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自律分散型エンタメIP

NFTが"株式"の代替となるのであれば、対になる"法人"の代替になるのはIPなんじゃないかと最近思っている、という話。

(G)I-DLEのソヨンが、ミュージックビデオの制作に11億ウォン(約1億2300万円)がかかったと告白した。

kstyle

韓国のトップアイドルがクリエイティブにかける予算は莫大だ。分かりやすい例だと、MV1本で製作費予算700万からで、大手事務所だと1000万以上、トップティアのアイドルは7000万円規模なんだと。ぜ、ゼロが違う・・・

↓ソースはこちら

じゃあ、どこからそのお金が出てくるの?

例えば、HYBEの場合。

HYBEは2月26日、2023年の連結決算を発表し、売上高2兆1781億ウォン(約2,463億円)、営業利益2,958億ウォン(約334億円)をそれぞれ記録したことを明らかにしました。

確かに、めちゃめちゃ業績がいい。そりゃあ予算ありますわね。。。
※(G)I-DLEはHYBEではなくCUBEエンターテインメントです

でも、これは卵が先か鶏が先かみたいな話で、新人アーティストや新しい事務所が、みんながみんな高予算をかけられる訳ではない。予算が潤沢だからクリエイティビティが高くて人気が出て、でも人気がないうちはそんなことができなくて、でも予算をかけないと人気が出なくて・・・

そもそも、本来のIP企業の本質は、投資・育成・回収だ。法人が予算を集め、高いクオリティのIPを作り、マネタイズしていく。なので、鶏が先なのである。(けど実はその前に、ほんのちっちゃな卵が先にあるはずだから、じゃあやっぱり卵…?という議論は、まあいいや)

つまり、アーティスト(IP)から見たエンタメIP企業というのは、スタートアップにおけるVCのような存在だ。資本と知見の両面から新人をサポートし、大きく育て、成長に合わせて利益を受け取る。

で、このバイラルヒット全盛の時代において、新しいアーティストは、下記のどちらかに当てはまる。

①いわゆるSNSで"バズった"出自不明のアップカミングなアーティスト
②いわゆる大手が育成後にドカンとプロモートした新人

それでいうと、こと日本に関しては、後者の新人創出のエコシステムが青息吐息な現状がある。少なくとも、僕のいた大手はそうだったし、他社の友人に聞いても状況は同じだった。

業績が良くない→予算がかけられない→アーティストがヒットしない→業績が悪くなる

負のループである。以前書いた通り、国内の市場を取り合う形だから当然だ。しかしエンタメ業界もタフで、ライブエンターテイメントやデジタル、他にもいわゆる推し活的な文脈でキャッシュポイントを広げられていて、特に最後のファンビジネスは昨今(というより前から?)、色々と問題になっている。例えばファンがアイドルのCDを「積む」が、結局全部捨てられて全然エコじゃない、みたいな。

今の音楽業界、とりわけCDビジネスは大きく複雑な問題を抱えています。90年代から変わらない利益の分配構造やそこからの予算の割り当てに苦しむアーティストやアイドルも多く、時代が変わっている中でCDの売り上げという指標を継続して目標に設定される結果、ストリーミングへの移行が遅れチャンスを逃したり活動を続けられなくなった方々もいます。環境への影響も無視できないところまできています。10年以上も前から開封されずに捨てられる大量のCDゴミが度々ニュースにもなりました。これに対してもここまで音楽業界が具体的に対応策を示せなかった事を改めて問題視するべきタイミングだと思います。

BMSGから音楽業界を持続不可能にしないための提言

個人的にはCDなんていらなくない?って思う派だが(今はね。学生時代にはレコードも含めて数百枚コレクションしていた)、CDはとにかく利益率が高い、いわゆるドル箱で、エイベックスとか90〜00年代ぐらいに爆裂成長したレコード会社は基本的にこれで儲けていた。

で、当然もっと売りたい、となる。そこで賢い誰かが「CDに写真とか握手券とかつけね?そしたらもうグッズじゃね?」って言い出して、今の日本の"CDに音楽以外の付加価値をつけて売る"という商流ができている。

だが、ファンからすれば、本当に欲しいのはCDではないのだ。今や音楽なんて無料で聴ける。でも、欲しいものを買うにはCDを買うしかない。しかも、何枚も買わなくちゃいけない。だから買う。

つまり、CDを売りたい企業サイドと、もっと好きを追求したいファンサイドで、ニーズのずれというか、ミスマッチが起きている。

冒頭にあった、華やかなクリエイティブの原資ってどこから出てきたの?っていう答えは、もちろん「ファンのお財布」だ。(なお、CDに限らない。あくまで一例)

この図が悪いかと言うと、そうとは言い切れない。ビジネスだから、お客さんからお金を集めて次に投資するのが正解だし、実際、ファンだって喜んでいたりする。その原資の結晶として生まれたクリエイティブを見ると、やっぱり心が躍ったりする。

少なくとも、一時的には。

それに、他の業界でも同じようなことはある。子供向けのお菓子に玩具とかシールがついてるのと一緒、みたいな。チョコエッグとか、今300円弱ぐらいするらしい。高けェ!ちなみに、僕はビックリマンチョコとかのウエハース美味しく食べる派。(知るか)

エンタメ業界は、そういった消費行動がやや極端なのだ。世界的に見てSDGsやら脱炭素やら電気自動車やらとエコへの関心の高まりがあるが、それでいうとエンタメ業界って、全然エコじゃないよなあ・・・

ちなみに、このCDについての問題は、実はHYBEをはじめとするアイドル事務所、ないしは韓国も同じ。先日のお家騒動も、筋としては「クリエイティブの模倣に関する考え」「韓国特有の男性社会」とか色々な見方があるが、本質的にはこういうところの「ファンから搾取しまくって金儲けして、音楽産業ってこれで本当にいいんだっけ?」という考え方の違いからきているんじゃないか、と個人的には思う。(ただの主観です)

つまり、世界のどこに行っても、強い光があれば濃い影があるということ。

で、その一番の負は、エンタメというもの自体があくまで「掛け捨て型」な消費行動であることなんじゃないか、と思う。

好きなものに時間とお金を使う。欲として当たり前のことだし、素晴らしいことだ。その経験が素敵な時間や、人との繋がり、世界への興味をもたらしてくれる。ひいては人間としての成長にも繋がる。

しかし、それは本当にそうだろうか。

僕は音楽に熱中して、確かに青春時代を彩り豊かに過ごすことができたし、音楽をする過程でたくさんの仲間もできて、今でも一応は好きなことを仕事にできている。しかし、頑張って入った大手企業では搾取同然の働き方を強いられ、会社を恨もうにもそもそもその会社が儲かっていないんだから仕方ないという。(ちなみに、実際に恨んではいない。愛憎が入り混じっているだけ)

入社の時にはキラキラな説明を受けてドキドキしながらこの世界の門戸を叩いたが、中に入ればそこはもはや世紀末だったと。地元を出て都内の大学に行かせてもらって、名の知れた大企業に勤めて、実は年収300万円で奴隷のように働いてるなんて、親不孝もいいところだ。俺、お母さんにそんなこと言えなかったよ。(第2話参照)

これらも全て、音楽なんかを好きになってしまったからこそ、半ば盲目的に好きな道を突っ走り、気付けば袋小路に入ってしまった自分の責任だ。(世界は少し歪んでいるけれど、僕の人生がこうなったのは決して世界のせいではない)

で、こういう人って僕の周りに結構いる。

勉強やスポーツを頑張った人ってビジネスの世界でも優遇されるけど、音楽やエンタメを頑張った(熱中した)人って、実はあんまり優遇されない、と個人的には思う。起業家では多いように感じるけど・・・どうなんだろう。

少なくとも、音楽業界にいる僕の周りの友人は皆、口を揃えて「給料が上がらない」「会社が変わらない」とボヤいている。だって、音楽が好きで、音楽業界に来て、音楽業界の多くは業績が良くないのだから。(でももちろん、学生時代に音楽をしていて今は外コンでクソ忙しくしてます、みたいな人もいるから、一概には言えないというか、主観が過ぎるだけかもしれない)

他にも例えば、今、好きなアイドルを推している若者がいて、ちょっと生活が傾くくらいの熱量を注ぎ込んでいるとして、それが数年後、いくらの価値になっているのだろうかと考えると、かつて似たような経験をした僕(今や30歳のおじさん)からすれば、少しゾッとする。

僕自身、音楽をしていた時に大学生の身分でプリウス新車で買えるくらいの金額を投資したが、実際に自分に戻ってきたお金は・・・ほんの雀の涙。コレクションしていたレコードたちや音楽機材はメルカリとディスクユニオンに売ったら、確か8万円くらいになったような、ならなかったような・・・涙

もちろん、お金とかじゃないのだ。好きなことだからそういう、お金とかで測れるものではない。そんな全てをお金で換算するだなんて寂しいことだし、卑しいことだ。

でも。

それでもどこか、あの時の情熱を今と比較して虚しいと感じてしまうのも、嘘偽りない本音だ。

で、こんな記事を見つけた。

フィナンシェのようなスタートアップ企業にはストックオプション制度というものがあり、社員も会社の株式を取得できます。だからその会社が大成功を収めると、社員も一獲千金を手にできるかもしれない。ただ雇われているのではなく、自分もオーナーの一人、主体者だという自覚があるので、すごく頑張ります。これをファンや顧客にも広げていこうというのがWeb3やDAO、FiNANCiEのコンセプトです。参加して結果的に大成功を収めると、自分にも大きなメリットがある。だからみんなで一緒に頑張る。これがイノベーションの部分ですね。

real-sports.jp

FiNANCiEというのは国内の、NFTトークンを発行してクラウドファンディングをするサービスで、オーナーにはプロスポーツチームや箕輪厚介氏ら著名人が参加している。

このインタビューではつまり、「web3はエンタメを"投資型"に変革する」ということを言っている。つまり、今後世界は自律分散型になり、頭に対して手足のある中央集権型ではなく、それぞれが横並びのステークホルダーになると。そうすると、エンタメの消費が投資に変わって、好きなものに費やしたお金が、自分の資産になる。

で、それってスタートアップ(法人)に対する株式の分配(SO)と同じだよね、と。今後は会社というのもそうなっていって、株式会社ではなくトークン式会社になるのだと、Web3起業家の渡辺創太氏も発言していた。

↓参考

個人的に、この理論が最も早く顕在化するのはエンタメIPではないか、と思う。なぜなら、消費者のレイヤーが最も低いからだ。トークン式会社に出資するような人は一定リテラシーの高い人だが、好きなコンテンツに投資するのは一般の方だからだ。

そしてこれは、クリエイティブ制作を行うIP企業に対するソリューションでもある。極端な話、「BTSよりすごいコンテンツを作りたい!でも予算がない!じゃあトークンを発行しよう!やった!1億集まった!」ということができれば、その企業も、アーティストも、出資するファンもゆくゆくはwinになる。

となると、きっとそこには新しい市場ができあがっている。ファンというのはスタートアップで言う個人投資家で、既存のレコード会社や事務所というのは、VCやアクセラレーターみたいな存在になる・・・のだろうか。IPにはバリュエーションがついて、ラウンドによって適切なチケットサイズやトークン発行数が決まっていて、みたいな。

自律分散型IP・・・DAIP?ダイプ?ディーエーアイピー?

・・・ゴロ悪いなあ。

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