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ゲーマーだったおかげで楽しめた?東京2020オリンピックの感想

今回の日刊かきあつめのテーマは「#スポーツ観戦の思い出」である。このタイミングにこのテーマとくれば、東京2020オリンピックの感想を書くしかあるまい。

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これまでまともにオリンピックを見たことがなかった。しかし今回は自国開催である。一生のうちに一度あるかないかの機会だ。さすがに見ておかねば、と使命感のようなものが湧いて、開会式から見ることにした。

開会式から見るといっても、「一応テレビをつけておこうかな」くらいのもので、しばらくはパソコンやスマホをいじりながら片手間に見ていた。

ところが選手の入場行進が始まるやいなや、テレビにくぎ付けになった。聞き覚えのある音楽が流れ始めたからだ。厳密に言うと、入場行進の少し前。楽団が楽器のチューニングをしているときに、管楽器の特徴的なメロディが少しだけ聞こえた。てっきり遊び心で吹いたのかと思い、笑ったのを覚えている。でも、遊びでもなんでもなかった。

聞こえてきたのは、ドラゴンクエスト「ロトのテーマ」だ。発売当時、ソフトを巡って恐喝やら窃盗やらが多発したほどの人気を誇るゲーム、と言えば、ゲームをやらない人でもなんとなく伝わるだろうか。

(NHK公式のハイライトにはチューニングの部分が入っていなかった。興味のある方はそちらも探してみてほしい)

東京オリンピックの選手入場BGMに、日本のゲーム音楽が採用されたのだ。この意味が、意義が、ゲームをやらない人に伝わるだろうか。ある人は、「日本のゲームが世界に誇れる文化になったんだなぁ」なんてコメントしていた。しかし個人的にはちょっと違うと思っている。

世界に誇る、どころか、日本にすら誇れていなかったのだ、日本のゲームは。ゲームは日陰の文化で、表舞台に出すものではないという暗黙の了解のようなものが、ずっとあった。メジャーとかマイナーとか、そういうくくりではない。たとえば「趣味は何ですか?」という質問に対して、「ゲームが趣味です」と答えるのをためらってしまうような空気が少なからずあるのだ。それは、ゲーマー側の自信のなさも関係しているのかもしれない。

ただ、だからこそ、全世界が注目する、特に自国開催である日本人の目が集まるこの場でゲームBGMが採用されたことに、特別な意味があるように感じたのだ。

ロトのテーマのイントロを聞いた瞬間、そんなあれこれが頭を駆け巡って、血の気がサーッと引く感じがして、鳥肌が立つほど興奮した。そして目がうるむほど感動した。それほど感情が昂ったのは、ここが転換点になるかもしれないと思わせてくれる何かがあったからだ。あの瞬間、私の中で東京オリンピックは「ビクビクしながらうかがうもの」ではなく「ワクワクしながら楽しむもの」へと明確に変わった。今回のオリンピックは、開催直前までネガティブなニュースが本当に多かった。だからこそ、それを一瞬にして忘れさせる音楽の偉大さを改めて目の当たりにしたのである。

そんなロトのテーマをはじめ、ドラクエの音楽を支え続けてきたすぎもとこういちさんは、9月30日に逝去された。開会式でご自身の制作された楽曲が演奏されたとき、どのような気持ちでその光景を見ていたのだろう。ひょっとすると、すでに落ち着いて見ることのできる状態ではなかったかもしれない。ただ、あの会場で、あのイントロが流れた瞬間、多くの人が勇気づけられ奮い立つ感覚を覚えたことが伝わっていたらうれしい。

楽曲にすっかり心をつかまれた結果、1番目のギリシャから205番目の日本まで、計2時間におよぶ入場行進をほとんど食い入るように見た。入場行進を見るまでは「開会式だけでも見ておこう」くらいの気持ちだったのに、見終える頃には「明日は何から見よう」と観戦モードになっていた。

(ちなみにロトのテーマ以外の楽曲にも反応していたのだけど、すべて書きだすとキリがないので今回はすぎやまこうちさんへの追悼の意も込めて、ロトのテーマに絞って書かせていただいた。個人的にはカエルのテーマやロボのテーマも普段から作業用BGMにするくらい大好きだ)

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開会式ですっかりその気になった私は、もちろん翌日からの競技もがっつり見た。

スケートボードやスポーツクライミングなど、今回から新たに追加されたアーバンスポーツは素人目にも分かりやすく楽しめたし、国を越えて選手が互いを称え合う文化も最高だった。一方で、体操や飛び込みといった洗練された競技の、針の穴を通すような繊細さに圧倒させられた。

個人的なハイライトは卓球混合ダブルスだ。卓球混合ダブルスの大躍進は目を見張るものがあり、特に準々決勝の最終第7ゲーム。2-9まで追い込まれてからデュースの末の大逆転は、金メダル獲得の瞬間より感動した。

(動画では尺の都合もあって、結構あっさり勝利したような印象になっていた。興味のある方は下記で最終セットだけでもぜひ見ていただきたい。最終セットは2時間15分50秒から)


最後までいろいろな競技を楽しむことができたのは、開会式で気持ちが盛り上がったのに加えて、日本人選手の活躍が目覚ましかったというのも大きい。おかげで、勝ち進んでいるかどうかも関係なく、リアルタイムで見れる競技を片っ端から見るようになった。

ワールドカップ開催時でさえテレビをつけない自分が、まさかサッカーの試合を90分見続けられるようになるとは思わなかったし、ゴルフのラウンドが気になって仕事が手につかなくなるなんて想像だにしなかった。

男子バレーボール準々決勝でアニメ「ハイキュー!!」ばりのフェイクトスが見れたときには、思わず叫んでしまう始末だ。

(少しわかりづらいアングルだが、ブラジル戦でのフェイクトスが紹介されている)

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そんな具合で、「どの競技のどこがよかった」を書き始めればきりがないのだけれど、「どうしてそんなに楽しめたのか」をつきつめていくと、やはり開会式からしっかり見たのが良かったのだと思う。特に選手入場だ。選手入場を見ているうちに、自然と各競技に出場する各国の代表選手の情報も知ることができた。

そして開会式をしっかり見れたのは、ゲームに対する思い入れがあったからに他ならない。つまり、東京2020オリンピックを楽しめたのはゲームをさんざんやってきたから――というのが今回の話である。

ゲームにあまり触れたことのない人は、名実ともに国民的ゲームとなったこの機会に、プレイしてみてはいかがだろう。

文:市川円
編集:鈴木乃彩子

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