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高齢化する地域に 必要なことを 自らつくる地域へ

◎介護サービス提供と地域づくりの視点の違い
地域包括ケアシステム、中でも総合事業が打ち出され、各地域に展開される中で、推進を担う自治体、地域包括支援センター、社会福祉協議会などの現場から「難しい」「どう対応すればよいかわからない」「関係者で考えが合わない」などの声が聞かれた。それは、事業の前提となっている見方・考え方(視座)が、これまでの介護サービス提供とは大きく異なっているからだ。両者の視座の違いには、次のような要素がある。

①サービス提供から、地域づくりのコーディネートへ
従来は、行政や事業者が介護の必要な人に介護サービスを提供してきたが、予防や互助では、要介護者だけでなく元気な高齢者もめた地域の多様な人が対象となり、その人たちの担い手としての関わり方や動き方の支援が求められる。専門職の役割が、提供者↓利用者というサービス提供から、地域づくりのコーディネートへと変化する。

②起きた問題への対応ではなく、問題の予防を働きかける
介護サービス提供では、身体機能や生活の課題を明確にし、起きている問題に対応してサービスを提供している。しかし、介護予防は、まだ何が問題か、誰に何が本当に必要なのか明確になっていない状況で、住民に働きかける必要がある。

③高齢者を助けられる存在ではなく、担い手としてみる
介護サービス提供で対象とする高齢者は「助けられる」存在であった。しかし、予防や互助では担い手として「助ける」「自ら動く」存在となる。

④提供者主導ではなく、住民に任せる・委ねる 
介護サービスでは、何のサービスを、いつ、どのように提供するかは、利用者の声を聞きながらつくられたケアプランを基に専門職が提供する。しかし、予防や互助は、日常的に何を行うか一つひとつを住民に任せる、委ねることになる。

⑤標準的な型がなく、地域ごとに独自の答えをつくる必要がある
介護サービス提供では、要介護の認定の方法、課題への提供サービスの内容、実施費用などは、国全体で標準が定められ、それに則って各現場で実施されている。しかし、予防や互助の地域づくりを進めようとすると、地域によって高齢化の進展、住民同士のつながり、住宅、専門機関・施設、地域活動、交通状況、風土・文化などの状況は大きく異なるため、地域ごとに独自の答えをつくる必要がある。

◎地域を見る2つの視点――専門職からの視点と生活からの視点
上記にあげた様々な視座の違いの奥に共通しているのは、地域づくりでは専門職からの視点だけではなく、地域に暮らす人の視点が大切になってくることだ。

介護サービスの提供者は、要介護者を助けることが仕事の多くを占める。より重い人のケアには専門性が求められ、業務量も多くなる。

また、生活や地域の課題の深刻さもよく見える。費用などお金の動きも大きい。どうしても要介護度の高い人への対応が先に立ち、「要介護ではない人」まで手が回らないと感じてしまう。また、介護予防では、〝要介護状態に陥らないように〞運動や脳トレといった機能強化を重視する。また、地域に対しても、課題のある人を早期に発見する「見守り」や悪化した人を支える「助け合い」など、専門職として「これをしてほしい」という要望が中心になる。

しかし、地域で生活する多くの人は〝要介護にならないために〞生活をしているわけではなく、「今の健康で、楽しく暮らせる毎日を続けたい」と考えている。そして、もし要支援や要介護になっても〝暮らし続ける〞ことができればと考えている。

ここで注意したいのは、〝要介護状態に陥らないように〞〝今の暮らしを続けたい〞は同じ状況の裏表のことではあるが、発想の起点が違っている点だ。例えば、専門職からの視点では、「筋力維持の運動や脳トレに参加する人を増やしたい」という発想になるが、生活からの視点では「コーラスグループに通うのが、私の健康法」ということになる。決められた運動や脳トレよりも、コーラスに通い、歌の練習で体を使い、歌を覚えたり、運営を考えたりすることで脳を活性化させることの方が、介護予防の効果は大きい。そうわかっていても、専門職からの視点では、運動や脳トレは介護予防の領域だが、コーラスは〝趣味の活動〞で自分の担当外と分けて考えてしまいがちになる。

専門職からの視点が間違えているわけではないが、介護予防など幅広い生活者のテーマを扱うには「生活からの視点」を自覚し、両方を使いこなす必要がある。

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