃ。思わず、悲鳴を上げる。お父さんは、うるさいぞと、ぶった。


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