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恋は支配するもの、愛は従属するもの。

駆け出しのライターとして出会ったメンバーたちが、毎回特定のテーマに沿って好きなように書いていく「日刊かきあつめ」です。

今回のテーマは「#愛とか恋とか」です。

私にとって、「恋」は相手を支配するもので、「愛」は相手に従属するものである。

……そこまで言い切るとなんだかおさまりが悪く、すぐにでも取り下げたくなるのですが、まあ一旦このまま進めます。なぜなら〆切が近いから。これを書くまでに、すでに2稿ほど没にしているのです。そろそろ決めないとまずい。ちなみに、ここ最近はずっと「だ・である調」で書いていたのに、今回は珍しく「です・ます調」になっているのも、迷走した結果です。(これなら書けるかな?という悪あがき。)

さて、「恋」と「愛」の違いについて、昔から認識していたわけではありません。というか、まともに考えたことがなかった。ただ、この年になって振り返ってみると、妻と出会うまでの恋愛はすべて「相手を自分の都合の良いように支配する」ことばかり意識していて、究極的には「言うことを聞いてよ」と言っているに過ぎなかったなと思うのです。

それが変わったのは、たぶん、妻にはじめて告白したとき。妻にはじめて告白したとき、私はフラれました。ひどいフラれ方をしたわけではありません。単に、異性としては見ていなかった、的なやつです。

そういうとき、以前の自分は「自分の告白に応じないなんて!」と怒ることでショックを和らげようとしていました。ものすごい暴論です。「フラれて怒る心理」で検索すると、「ストーカーみたいな思考回路の持ち主です。逆恨みと言います。」との解説がありました。全くその通りだと思います。

そんな私でしたが、しかし妻への気持ちはどうしても諦められず、彼女に振り向いてもらうためにプライドを捨てなければいけないのであれば、自分を変えようと素直に思えたのでした。それが、自分の中で「相手を支配する恋」から「相手に従属する愛」へ切り替わったタイミングです。

支配やら従属やらという単語を使うとなんだか大げさに聞こえるかもしれませんが、たとえばペットや子どもに向ける愛情と似たようなものです。……だとすると、「ペットや子どもに向けるのと同じ愛情を奥さんに向けている」ことになるのかな。うーん……まあ、そんな気もします。全く同じではないけれど、よく似ている。

我が家には猫が1匹と、1歳半になる息子が1人いるのですが、やつらはこちらの都合なんて考えてくれません。ただひたすらに従属して、どうすれば彼らがすこしでも楽しく過ごせるだろうかと、ご機嫌をうかがう日々です。

彼らといると、自分のやりたいことなんてぜんぜんできない。子どものころから大好きだったゲームも、すっかりほこりを被っている。もっと勉強したいし、本だって読みたい。じっくり取り組みたい仕事も見つかった。けれどそんな目先の欲望はほとんど叶わない。

文字にしてみるとずいぶん不自由そうな暮らしですが、不満らしい不満はありません。それどころか、「自分の思い通りにいかない」ことがとても気持ちいい。

なぜなら、現状こそが自分の望みを尊重した結果だから。「自分の思い通りにいかない人生」を選んだのはほかならぬ自分自身で、その結果として「妻と一緒にいる」という一番やりたかったことができている。むしろ、自分がやりたいことはもともと"それ"だけでした。勉強も、仕事も、どちらも妻や家族との将来を考えるからこそやりたいと思えるもので、一人でやっても仕方がない。だから今日もせっせと家族みんなのご機嫌をうかがいます。

会社員だったころは、上司のご機嫌をうかがうのが嫌で嫌で仕方なかったのに。「こう言えば喜ぶんだろうな」と分かっていても言いたくない、ひねくれものでした。それが、「この人になら尽くしたい」という相手を見つければ、変わるものですね。

自分は幼少からわりあい奔放に生きてきたので、どこかで「誰かに尽くしたい」願望があった……のかどうかは、ちょっとわかりませんが。妻と子どもと猫のために人生をささげる感覚は、とてもすがすがしいです。

そんなわけで、恋は支配するもので、愛は従属するものというお話でした。

別に、これこそが愛だ、なんて言いたいわけではありません。実際、良いとも悪いとも自分では判別がつかない。もし妻の性別が違ったとしても、この気持ちはあまり変わらないかもしれない。それはそれで、恋愛感情としては歪なのかもしれない。それでも、いまの私にとってはこれが愛だという話です。

きっと数年後には、また変わっているでしょう。気持ちは変わらなくても、表現する言葉はきっと変わっている。

文:市川円
編集:アカ ヨシロウ


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