見出し画像

ピアスの話

 私の耳にはピアスが7つほど開いている。
 左耳の軟骨に3つ、右耳の軟骨に1対(という表記で合っているのだろうか…)、両耳たぶに1つずつ。

 まず始めに耳たぶに開けた。高校を卒業した後の春休みだったと思う。友達と遊んだ際、駅ナカの雑貨店でピアッサーを買った。自分で開けるのは怖かったので、友達にその場で開けてもらった。トイレの前のベンチに座り、慣れない手つきで耳たぶを触る友達。パチン、というよりガチャン、という音に近い衝撃と地を這うような痛みが襲った。
 逆の耳たぶのホールを開けたのは当時付き合っていた彼女だ。カラオケ部屋の暗がりの中、私の処女を捧げた女に穴を開けてもらった。ピアスを開ける、という行為を当時の私は「戒め」だと考えていて、だからこそ彼女にやってもらおうと前々から思っていた。彼女にはたくさんの「初めて」をあげたし、たくさんの「初めて」を教えてもらった(ピアスは初めてではなかったが)。
 軟骨のホールを開けたのはそれから数年後。社会に出てから2つ目の仕事を辞めようと思っていた時に開けた。またしてもカラオケの部屋で、「元」カノの目の前でピアッサーを押した(今度は自分で開けた)。自分で開けることの恐怖、久しぶりの衝撃、そして知らない痛み。ピアスは開ける瞬間よりも開けた後の方がずっと痛い。当たり前だ、傷に針を通してわざと治らないようにするのだから。
 2つ目の軟骨ピアスはそれからすぐに開けた。開けたい、という気持ちにせっつかれて、慌てて逃げるように開けた。家の居間で、親のいる前で、鏡の前の自分とにらめっこしながら。
 3つ目は何故か思い出せない。多分、自分で開けた。
 右耳は病院で開けた。インダストリアルという、穴と穴の間に長いピアスを渡して繋げる軟骨ピアスの一種だ。耳に長細い鉄の棒を1本通しているような感じ。2ついっぺんに穴を開けて棒で繋げるのは流石に私だけでできることではなかったので、ちゃんとした病院で施術してもらった。そこに小学校の友達が助手として働いていて、久しぶりの再会がこんな形で叶うとは思ってなかった私は、嬉しさと動揺と少しの恥ずかしさの中、その友達の上司にあたる若い医者に丁寧に穴を開けてもらった。

 だから今、私の耳にはピアスが7つほど開いている。
 これからもっと増えるかもしれない。し、逆に減っていくかもしれない(つけなければ勝手に塞がるので)。本当はインダストリアルをもう1つ増やして、耳の中に×を作りたいと思っていた(所謂インダストリアルクロスというヤツ)。でもこれから仕事が始まるかもしれないので、これ以上増やすのは厳しい。
 なんてことをしていたら今年も半分が過ぎ去ってしまった。私はどうしてピアスを開けるんだろう。ピアスが好きだから、私は悪い人間だと周りに示したいから、ストレス発散になるから。全部当たってるし、全部外れてる気もする。おそらくただ強くなりたいんだと思う。恐ろしいくらい脆くて弱い自分が嫌で嫌で堪らないから。

 ピアスを触ると安心する。私のものじゃない重みと、それでできた痛みに助けられて今日も生きている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?