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詩「折り紙の喉元」

隣に住んでるおじいちゃん
縁側でボッとしてる時期を過ぎて
気付けばなにやらせっせと畳んで吊るしている

隣家を横切るたび僕は
せっせと畳んで吊るされるものに興味津々
あれは千羽鶴? それとも干し柿?
とわけの分からぬものに興味津々津々浦々
とうとう我慢ができずに問いかけた
「おじいちゃん、それなあに」

「動物の喉元だよ」
おじいちゃんはいった
「見てていい?」と尋ねれば
「見てていい」というので見ていた

気づけば隣家の裏戸を開いて
小さい庭へと入りこむほどに
近づいて見ていた

おじいちゃん
折り紙をめくりめくり
くるくる丸めて筒状に
指紋付きセロファンテープで
ぐるりぺたぺた つないでく
青白青赤黄色に緑に金銀紫

おじいちゃんの
背丈ほどになったら
軒先へと吊るしてゆく

「これはなあに?」
「だから動物の喉元なんだよ」
「なんの動物?」
「箱舟に乗った動物」
「どうして動物の喉元を吊るすの?」
「じつは夢に未来の自分を見たんだよ」
「未来のおじいちゃん?」
「ああ、私はどこかのきれいな黒い肌のな、若々しい青年になっててな、まあそれが来世の、つまりは未来の私なんだが、その青年の住む村では狩猟して食べてしまう動物の喉をすっかり引き抜いて家の軒先に吊るす習慣がある。青年がそれをするのを私は夢の中で何度もみた」

 それにはどんな意味があるの?
 そう聞くころにはもう夕暮れで
 おじいちゃんの顔は影に隠れて
真っ黒くろで、
影をまとって大きく見えた

「さあなぁ。でも私はこうやって未来への準備をしているんだ。連綿とした動物たちの喉をつないで、とりどりの鳴き声を聴きながら」

 お母さんが僕を探しにきて、
夜になる前に
おじいちゃんと別れを告げた。

 その後、僕はおじいちゃんをしばらく見ていたが
 やがて飽きてしまって
いつの間にか、おじいちゃんはいなくなった。

「ねぇ、あれ何?」
 恋人が大きくなった僕にいう。
 小さな窓に吊るされた筒の折り紙

恋人に僕は
「てるてる坊主」
と答えて、スマホのロックを解除した。

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