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北欧旅 vol.1

フィンランドへ到着した翌朝、友人のガビーが
車で5分ほどの距離にあるパンやさんに連れてきてくれた。
パンと飲み物を注文して席へと座る。
小さな店内にはテーブルが3つ縦に並んでいた。どのテーブルにも体格のいいおじさんが一人で座っていて、お互いの背中を眺めながらまっすぐに前を向いて黙々とパンをほおばっている。
私はガビーと彼女のフィンランダーの夫にフィンランドの人たちはシャイなのかと訪ねてみた。
さっきも年の多い男性とすれ違ったけれど、目が合いそうになったらとっさに節目がちにうつむいたからだ。
二人の答えは、フィンランドの人たちはベリーシャイである、だ。
彼らは基本孤独を好むものらしい。

そういえばヘルシンキのバーでも、
私達の目の前に腰掛けた初老の男性は、
たくさんの人の中でひとりぼっちだった。
ぎょろりとした大きな目を見開いて私達を見つめたり、あたりをみわたしたり。
漆黒の闇に光る星みたいに、ぎらぎらした大きな目だった。
ひとりだから恥ずかしいとかみっともないとか微塵も思っていない。
ただ自分がみたいものをみて飲みたいものを飲んでいるだけ。
孤独を飲み干してしまった男性は、清々とした面もちだ。

フィンランドの映画監督 アキ・カウリスマキの「浮き雲」にでてくる夫婦も、お互いの「孤独」を認め合って暮らしている。
どんなにひどい現実が目の前に現れようとも、顔をゆがめることなく淡々と現実に立ち向かって行く。

もしかしたら永い冬が静かに訪れるこの場所に暮らすことで、孤独の小さな芽が育つのだろうか。
だとしたら、映画にでてくる夫婦のように、
バーで飲んでいたおじさんのように、ニヒルでスペシャルな「孤独」を武器に、最後には口の端を少しだけあげて笑う、そんな静かな勝利の経験をみんながもちあわせているのかもしれない。
格好よくてたくましいひとりぼっちがそこらじゅうにいるこの国だから。

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