初めて読む作家たちの短篇


焔/津島佑子


津島佑子を読むのは初めてで、この記事は偶然か初めて読む作家が並ぶ。自分はタイトルをかなり意識して読む。『焔』というタイトルからは燃え上がる、情熱、一瞬の美、などを連想していたので、死に連続して出会うという語り始めは正直違和感があった。焔と死はどちらかといえば対義語に近い関係だと認識しているからだ。そんな違和感を抱きつつ読み進めると、焔の持つもう一つの側面の可能性に行き着いた。それは不安定に揺らめく存在、というものである。そう考えてみると確かに作者はかなり奇妙な物語を紡いでいる。不安定という一本の筋を通すと物語が見えてくるというのは興味深かった。
ただ、最後に今まで続いた死の最後が薬品工場の爆発を映す空の輝きだったというのは大きく自分の中で謎として残った。謎を謎としてそのまま放っておいて愛する、というのも自分が読書をしてきた中で重要なファクターとしてあるけれど、この点に関してはどなたかにご教授願いたいところである。


箱の中/河野多恵子


初めて読む作家。しかしこの作家は、他の作品を読んでないので確たることはもちろん言えないが、日常に潜む非日常を描く作家、というにおいがした。わずか4ページでばっちり自らの紹介をこなして見せた手腕は、お見事だ。
ところで、タイトルの箱=エレベーターを指しているのだが、この感想を読んでいる方は実際にこの箱の中で起きるようなことをした経験があるのではないだろうか?告白すると、私はある。全く同じではないが結果はほぼ変わらないことを現実にしたことがある。それをうまく表現したスケッチにも思えた。


残りの花/中上健次


やはり初めて読む作家。名前は知っていたがなかなか手を出せずにいた。ほんの最初の数行読んだ時はリズムが歪に感じたが、読み進めるうちに気にならなくなった。というより、内容を重視して読むよう自動的に脳が切り替わった。この作品は私に「スケッチ」という言葉をまたも思い起こさせた。なんでもないような日々の、少し変わった出来事をスケッチしている作品と感じた。そのスケッチというのは普通の人にとっては簡単に見えて、その実非常に難しい。というのも少しだけ変わった出来事を覚えておくほど人間の脳は容量が大きくないらしいからである。簡単にいうと、覚えていないことが多すぎるということだ。それらをうまく書き留める、文章にするというのは作家にとって重要な役割の一つであると思っている。


喫茶店で本を読むことが圧倒的に多いのだが、コーヒー一杯で居座れる時間は限られているような気がしてなかなかに出費がかさむ。

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