見出し画像

いつかの旅 広島編 vol.2

尾道でみたかった景色がある。
ゆるやかな坂道や階段が多い尾道の山の上にたっている千光寺。
そこからみる景色は、これぞ尾道という感じで、テレビでときたま特集されたりもしている。
遠くには、瀬戸内海の島々がぽつりと見える。
波の少ない凪の海が、家並みに沿って湾に入り込む。
高いところからみると、海はおおきな蛇のように、ゆったりとした曲線を描いている。
人の生活がすべて眼下に広がっている。
家なんておもちゃみたいに見える。
海と山は変わらずそこにつっ立ってぬぼーとしてる。
はじめての瀬戸内海は、熟成されたウイスキーみたい。
棚にひっそりとしまわれて忘れられたそれのような、地味でおいしい味わいがあった。

千光寺から地上へとつづく長い坂道。
背中の折れ曲がったおばあさんが、荷物を手に休み休み、かみしめるようにして、階段を下っている。
おばあさんの向こうには遠く瀬戸内の海がみえる。
ふとおばあさんの隣をみると、甘味処の看板があった。
ちょうど歩きつかれたところだったので、民家のようなお店に入った。
イチゴのかき氷を頼む。
作衣を着た中年の男性が一人で営んでいるようだ。
テーブルが数席あるだけの、簡素な店内。
普段はかき氷をひとつ食べきれないのだけれど、このかき氷だけは「特別」だった。
ふんわりとしていて、口の中で一瞬にして水になった。
イチゴ味のジュースを食べているみたいだった。
一緒に添えられてきた一輪の野花があの店にはよく似合っていた。
あっという間に食べ終わり、私達は店をあとにした。
広島の旅では、いろんなものを食べたけれど、あのふんわりとしたお山のかき氷を記憶の中でなぞるとき、甘味処からみた瀬戸内のちいさな海が目の中いっぱいに広がる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?