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平成4年うまれ、27歳

わたしはきっと、ジェンダー的には恵まれて育った。

父親はわたしがまだ幼いうちから「24までに結婚しろ」「俺より背が高く俺より収入があり俺より学歴のある男を選べ」「はやく子供を産め」なんて言っていたし、
母親も「そんなんじゃあ結婚できないよ」と口を酸っぱくしたけれど、
わたしはそこそこ奔放に、普通を外れて、好きなことを好きなだけやってきた。
親も許さざるを得ない状況と関係性をつくって。

それでも自分に女性性を課している部分は少なくないと感じる。

それはきっと「男だから泣いちゃダメ」「男だからたくさんお金を稼がないとダメ」なんて思い込んで潰されそうになっている多くの男性と同じ程度の、よくある、とは言え見逃しちゃいけないような、抑圧なのだとおもう。


スポーツ推薦で行くはずだった大学に進めないことがわかったとき、高校の担任はこう言った。
「わたしは早稲田に行きたくて、必死に勉強した。女の子だから浪人はダメだと親に言われていた。受かったけれど、そんなにがんばる価値あったかなってすこし後悔してる。早稲田の女は排除されて、他の大学の女の子が優遇されてる場面がたくさんあった。浪人までして『いい大学』になんて行くもんじゃないよ」
当時のわたしには、女としての幸せなんて縁遠すぎて、そんなのどうでもよくて、他人事で、だから先生のつらさなんてひとつもわからなかった。


その後に半年だけ通った短大で出会った女の子は、
「お父さんが『女は大学なんて行かなくてよい。短大を出てさっさと結婚しろ』と言う。弟は好きなようにさせてもらっている。母も父の言いなりだ」
と嘆いた。
中高一貫私立女子校からきた彼女は、最初こそ大人しかったが、すぐに縮毛矯正をし、髪を染め、メイクを覚え、バイトをし、男の家に入り浸るようになった。
親の言いつけに背き、大学に編入した。
その後の消息は不明だが、虚言癖がついたらしい。
変なの、と思っていた。


わたしは、それ以外のものをたくさん与えてもらってきた。
それでも、綺麗じゃないと、メイクしないと、裁縫できたら褒められるし、料理もできないと、男の人の機嫌を損ねないようにしないと、すこしバカなフリをしないと、子ども好きなほうが印象いいよねいつか産むかもしれないし、ってがんばったりした。
そしたらレイプされた。警察にいったら、たらい回しにされた挙句「そんな可愛いワンピースなんて着てるからだよ」と言われた。

男性に課せられた「泣かずに働きお金を稼ぐ」は生きてゆくのに役に立つけれど、
女性に課せられた役割はほとんど役に立たないものばかりだと感じる。
褒められる特技や求められる特性をどれだけ身につけようと、生きてゆくには不十分だ。
それらはときに、不要な能力でさえあったりする。


わたしのことを「容姿がよい」という理由を第一に好きになった人たちは、すぐにわたしを見下し尊重しなくなった。セックスをしたら優しくなくなった。
もっと尊敬できる人と付き合ったほうがいいよ、と悲しくなってさようならをしてきた。


抱くまで好きでしょ

セックスするまではみんな優しい
セックスするまでは頭がいいねえと言ってくれる
セックスするまでは面白いねえと言ってくれる
セックスするまでは親切
セックスするまでは話を聞いてくれる
セックスするまでは丁寧

セックスするまでは


セックスをすると、なんでこの人はこんなわたしとセックスなんてしたのだろう、バカみたい。と思ってしまう。
少しいいなと思っていたはずが、射精を目撃した瞬間に滑稽に思えてしまう。
そして「いい子のわたし」はいなくなる。

もし次に誰かを好きになったら、最後までセックスせずにいなくなりたい。
綺麗で面白くてしっかりしていて頭が良くて可愛い人だったな、と思い出してもらいたいから。

昔好きだった人と会うとき、相手が結婚してようが子どもを産んでいようが、少なからずドキドキするでしょ。セックスさえしていなければ。


お顔が整っているお友達も、恋愛下手でいつも苦しんでいるので、候補者が多すぎるとしんどいよなあと思う。贅沢な悩みと言われることは承知だが、本人には深刻なのだ。

お顔が整っている上に頭もよい人たちは、よっぽど運が良くない限り、長いあいだ苦しい思いをしている。
あれ、わたしはこっちに進めるけど(あるいは進みたいのに)、逆のほうが望まれてるの?そっちのほうが正しいの?幸せなの?みたいな。
やりたいことや使命感などのない人間が多い現代、惑わせてくる言葉や多すぎる選択肢は鬱陶しい。

わたしも彼女らも、選択肢が多いと不幸になるを体現している。
女はこう!男はこう!の時代になんて生まれたくなかったけれど、すべて決まっていれば楽だったかもしれないとはおもう。
なんでもこなして羨ましいよと言った中学の同級生がわたしは心底羨ましい。


もちろん、綺麗でいたいし綺麗だねと言われたい。
好きな人にはとくに綺麗だと思われ続けたいし、自慢されたい気持ちだってしっかりある。
だから髪をとかす。毛を剃る。眉毛を抜く。ワックスシートを買う。毛ばっかりかよ。医療脱毛はエステティックTBC

それによって男の人が甘くなる。魚とかサービスしてくれる。荷物も持ってもらえる。財布もバッグも買ってもらえる。必要なものがあれば送ってくれる。

女の人も親切になる。道案内をしてくれる。チップをたくさんくれる。困ったらうちに泊まりなと言ってくれる。看病してくれる。

助けてもらいたくて身だしなみを整えているわけではないのに、助けてもらえる。
媚びたんだろと言われる。ただ最低限の気を使っているだけなのに。
マナーだと言われメイクをし、マナーだと言われ清潔感のある服を着る。
可愛いから、綺麗だから得をしていると言われる。
うるさい、黙れ黙れ黙れ。

ワガママだろうか。ワガママかもしれない。
実際に得をしているのだから。
長期的にみたら損もしているけれど、他人からは見えない。悔しい。悲しい。

すべてを捨ててしまいたくて、坊主にしようかと真剣に検討する。
どうせわたしは坊主も似合うし、ばっちりメイクしてヒールを履いたらどちゃくそオシャレになる。
ああまた着飾ることを考えている。



レオタードいちまいで走り回っていたわたしでさえ、これだけモヤっとした気持ちを抱えているのだから、
「女の子はスカートしか履いちゃいけません」と言われていたあの子や、
「同じレベルの家庭にしか嫁いではいけない」とお見合いを強いられているあの子なんかの苦しさったらないだろう。

わたしは女として生きてきたから男性の苦しさやつらさはわからないけれど、いずれにせよつらい思いをした人たちがみな笑顔になれ、ステレオタイプが再生産されない時代になることを願う。

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