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島崎藤村著『破戒』感想 一世一代の告白劇。

はじめに

最近、島崎藤村著の『破戒』を読んでいました。大学生のときに読んでおこうと思っていた作品の一つなので、読み切ることが出来て本当に良かったなと思います。

書誌情報: 島崎藤村『破戒』新潮社(2017)

そこで今回は、島崎藤村の『破戒』についての記事です。
名前は知ってるけど読んだこと無い人。
読んだこと有るけどどんな話だっけ?という人。

なんでもござれの記事になってます。
それでは始めていきたいと思います。

以下、ネタバレが含まれます。未読の方は、まず読んで頂ければ幸いです。またこの書籍に対しては、多くの感想があると思います。
しかし、個人の感想ですので、ご了承ください。


『破戒』ってこんな話。私の解釈。

この物語は、差別と、父から受けた戒との葛藤に悩む青年がその戒を破壊し、自分の生きたいように生きる強さを得るべく闘う物語。
私は、このように感じました。

瀬川丑松が戒を破るまでの道のりを描く作品なのです。

そしてその戒とは、自分の出生場所を隠せ。という厳しい父からのものでした。丑松は、これを青年になるまでずっと隠していました。

しかし、同じような出生を抱える蓮太郎との出会いによって、次第にその心が変化していくのでした。彼は、その出生による数々の嫌がらせと形容するよりももっと酷い扱いを受け、かつ病に侵されていました。

しかし、彼は、自由を求め続け、世間へと言葉を投げかけ続けていたのでした。そんな蓮太郎の姿を観て、書籍から生きる勇気を得ていた丑松は、次第にそれを告白するべきか、人生を大きく変革する決断へと迫られていく…

というお話でした。

私は、まず破戒というタイトルが全然分からない状態で読み続けました。そして、話を読んでいく内にこのタイトルに秘められた力強さ。作品の持つ力を感じずには居られませんでした。

次に、私が心に沁みた点を三つ書いて終わりたいと思います。

ここが、心に沁みた。〔3点〕

「風景描写」

まず初めに、島崎藤村の作品で私が好きなのは、やはり「初恋」の詩です。私もよく詩を書きますが、あんな詩を書きたいと思ってます。

「前髪染めし…」から始まる島崎の詩には、光景が脳裏にじんわりと浮かぶ文章力があると思います。そうした光景を捉える力がこの作品では、随所に見られ、まさに島崎の文を存分に味わえる作品であると思いました。

具体的には、丑松が覚悟を決めた場面、ないしは蓮太郎が死去した後の悲しみから決意に向かう朝の場面です。一部引用しますと、

冬の朝日が射して来た。(中略)例の銀杏の枯々な梢を経て、雪に包まれた町々の光景が見渡される。板葺の屋根、軒庇、すべて目にはいるかぎりのものは白く埋れて了って、家と家との間からは青々とした朝餐の煙が静かに立登った。

島崎藤村『破戒』新潮社(2017)p.364.

いかがでしょうか。丑松の静かな決意が私は感じ取ることができます。こうした情景描写がふんだんに盛り込まれているのがこの小説の一つ目の魅力であると考えます。

「お志保」

お志保の登場については、裏の解説の方も述べられていましたが、言うならばヒロインの彼女が出てくる場面はそう多くはないのです。彼女についての描写は、お志保自身の環境の辛さや変化、あるいは丑松が密かに心に降り積もる雪のような想いだけです。つまり、間接的な描写によってその輪郭が描かれていました。だからこそ、最後の場面で丑松と共に生きる決心をする際に、丑松の親友が言うように「しっかりとした女性だぜ。」という言葉がぴったりはまるように感じるのでしょう。あの場面での言葉しびれました。

「瀬川丑松」

丑松ほど内的な感情がふつふつと沸き上がり、悲しく、やさしさに溢れた人物は中々いないように感じました。彼は葛藤を抱えながら、小学校での先生として、非常に生徒に慕われています。そんな纏わりつく社会からの視線や圧力を受けながらも、懸命に、極めて懸命に生きていく姿は、どうしたって心に残ってしまいます。そんな姿が映し出されているからこそ、この小説は、近代小説の金字塔であるという言葉がこの小説の形容にあてがわれていると予想します。だからこそ、最後、あやまらないでほしかった。それでも彼の勇気には感服致します。本当に魅力的な人物がまるでそこに本当にいるかのように立ち上がって来る島崎氏の文には感動しました。


おわりに。名作はやっぱ良いな。


いかがだったでしょうか。個人的な感想にはなってしまいましたが、名作や古典文学に対して、こういう話なのかとほんのちょっぴりは思って頂けたのではないでしょうかと思います。

丑松の生きる姿、もがく姿と言った方が適切かもしれませんが、
この小説に映し出される世界の移り変わりを
日本人として原文で読める事。とても嬉しく感じました。

もし、読んだことが無い方は
是非、店頭にて改めて名作に触れてみる春。というのもよいでしょう。

最後まで、読んで頂き
本当にありがとうございました。

けむり

⭐️参考文献
・島崎藤村『破戒』新潮社(2017)

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