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6.いろいろなテクニック

流れについてはおおよそのイメージをつかんでもらえたと思います。材料を揃えてマットを作り、額縁と合わせて仕上げていく。作業はこれだけなのですが、これだけだとどこがおもしろいのかそのあたりがよくわからないと思います。この作業の流れは職人的な額装がベースになっていて、もしかしたら退屈に見えてしまうかもしれません。

趣味としての額装のおもしろさはその自由さにあります。この流れのなかでいうとマットを作る部分。ここがオリジナリティを発揮できる場所であり、わりと自由に創作できる部分になります。とくにこれをしてはダメというような制約の類はないので、シンプルなルールさえ守っていれば(時にはそのルールさえ破ることもあります)決まりごとはとくになく自由に作品を作ることができます。

とはいえ、さあなんでも自由にマットを作ってみようと思っても、それは大海原に筏で漕ぎ出すようなもので右も左もわからず不安を覚えると思います。あまりに自由すぎて何から手をつければいいのかわからなくなってしまう。そこで先人たちが残した技法(このコラムではテクニックと呼んだりします)を学んで、その組み合わせをあれこれ考えながら自分なりのオリジナリティのある額装を作っていくやり方をとるのが一般的です。

こうしたテクニックはノウハウとして確立されているものがほとんどなので、とくに修行などしなくてもいきなり複雑なテクニックに挑戦することも可能です。もちろん、額装の複雑な仕組みを理解する必要もあるので、一筋縄ではいかないこともありますが。

額装の技法と堅苦しく言ってみても、趣味で作る分には好きなように作ればいいという自由な文化があるので額装以外の技術を積極的に取り入れてもいいと思います。ネイリストならマットにラインストーンを飾り付けてもいいし、絵が得意なら自分で装飾を絵筆を使って描いてもいいです。場合によっては紙自体も自分で作ったりしてもいい。材料となるものをほかの分野から取り入れることで発想がより広がるというのも額装のおもしろみのひとつです。

そんな感じで額装のテクニックはそれこそ星の数ほどありそうなくらい多いのですが、そのうちいくつか代表的なものを紹介してみたいと思います。

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まずはパッスパルトゥ・サンプルというテクニック。パッスパルトゥ(Passe-Partout)というのはフランスの額装ではマット紙の意味で使われます(この言葉にはほかにも合鍵という意味もあり、ジュール・ヴェルヌの作品に出てくるパッスパルトゥという人物は同じ言葉ですがこの合鍵の意味だと思います)。サンプルはシンプル(simple)のフランス語です。この作品はパッスパルトゥ・サンプルというマット紙を2枚重ねた作品になります。またこの額装では額縁は使わずに紙で縁をつくるスーヴェール・ア・オングレという技法を使っています。

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次は基本となるビゾー・クラシックというテクニック。ビゾーという言葉は額装では斜断面のことを意味します。斜断面って言われてもよくわかりませんよね。写真の矢印の先の断面が斜めになってるところのことを言います。このビゾー・クラシックはこの斜断面の部分が45°の角度になっているもののことを意味します。またビゾー・オングレと呼ばれたりもします(3.の歴史でも少し説明しましたが、かつてここの部分を45°でカットする方法がイギリスからもたらされたからだそうです)。額屋さんでマットをカットしてもらうとこの斜め45°のカットされたマットがつくと思います。それとのちがいは厚さと色です。額装では3mm厚の厚紙をビゾーに使うことが多く、普通のマットは2mmのことが多い(3mm厚を見たことはないです)ため幅に違いが出てきて、しっかりとした幅が確保されるということ。あと額装は手作業で紙を貼っていくので、自分の好きな色にすることができます。

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応用してビゾー・クラシックを2段重ねてあいだに色をいれるとこんな感じに仕上げることもできます。

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ビゾー・ドロアというテクニック。このビゾー・ドロアは先ほどビゾー(斜断面)と書いた部分が90°つまり直角にカットされているものを指します。斜断面といっているのに斜めじゃないとか思いますが、日本語にない言葉を当てているのであまり深く考えず直角のものはそう呼ぶと覚えておいたら大丈夫です。

高さを出すことで奥行きを作り、作品にちょっとした立体感を生み出す技法です。写真だとわかりづらいですが少しだけ影になっているのがわかると思います。この垂直にカットした部分に色紙を貼ることでアクセントを入れることもできます。この作品はポストカードのアルファベットのHとIの文字のフォントが変わっていて「HI!」を表現していたので、代わりに白で作ったHとIの文字を抜け落ちたように入れたかったので、高さを出すビゾー・ドロアのテクニックを使いました。

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これはあまり実物を見られた方がいないかもしれません。ビゾー・ファンタジーというテクニックで、ビゾーの部分が幅広になっているのが特徴です。幅を広くとることで、小さな作品をより大きく見せたり、ゆとりをもたせたりすることができます。

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幅広にすることで余白とのバランスを取ることができ、より大きな額縁に入れることができます。中にいれるカードが小さいけれど大きな額に合わせたい、というようなときに使えるテクニックですね。

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ビゾー・ぺロケというテクニック。「2.額装とは」でメルセデスの広告のポストカードに使った技法です。これは先ほどのビゾー・ファンタジーという幅広の技法の変形バージョンみたいなかたちで、幅広の斜断面を三角のかたちにすることで広がりや疾走するような動きが出ます。

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ここまでのテクニックとは少しちがうアントル・ドゥ・ヴェールという技法。これはガラス2枚に挟むことで浮いているように見せるテクニックです。ドゥがフランス語で2の意味、ヴェールがガラスです。

マット部分をいろいろとアレンジすることでオリジナルな額装を作ることができることが少し理解していただけたと思います。この部分をどう自分なりに工夫するか?作品にぴったりとあったテクニックはなんだろう?と考えるのが額装のたのしさでもあったりします。

作っていて思うのは、シンプルなテクニックでも組み合わせたり貼る紙を変えたりするだけでまったく印象が変わることが多いということ。そして、なかに入れる作品と額縁、技法を使って作ったマットがバランスよく馴染むとその作品のための額装ができたかもしれないなと思えたりすることがあるのです。



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