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『玄洋社-封印された実像』(石瀧豊美)

石瀧先生との出会いも随分と以前になるが,実際に福岡でお会いする前から,そして今に続くまで,多くの刺激と教示をいただいている。部落史の研究者の中で,私が最も影響を受け,私の認識や見方,考えに最も近い理論を提示してくれているのが石瀧先生である。私の部落史研究・部落史学習を理論的に支えてくれていると言っても過言ではない。
石瀧先生のフィールドは広い。部落史だけでなく近世・近代の歴史を網羅する。

本書の内容についても一応は彼のブログ(現在は修理中)で読んでいたが,実は私は玄洋社も頭山満も,その名前と簡単な内容,それこそ日本史の授業で習う程度に近代史の通史を加えたくらいしか知らなかった。正直に書けば,それほどの興味もなかったので,史料に基づいて実証を積み重ねて研究される先生のいつもの姿勢に敬服しながらも,本気で読んではいなかった。玄洋社や頭山満が日本近代史においてどのような位相にあるのか,それさえも考えようとはしていなかった。

大学時代,本書でも批判が展開されているが,ハーバート・ノーマンの「日本政治の封建的背景」を読んだことは覚えているが,その最終章で福岡玄洋社が論じられていることは忘れていて,本棚の奥から取り出して確認したほどだ。だから,私の理解は国家主義結社という程度のものだ。

本書は大部である。すぐに一読して感想を述べることができる代物ではない。時間が許すときに,近代史を概観しながら,じっくりと読みたいと思っている。

本書のように,地域史・民衆史の視点から掘り起こして史実を再認識する石瀧先生の姿勢が私は好きだ。その姿勢が部落史研究にも貫徹していて,だから史実が内包している隠された真実を描き出せるのだと思っている。
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石瀧先生の著書に関しては「部落解放研究」(169号)に掲載されている上杉聰氏の書評がわかりやすい。私も精読させてもらい,多くの示唆をもらっている論文集である『筑前竹槍一揆の研究』に関する書評であるが,石瀧先生の仕事の重要性を端的にまとめている。(社団法人部落解放・人権研究所のHP内「部落解放研究」

上杉氏の問題点の指摘に関しては疑問もある。
民衆が解放令反対一揆に走った意識や行動の理由(歴史的背景)は,私にとっても最大の関心事であり,研究の核心であるが,それは一様ではないと思っている。同様に,渋染一揆においても,その行動に至った理由は判然としていない。
石瀧先生の同書(『筑前竹槍一揆の研究』)も言及はしているが完全とは本人も考えていないだろうし,今後の研究課題と思っているはずだ。石瀧先生がブログで展開されている「横田徐翁日記」の分析と考察などを読むと,当時の民衆の意識の集約であったと思う。

私としても,本書や上杉氏の関連書を参考にしながら,できるだけ早く「明六一揆」に関する論考をまとめたいと思っている。

部落史・ハンセン病問題・人権問題は終生のライフワークと思っています。埋没させてはいけない貴重な史資料を残すことは責務と思っています。そのために善意を活用させてもらい、公開していきたいと考えています。