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海馬に棲む鳥(再掲)
私の海馬の片隅に眠る、あの影を私はいつまでも追い出せないでいる。それは小さな鳥の姿をしていて、何と言う鳥かは分からないが、青い嘴を持っており、体は薄緑がかっていて翼の先が微かに桃色をしている。瞼の開いているのを見たことがないので瞳の色までは分からないが、まつ毛はとても細く、長い。尾はさほど長くはない。その先が少し薄墨がかっていて、体や翼の色に比べてアンバランスな印象がある。いつも地面に座っているのでよく分からないが、どうやら片方の脚は失われているようだ。それでも飛ぶにはあまり問題なさそうだが、しかし飛ぶどころか翼を広げた姿すら見たことがない。ただいつもじっとして、瞳を閉じたまま静かに座っている。鳴き声を聞いたこともない、あるいは鳴かないのか、鳴けないのか。それすら定かではない。ただ、そこに居るのである。 追い出せないでいる、と言ったのは飼っているつもりもないのでいつかは出て行くのではないかと思っているのだが、どうにもその気配がないので、いつまでもこんな処に居ないで出ていけばいいのに、と思っているという程度の事だ。 せっかく翼があるのなら、羽ばたいて飛んでいけばいいのに。こんなに暗くて狭い処にうずくまっていないで。そう思う反面、そこに居たいのならいつまででもそうしていればいいとも思っている。どのみち邪魔にはならないのだから。 ただ、あの鳥の名前がいつか知れたらいいのにと思っている。