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滑走路

私は春を嫌う。水洟の止まらないのが苦痛である。おそらく花粉であろうが、それも定かでは無い。というのも、外気から逃れ、締め切った六畳一間のアパートの内にいてさえ、絶えず鼻をかみ続ける程であるためだ。もはやティッシュを手放すことも、点鼻薬を点す隙をつくることすらできぬ。人中は掠れ、ひりひり痛む。かと思えば、えいやと窓を開け放ち、澱んだ空気を大気へと逃すと、ぴたりと私の水洟は止み、それまでがまるで夢であったかのように空気が鼻腔を駆け抜けるのを感じるのだ。思うに、これは花粉でなくハウスダストのアレルギーなのではないだろうか。しかし、それでは他の季節の説明がつかぬ。花粉とちがい、ハウスダストは季節を選ばず舞っているはずである。もしくは、私は春の陽気そのものに拒否反応を起こしているのではあるまいか。となれば、春先のこの憂鬱にも合点がいく。
ああ、夏が恋しい。私にとって春は、麗しい夏に至るまでの長い滑走路にすぎないのだ。

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