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10. 材料探しの旅は続く

装丁するという言葉から職人の仕事というイメージがあり、工房のような場所に籠もって黙々と作業をするみたいな印象を額装に対して持っていました。パン職人のようにだれよりも朝早く起きてその日焼くパンの仕込みをするほどではないにせよ、なにかこう作業場で道具を巧みに操りながら丹精な仕事をすることのような。

額装をしているほかの人はどう感じているかはわかりません。あくまでぼく個人の考えですが、額装の作業をしている時間ももちろん重要ですが、本質は作業をしていない時間。作業の前の助走期間というか、額装の材料を探している時間や次の作品のための実験をしているときが何よりも大切というかたのしい部分だと思っています。パン屋でいうと仕込みのパート。いや仕込みというよりも、パン粉を選んだり、機械や道具を選定しているとき、あるいは新作のパンをどうしようと試作しているとき。そういう時間が大事だと考えています。もちろん作業場でああでもないこうでもないと作品をこねくり回すことも多いので、額装の本分は作業場にあると思います。でも、やはり趣味性の強い額装にかぎっていえば、フィールドワーク的な材料探しがいちばんおもしろい醍醐味のあるところだと勝手に思っています。

それはたんに額のなかにおさめるカードを探すだけでなく、マットに貼る紙、フレーム、作業用の道具、そしてそれらをひとつにまとめていくためのアイデアというか青写真みたいなものを見つける作業です。こういうものが作りたいというものが漠然としていて捉え所がないようなとき、街のなかに出てそのとっかかりになるようなものを探し歩きます。そして旅先や日常の生活のなかでそうしたものに意識を向けて探している行為がハンティングのようでたのしいのです。

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たとえば外国の食材を多く扱っているお店に入ると、そこは額装となんら関係ないわけですが、パッケージをひとつひとつ見ているだけで何か感じるものがあったりします。とくにビスケットなどのお菓子やハーブティーの箱。デザインもおしゃれなものが多いし、そのまま作品になりそうな、色柄だけ見てもとても参考になるものがあります。

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いまだとネットで探したりということもあるのでしょうが、街のなかで偶然出会えたりすると心が踊ります。その日一日がたのしく思えたり、今日外に出てきてよかったなと思えたり。そのために街のなかを歩くようになったりもします。といってもこれ!というものに出会える機会はそれほどあるわけではないですが、普段からここにいけば何かあるかもしれないというお店をいくつか頭のなかに記憶しておくだけで、いろいろ回ってみようという気になります。

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とくにお菓子のパッケージはかわいいイラストがついているものも多いのでよくチェックしています。たのしいイラストがついているだけで、ハッピーな額装ができそうな(あくまでできそうなですよ)気がしないでしょうか。

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ほかにも立体物にも目を向けます。これはフェーヴというフランスのガレット・デ・ロアというケーキについてくるおまけですが、陶器の小さなものを額装するのもいい。

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箱だとデメルの箱も素敵です。箱をそのままケース代わりに使うのもいいですが、好きなパッケージだとたとえばチョコレートなんかをテーマにして額装してもおもしろいと思います。

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これは本屋で見つけたものですがアンティーク風のブローチ。ブローチとかも少し立体感があって、でも掌におさまるほどの大きさなので額装の素材としてはいいですね。

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デッドストックのコースターと書いてありました。丸い素材って珍しいので円を利用した額装とかおもしろいと思っています。あとはブラックアンドホワイトなので、モノトーンの紙を使ってマットを飾ろうとか、なんとなく完成形が頭に浮かびます。こうした素材の形状から作品のかたちが見えてきたり、使う技法が決まっていく、そういう流れができてくると実際に作るときにイメージしやすくてよいですね。

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日常的に目にするものというと、カプセルトイもテーマに合えば使えると思っています。これはキャンプをしている動物のシリーズ。キャンプをテーマにした作品なんかに添えて使えそうです。

集めるだけ集めて実際に額装するまでに至らないということもありますが、額装というと作るだけでなく、こうして素材を一から探すことも大きなたのしみであり、額装という行為の一部なのだと理解してもらえるとうれしいです。

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