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人間の舌はしっかり覚えている

幼い頃の記憶をふと思い出した。

親父は酒を呑み、暴れ、翌日はけろっとしている人だった。

そんな親父が酒を呑みながらつまみをよく食っていたがその中でも忘れられない味があった。

「サーロインステーキ」

そう聞くと別に特別凄く良いものでもないかもしれない、しかし幼き頃、母が焼き、一口だけ貰ったあの味は40歳になった今でも忘れる事が出来ない味だった。

成長した俺は飲食店で働いていた事もあり、ステーキを提供したり食したりはして来たが幼い頃に食べたあの味だけはどうしても再現できなかった。

普通の家庭にある普通の物しか使ってなかったはず、大層特別なスパイス等も使ってる料理が出て来た記憶もない。

人生で何度もステーキを焼き、お店に食べに行ったり、沢山食べて来てすごい美味しいステーキのお店も知ってるが、自分で焼く時は「母の味だ!」ってなった事は1度たりとも無かった。


そんな時を経て今日、職場近くにスーパーがオープンし、サーロインステーキが安く売ってたので買って来た。

焼く前に今までやって来た調理過程は全部やめる事は買った時から決めていた。家にある物だけ、難しい事はなかったはず、あの頃の母より料理が出来る自信もある、問題は何を使ったか?

幼き頃に食べたあの味をちゃんと舌は覚えていた。そして今日ようやく辿り着いた。


味塩胡椒、元料理人という事もあって味塩胡椒は卑怯と使って来なかったが料理人辞めてからはよく使ってる

そしてバター、フライパンに残った肉汁と絡め焼いた肉にかけただけ。

決定打は牛脂、なんて事は無い、お肉買ったらタダでもらえる四角いアイツ

ここまでの説明を読んだら別に普通じゃんって思う人もいるだろうが食べながら泣いてしまった

正に追い求めていた味をやっと見つける事が出来た、母の味を再現し、親父に殴られたりしてたあの日々が走馬灯のように一気に頭を駆け巡り泣けて来た

ちゃんと舌と脳みそは覚えている事を痛感した、母は手間暇かけて料理をする人だった、自分が飲めない牛乳を使ってホワイトソースを作ったり、1から10まで全て手作りでロールキャベツを作ったり、俺はその背中を見て来た。

両親が離婚した後、叔母が作ったご飯を食べていつも内心がっかりしていた、美味しくない、本当は食べたくない、きっと叔母は一生懸命やってくれたのは今はちゃんとわかるし感謝もしてるけど美味しくない物は美味しくない。


俺は成長する過程で美味しいものが食べたいって気持ちが人より強くなった、高校生の頃何となく始めた飲食、そのままレストランにまで入って料理をやり始めた。母の味と叔母の美味しくない料理、この2つが無ければ俺は料理をやっていなかったかもしれない。


飲食を辞めて早6年、14、5年やって来た飲食で見つける事が出来なかった母の味を再現出来た良い1日だった。


皆様には思い出の味、ありますか?

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