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13. さらに視野を広げてみる

という感じで額装のたのしみかたについて見てきたわけですが、これらはほんのさわりであり、額装の世界はもっと奥深く魅力に満ちています。まずは身近にある額のついた作品を見るところから注意を払ってみてください。何かしらの発見があるかもしれないし、興味を持つきっかけになるかもしれません。中身の絵だけでなく、その外周にある額縁に目を向けたら、その背後つまり壁紙やどんな場所に飾ってあるか、どんな位置に飾ってあるかといったところに目を向けてもらえると、その作品が飾られた意図を読み解くことができるかも。そういう風に外に向けて視野を広げていけるとうれしいです。そうすることでいつもの風景がまたちがったものに見えるようになるからです。

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額装という技術がほかにいろいろある手作りのものやDIYクラフトの世界のなかでどんなものに似ているかなと時々考えるのですが、個人的には意外かと思われるかもしれませんが、普通のクラフトよりは料理なんかが似ているんじゃないかなと思うことがあります。たとえばフランス料理の高級店みたいに高価な食材を集めて最高の技術で至高の一品を作ることも料理のひとつですし、反対に家の冷蔵庫の中身をかきまわして昨日の残り物をアレンジして日曜日のちょっとしたランチをパパッと作るようなことも料理というカテゴリーのなかに含まれます。そういう幅の広さというか懐の広さみたいなものは額装にもあると思っていて、きちっとした絵画に額縁をつける職人的なことが額装であるという一方で、自分の大切なものや好きなものを趣味的に飾ることも額装だと言えます。ぼく自身は身の回りにあるものでなんとか作品のかたちに持っていくことが好きで、そういうことを可能にしてくれるところも好んでいるところです。旅の思い出を額のなかに閉じ込めてみたり、プレゼントやお祝いに、あるいは季節ごとにシーズンの作品で家のなかを飾って気分を変えるといった自由度があることもよいことだと思っています。料理に作るだけでなく食べるたのしみがあるように、額装にも作るだけでなくそれを飾るというたのしみがあるのですね。

飾るというとこれはいつかぼく自身がやってみたいことのひとつなのですが、(ぼくの記憶が正しければ)『叫び』で有名な画家のエドヴァルド・ムンクは晩年自分の描いた作品を手元に戻して、それらを家のなかに飾る日々を過ごしたそうです。自分の描いた一連の作品をあれこれ壁にかけてはあーでもないこーでもないと自分だけの世界を作るというのはすごい贅沢な時間だなと思います。将来的には、自分の好きなものや思い出を額装した作品をいくつも用意して、それらを組み合わせて家のなかを飾り立ててムンクの真似事をしてみたいと思っています。

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額装を作ることそのものには興味がなくても、なにかほかに作品を制作していて自分の作った作品を額装したいというケースもあると思います。上の写真はぼくが最初のころ、自分で描いた絵に額装を組み合わせてみたものですが、絵のなかの階段部分につなげるようにマットの部分に階段(エスカリエという技法)を作ることで作品の世界観みたいなものを拡張させることができます。普通に額をつけるだけでなくて、作品とそのまわりにつく額をひとまとめにして一体感のようなものを演出することができるので、自分の作品の世界が広がるという可能性もでてきます。

ただぼく自身はわりとこの方法を諦めつつあります。その理由として絵を描く段階で額装の技法のことまで考えてしまい、自由に作品を作れないジレンマみたいなものが生じるから。作品は作品で描き、それに合わせてあとから額装をするくらいな感じの方がうまくいくかもしれません。

ほかにも額装をしていると額自体にも興味が出てきて、市販の額だと好みのものがなくて自分でも作ってみたいなという欲にかられることがあります。額縁に対する興味。街中を歩いていても、ちょっとした額で飾られた作品があるだけでついついどんなフレームがついているか気になって見てしまいます。

まだまだ額装自体も身に付けなくてはならないことがたくさんあり、見たことのない作品がこれからも生まれてくると思うので、日常の視野を広げつつ額装の奥深さについてさらなる研究を続けていきたいと思います。

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